17. レナート様の決意
「え……?」
その言葉に、心臓が小さく跳ねる。
私を見つめるレナート様の微笑みは、何だか妙に悲しげに見えた。
彼は一度、目を伏せ、再び正面から私と目を合わせる。
「あなた様は幼い頃から、王太子妃となるため研鑽を重ね、常にこの国と民のために何ができるのかを考えておられました。こうして置かれる立場が変わっても、その志を捨てることなく、今なおご自分にできることをなそうとしておられる」
レナート様は一度言葉を区切ると、先ほどまでとは打って変わった明るい表情を見せた。まるで、何かを吹っ切ったかのように。
「騎士として、これ以上の理由が必要でしょうか。私は出世がしたくて、剣を取ったわけではありません。あなたを……いえ、あなた様のような方をお守りするために、騎士になったのです」
その穏やかな口調の中には、揺るぎない意志が感じられた。
「アウレリア妃殿下がその志を貫き、この国のために力を尽くされる。そのおそばで、安心して務めを果たせるようお守りすること。それが私にとっては、何よりも価値ある務めです。どうぞ、これからよろしくお願いいたします」
「……フルニエ公爵令息……」
彼の強い思いが、ありがたいような、何だか申し訳ないような。
戸惑いつつぽつりと呼びかけると、彼は目を細める。
「レナートとお呼びください、妃殿下。私はもう、あなた様のものなのですから」
「え……っ」
(わ、私のもの、って……)
その言い方に何だかドギマギしてしまい、私はそれを誤魔化すように軽く咳払いをした。
「分かったわ、レナート」
私がそう口にした途端、彼は一瞬目を見開き、そして心の底から嬉しそうに破顔した。ただでさえ目もくらむほどの美青年なのに、そんな笑みを浮かべられたら、もはや直視することすらためらってしまう。あまりにも眩しい。
(ご令嬢方に騒がれている理由がよく分かるわ……)
そんなことを思いながら、私は再び口を開く。
「私のことも、アウレリアと呼んでちょうだい。それと、この離宮にいる時はもっと気楽に話してくれていいわ。昔みたいにね」
「……よろしいのですか」
「ええ。ここは王宮ではないのですもの。多少気安く話したところで、目くじらを立てるような人もいないでしょう? その方が私も気負わなくて済むから、ありがたいわ。ふふ」
そう言うと、レナートは噛みしめるように言った。
「身に余る光栄です、アウレリア様」
「まぁ、大袈裟ね」
「私にとっては……いえ、俺にとっては、それほどのことなのです」
まるで独り言のように目を伏せ、そう呟くと、レナートは顔を上げる。
その黄金色の目は、先ほどまでとは違い、やけに真剣な色を帯びていた。
「何があろうとも、俺が必ずあなたをお守りいたします」
彼は力強く、そう言い切ったのだった。




