7. 生き残るために
その後、家族や使用人らとの会話から、自分が六歳の頃に戻っているらしいと見当をつけた。
さらに父の執務室に忍び込み、文机の上に置かれた暦帳を見て確信した。
幾日経っても同じように、シャロン侯爵邸の私室の寝台で朝を迎える。夢を見ているわけでも、死後の世界でもなさそうだ。
けれど、自分が十八歳まで生きジョセフ様の正妃となり、その後毒蛇に噛まれて死んだことは、はっきりと記憶に残っている。あちらの人生も、絶対に夢ではない。
何がどうなっているのかと、私は小さな頭で混乱し続けた。
そして、結論づけざるを得なかった。
なぜだか分からないけれど、私は死に戻ったのだ。
六歳の自分として生き返り、ここからもう一度人生をやり直すことになったのだ。
私は懸命に考えた。これから自分が、どう生きるべきかを。
非常に残念なことに、今世でも私とジョセフ様との婚約はすでに成立しており、私は将来彼の正妃になることが決定していた。五歳の時点で王家とシャロン侯爵家が交わした約定を今さら覆すことは不可能だろう。しかも、私は同世代の高位貴族令嬢の中でも抜きん出て評判がいいらしく、将来の王太子妃として社交界でもすでに期待されているようだった。
王家が婚約を白紙に戻すだけの合理的な理由は、どこにも見当たらなかった。
(ジョセフ様と結婚するまで、私が命を狙われることはなかったわ。正妃になった途端、執念深く何度も殺意を向けられた……)
食事に毒を仕込まれ、矢を射られ、馬車を引いていた馬に何らかの細工をされ、夜中に毒蛇を送り込まれた。
そしてそのたびに、私に仕えてくれていた誰かが命を落とした。
『側妃となることは、断固お断りさせていただきます』
あの夜の祝賀会で、私がそう言い切った時の王妃殿下の怒りに満ちた真紅の目が、まざまざと脳裏によみがえる。
その瞬間、全身に震えが走った。
前回の人生では、幾度も繰り返される暗殺未遂に疑心暗鬼になり、黒幕はジョセフ様かダーナ妃かもしれない、などと考えていた。
(でも、そもそも冷静に考えれば、ジョセフ様には幾度も暗殺を企てるだけの胆力も手腕もないわ。頭が回る人ではないし。子爵家出身のダーナ妃だって、王宮内に盤石な基盤を持つ人ではなかった。あれほど執拗に、しかも手口を変えながら私を狙い続けるには、何人もの人間を自在に動かせるだけの権勢と人脈が必要なはず……)
そう考えると、やはり私を殺そうと画策していたのは、王妃殿下に違いない。証拠はないけれど、私はもう確信していた。
繰り返された暗殺の手段の中に、馬車での事故があったこともその考えを強めた。国王陛下の側妃様の時と手口が似通っている。
(このまま私が正妃になれば、また誰かが私の盾となって死ぬことになるのでしょう。毒見役も、護衛騎士も、御者も、そしてミアも……)
六歳からの人生を生き直しながら、私は幾日も考え続けた。そして、自分の進む道について覚悟を決めた。
(正妃になれば、私が死ぬまでずっと犠牲者が増え続けることになるのかもしれない。地位に執着し、何人もの命を犠牲にしたくはない。王国を支える方法は、正妃になることだけではないはず。……たとえ側妃になったとしても、この国のためにできることは、きっとたくさんあるわ)
私が将来ジョセフ様の正妃になると信じ、多くの教育を施してくれている両親には、申し訳なく思う。
けれど、ともかく私も周りの者たちも、生き残らなくてはならない。
今回もジョセフ様がダーナ妃と出会い、二人が恋仲になり、またあの日の祝賀会で側妃になれと宣告されたならば、その時はそれを受け入れよう。そう思った。
(けれど、その結末に至るまでの過程が、すべて前回と同じであるとは限らないわ。変えられそうなことがあるのなら、最後まで足掻いてみよう)
王妃殿下に、暗殺なんてさせてはならない。
王国の規範となるべき国母が、自ら人の命を弄ぶなど、あってはならないのだ。
それでも、もしもまた王妃殿下の魔の手が私に伸びるようなことがあれば……。
(その時は今度こそ、ただ怯えて逃げるだけでは終わらせない。王妃殿下が何かを企んだのなら、その動きを見逃さず、必ず阻んでみせる。そして二度と、私のために誰かの命が奪われることのないようにしてみせるわ)
そう決意を固め、私はこの二度目の人生を生き抜くことを心に誓ったのだった。




