白地に十字架を、その左上に三本の百合が描かれ
私はフィズ・アーチペラゴーニュ。
職業はスカイトバーク王国王位継承11番目、末姫だった流浪の要人。
いやあ、自分で言っててもかっこいいと思う。
でも、文無しなのは内緒。
だって、これがバレたら――(ちらっと、周囲を見る。
だって、バレたら求心力なんてなくなるよ。
こんな小娘に何が?!
まあ、人に害をなす程度の魔法(=数が限られてるから、タゲを見誤ると...)と、齧ったていどのナイフ術くらいしか取り柄がない。一緒についてきた侍従長が頼みの綱ではあるけど、結局はおじいちゃんだから...寄る年波には勝てぬなんて言い出したら、私の命運も尽きるわけで。
ちらりと、侍従長へ視線を向けた。
彼は優しく微笑みで返してくれた。
今でこそ侍従長って言ってるけど。
王国では指折りの戦士だった。
誰を基準にすればいいだろう。
頭髪は今でも十分なほどあって、魅惑的な真っ白い長髪。
左右の側頭部は短く刈り上げ、頭頂部から背中まで長い髪を...私のあげたリボンで結いている。
なんというか律儀なひと。
見た目は、お世辞にもイケメンとは、ね。
ただ、背筋を伸ばして立つと――騎士をもたじろかせるだけの風格がある。
これが歴戦の戦士然とした佇まいなのだろう。
侍従長としての獲物は仕込みの直刀・レイピア。
刺突剣だ。
「如何なさいました? 姫さま」
ずっと見てたからかもしれない。
片膝を突き、私の目線にまで体をくずしてきた。
「ううん、ちょっと不安に」
「やはりご家族のことを?」
「ま、それもある。でも、今の状況...これ、本当に上手くいくのかな?」
資金力だ。
今は、逃げる時の持ち出したモノで食いついないでいる。
ほとんどの宝石は質に流れたし、王族という身分証明だって身体に浮かぶ紋様というだけで、実のところ真贋に必要だったハズの装飾類も売却済みである。それを使って偽の皇女だって名乗れるだろう。
「そんなご心配ですか」
彼は微笑み、目端の涙を指で拭った。
それって涙流してまで笑うこと?
「たとえ偽物が現れたとしても、恥をかくのは騙る方なのです。着飾る者は外面だけを偽ることしかできないものです。しかし、姫さまの内側、ペンドラゴンの血統は身の奥にある皇族の証。これを偽ることなどこの世におりませぬ。いかに皮をぶっていようとも...です」
皮か。
確かに魔族たちも私を無傷で手に入れたがってた感じだし。
「故に、ご心配なさらぬよう...この“白ヤギ”めが姫さまを護り抜きましょう!!」
って、私を安心させてくれる。
心の平安は、父のように広い背中と母のような深い愛だ。
「それと、わたくしは...王国では3番目の戦士。冒険者のレベルであれば金色の首輪程度ですので、大船に乗った気分でハメを外すなんてことはしないでください」
って最後にくぎ刺された。
◆
隠れてる地に船がきた。
高台の屋敷?いや、ボロい灯台なんだけど。
そこから見える海に軍艦が艦隊を組んでた。
「和洋折衷、まったく美しくありませんね」
侍従長だ。
背後に立って、私を守るような位置。
「和洋?」
「ええ、方々の利害が一致しているだけなので、それぞれの脅威度が低くなれば次点を争うことになるでしょう。それゆえに組織としての統一よりも、それぞれが表に出いるのです」
老紳士の指が艦隊の中心をさす。
見れば、船体後部に広い甲板があった。
「航空戦艦という新種です...水上器こと、フロート付き魔法の箒に跨った魔法使いたちを、航空戦力として利用する...グラスノザルツの新戦術から生まれた軍艦のひとつの姿です」
戦艦の主砲は、艦首に集中配備させて砲撃力の低下を抑えたらしい。
その分、船首側に重心がずれぬよう船体は長めとか、いろいろ問題はありそうだが。
侍従長の指は、船じゃなくてそれが掲げる旗をさしてた。
「え?!」
「殿下が落書きされてたデザインを採用しました!」
ペンドラゴンの血統を継ぐ、アーチペラゴーニュ家の新しい家紋。
いや、この場合は王国に叛旗を翻した、抵抗勢力の旗だ。
真っ白で純白。
それはまるで汚れを知らぬ乙女のような――白地に十字架を掲げ、四等分された空間の左上に“三本の百合”が描かれてた。
私は薔薇を書いてたつもりなのだが。
「フルール・ド・リス...です」
意味は、王権らしい。
王国はないけど姫だというのなら、らしい表現だ。
ただ、ちょっと皮肉っぽいのは私だけだろうか。




