- C 152話 極東の魔都 台州 8 -
そのころ“オウル”級潜水艦は難儀してた。
72を追ってたものだが、フローレンス海のいくつもある小島の影のあたりで、見失ってしまったというのが彼らなりの苦しい言い訳である。実のところ、潜水艦で水上の艦艇を追うのには無理があった。
水中特性の分野は、研究段階で実践に至っていない。
現代の涙滴型や、葉巻型にその亜種の鯨体型になるのは、もう少し先の話であるということだ。
で、現状の連邦艦艇は、初期の水上船型というタイプを採用している。
これは、水上抵抗(造波抵抗)が少ない上に、潜水活動が少ない現段階においては、効果的な形状であるといえた。あとは強力なエンジンでも載せられるとするのならば、速力は申し分ない。
が、逆に静穏性つまり、隠密性能を排除することに繋がる。
いやあ、これがジレンマってやつだよね。
もう一つ、オウル級には弱みがあった。
浮上して充電を試みるも、バッテリーのひとつが応答しなくなったという。
機関長曰く「魔導蓄電池の野郎、とうとうボイコットしやがった!!」と、告げてた。
別段、錬金術で生産された機械には感情はない。
ある種の人々からは“心を割って接すれば、無機質にも魂が宿る”という話があるのだとか。
で、機関長はそういう人ということ。
「何をしても?」
「...てんで臍曲げやがって...電池ひとつじゃ潜水行動が下がっちまうし、マナ鉱石の残りも心許ない。いっそハイブリッドだったらと思うとだなあ、これが逆効果で...今度はエンジンの奴が渋りだしやがって景気良く回らねえっていうか...な」
「な、じゃねえよ!」
帽子で顔を覆う艦長がある。
エサ子は、甲板で船員たちと魚釣りだ。
夕飯釣ってくるねと、威勢よく飛び出して行った。
「この際は、潜水行動を諦めるとしよう。で、このまま漂流の方が不味い...電池の方は艦内の生命維持にも直結しているが?」
「そこは問題が無い。蓄電池も乗員のゾンビ化までは望んでねえって、言ってやがったから、その心配は無用って事は伝えておくわ。ま、なんつうかよ...アレだ!」
「なんだ」
蓄電池の要求は、日光浴だそうだ。
「...もう一度、云ってくれ」
「だから、な...日光浴。電池たちは陽の光に飢えているんだよ」
耳を疑った。
ボクも語り部として開いた口が塞がらない。
前代未聞というか...魔導電池たちのネットワークでは、同様のモデルが搭載された艦艇では天日干しなる作業があるようだ。
上甲板で干された彼らの感想は、実に人らしかったという。
潜水艦のうす暗さと、蒸し暑い環境を考えれば、息抜きがしたいは人も同じである。
魔導蓄電池も錬金術の段階で――
「艦長?」
副長は振り返り、帽子で顔を覆っている男に問う。
「よかろう赦す、が、だ。今の段階では限定的な処置だ...残量のないものを優先として1時間づつ交互にだ。エンジンの方は機関長、責任もって口説き落とせ!!!」
ブリッジ内に、鼻先で笑いがこぼれた。
「まったくとんだじゃじゃ馬ですな」
漂流を免れた本艦。
ただ、夕飯事情はいささか寂しい結果に終わったようだった。
◆
台州で情報収集中のアリスさんが、フルボッコにされて病院のひと部屋に鎮座してた。
情報屋と待ち合わせしてたところで、襲われたというから只事ではない。
「犯人の心当たり」
「ないな...いきなり真後ろから」
ウナ部長はさらに子供っぽい服に鞄を背負ってる。
ボクが背後に回って、ランドセルっぽいのを見ようとすると、身を捩って回避した。
な、なぜ?
「もう、あなたは甲蛾衆の...」
アリスさんからため息が漏れ、
「アバターが違いますよ、部長。こっちでの俺は単なる女装癖のある諜報員です...」
同じじゃんって心の中で呟いた。
「同じじゃない! あっちの俺は、そう忍びの棟梁...忍術という魔法に似たものを...」
「じゃ、魔法を使えばいいじゃない?!」
鋭いウナ部長ちゃん。
ウナちゃんの背後に回った筈が、彼女はボクの背後に回り込んでた。
な、なんて素早い。
ちっさいから一瞬を突かれたのかな。
「あの時代から400年。公式のガイドでもありましたが、魔法使いは国の宝であり、国威そのものだといいます」
「ええ、あの時代でも似たものでしょう。それ以前は、セーライム教団が魔法使いの数の把握と管理を行ってた。冒険者ギルドも似たようなもので、管理と把握に努めてた筈です、が、何か?!!」
ボクがウナちゃんの背後を取ろうとしているから、彼女のイライラ度が増しているよう。
やや、怒っているようにも聞こえたセリフ。
「マルちゃん、辞めてください!」
「え!?」
私の背に回るなーって怒鳴られた。
お姉ちゃんの相手をしてた時よりも、ハキハキしているから今が一番まともな頃。
「もう、鞄が気になるなら」
で、鞄は彼女背から降ろされた。
不思議だけど、ね。
ウナちゃんの背負われてたから興味があったけど、そこから降ろされたら...ちっとも。
手元に来た鞄も、単なるビジネスバッグでしかなかった。
あれ?




