第八話 魔女
ソフィアがセリカを伴ってやってきた誘拐犯に指定されていた場所は、王都内のホテルであった。
このホテルは違法な人身売買を行う組織の物であり、この場所で売り買いが行われていた。
ソフィアとセリカが、ホテルの広いロビーへと足を踏み入れる。
「ようこそ、ソフィア=ガーランド子爵夫人お待ちしておりましたよ」
出迎えたのは黒いスーツの男たちを引き連れた、髭を蓄えた男であった。
「娘はどこですの?」
「まずは私の主人に会っていただきましょう、お話はそれから」
「……いいでしょう、案内いたしなさい」
「かしこまりました……が、その前にお二人にはこれを」
髭の男は装飾のされた首輪を取り出す。
「なんだそれは、ソフィアさまに妙なモノを」
「これは魔封じの首輪です、これを身に着けてもらいます」
「なんだと……」
「調べはついていますよ、あなたがたが優秀な魔法使いだという事も」
「……私はいい、だがソフィアさまにその様なモノを」
「構いません時間がおしいですわ、さっさとそれを付けてあなたの主人とやらに合わせなさい」
セリカの言葉をソフィアが遮る。
「さすが話がわかりますね、よろしいですか?」
セリカが黙ると髭の男が合図する。
黒服たちがソフィアとセリカの首に魔封じの首輪を付けると、二人の身体を弄る。
「……!? 貴様ら何をっ!」
「ボディチェックですよ、武器などを持ち込まれると困りますからね」
セリカは歯を食いしばり怒りを抑える。
ソフィアとセリカの背中、腰、尻、足と黒服たちに弄られていると、胸を触っていた黒服がセリカの執事服の内側から何かを取り出し髭の男に渡す。
それは小指ほどの小さなナイフであった。
「いけませんねぇ、これは没収です」
魔力を封じられ、武器も奪われた。
「それではこちらへどうぞ」
ホテルの通路にはそこかしこに武装した男たちがいた。
通路を歩かされエレベーターに乗せられ最上階へと連れていかれる。
最上階の通路にも護衛の男たちがおり、二人を見てニヤニヤといやらしい視線を送る。
そんな視線を意に返さないソフィアとセリカが連れてこられたのは、最上階の豪勢な作りのスイートルームだった。
ソフィアとセリカが部屋の中へ入ると、髭の男は部屋から出ていく。
部屋の中には黒服たちを従えた、ハゲで肥えた肥満体質の中年男が大きなソファにふんぞり返っていた。
「お久しぶりですなソフィア殿、ワシの事は覚えておりますかな?」
「……あなたはオークの区別がつくとでも?」
ゴミを見るような目を男へと向ける。
「そんな事よりも、娘は無事ですの」
「もちろん、無事ですよ今はね」
無事と聞きソフィアはホッと胸を撫で下ろす。
「娘に合わせなさい、どこにいるのですの」
「せっかくの美しいお顔が台無しですぞ、あとでちゃんと合わせてあげますよ」
「……目的は何ですの?」
「ワシの貴女への個人的な復讐と言うのもあるが、組織としてはあなたの持っている魔薬のレシピですな」
「魔薬のレシピ?」
「あなたが今ばらまいている魔薬『ヘブンダスト』の材料と調合方法を教えてもらいたい」
『ヘブンダスト』
ソフィアが秘密裏に品種改良し栽培した数多くの植物を使い、独自に開発した魔薬である。
強い快楽を与え依存性の高いクスリである。
「……教えれば娘に合わせてくれるのですね」
「もちろんです」
「わかりましたわ、ヘブンダストの製造方法を教えましょう」
「それでは、この奴隷契約書にサインしてもらおうかのう」
「なっ!?」
黙っていたセリカが声を出す。
奴隷契約書は魔法で拘束力のある契約書である。
「口約束では信用できんからな」
「いけませんソフィアさま」
「かまいませんわ。 あの子が無事ならばわたくしなどどうなろうと。
今頃あの子がどれほど心細く不安でいる事か」
「安心せい、不安どころか今頃は天国にいるような幸せな気分になってることじゃろう」
「…………今、なんと言いました?」
これは男の失言であった。
だが男はソフィアの悲痛な顔に気分を良くしそれに気が付かなかった。
さらに魔力を封じている上に、護衛に囲まれていることで安心してしまっていた。
「娘に何をしたのですっ!」
「不安だったようなのでね、気持ちよくなるクスリを打ってあげただけですよ」
「な、なにを……何を娘に打ったのですっ!」
「あなたが作った禁断のクスリですよ、そう『ヘブン&ヘル』をね」
ソフィアが青ざめた絶望的な顔になる。
「ヘブン&ヘル……あ、あのようなモノを娘に……」
目をつぶり身体を震わせる。
禁断の媚魔薬『ヘブン&ヘル』
それはかつてソフィアが高級娼館を経営していた時、娼婦街を支配するためにばらまいた魔薬であった。
だがあまりにも強力な媚薬であり魔薬であったため、ソフィアも少数作った後に製造を中止したいわくつきのクスリ。
そしてまぶたが開かれた。
男と黒服たちは動きが止まった。
その瞳は純粋な怒りだった。
闇の中に轟々と燃え盛って罪人を焼きつくす火焙りの炎。
「人間風情が下手に出ていればぁいい気になりおってぇ」
ハゲの後ろと入口を塞いでいた護衛の黒服たちの首が飛んだ。
「……へ?」
男は状況が分からず固まっていると。
「セリカ、このホテルにいるモノを皆殺しにしなさい」
「かしこまりました」
目の据わったセリカは頷くとドアを開け部屋を出る。
そのとき男は見た、ドアが閉まる際に部屋の外にいた護衛の首が飛ぶのを。
男は動けなかった、まるで蛇に睨まれた蛙のように。
数分後、再びドアが開かれセリカが部屋へ入ってくる。
その手には何かが掴まれていた。
「ソフィアさまホテル内の抹殺完了いたしました」
「ご苦労ですわ」
「それと、この者がクエルお嬢様を誘拐した実行犯でございました」
セリカは手に持ったモノをテーブルに置く。
置かれたモノを見た男は目を見開いた。
それはクエルを誘拐した髭の男の首だった。
男は恐怖で震える。
ホテル内には70人近い護衛がいたが、それが僅か数分で全滅したのである。
「なんで……魔法は使えないはずじゃ……」
「これのことですのぉ?」
男の疑問にソフィアとセリカが自分に付けられている首輪を掴むと。
ベキッ! っと音を立てて破壊する。
「こんなモノでぇわたくしたちの魔力を封じられるとぉ本気で思っておられたのですかぁ」
ソフィアは手にした首輪の残骸を男の足元に放り投げる。
「な、何者なんだ、お前たちは……」
男がソフィアを指差しながら震える声を出す。
シュっ。
セリカが腕を振った瞬間、何かが宙を舞った。
「汚い指をソフィア様に向けるな」
床に落ちたモノを男が見る。
それは男の指だった。
「娘はどこですの?」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ……!!!」
男が出入口に向かって駆け出す。
シュっ。
ソフィアが腕を振る。
ドタンッ!
派手な音を立てて男が転倒した。
男の両足首が不可視な力で切断されていた。
床を這いずる男にソフィアが尋ねる。
「娘はどこですの?」
男は今更ながら後悔していた。
絶対に怒らせてはいけない者を怒らせてしまったと。
そう彼女は『暗黒街の魔女』なのだ。
ソフィアが腕を振る。
男の手首が飛んだ。
「娘はどこですの?」
ソフィアが腕を振る。
今度は男の腕が飛んだ。
「娘はどこですの?」
ソフィアが腕を振る。
男の腹の贅肉が飛んだ。
「娘は! クエル様は!! どこだと聞いているのですよ!!! この人間風情がっ!!!!」
ソフィアが腕を振る度に男の贅肉がそぎ落とされる。
典型的な肥満体質であった男の身体は、物理的な強制ダイエットをさせられていく。
男がクエルの囚われた場所の情報を話した時には、骨がむき出しの状態となっていた。
クエルの情報を聞き出したソフィアは最後に両手を交差させる。
部屋の中に血の花が咲き、それが男の最後であった。
「セリカ、行きますわよ」
踵を返すソフィアにセリカが部屋のドアを開ける。
部屋の外にはエリス含むメイドたちが集結していた。
「これよりクエル様の救出に向かいますわ、皆の者わたくしに続きなさい」
「「「「「「「「「「 かしこまりました! 」」」」」」」」」」
ソフィア、セリカ、エリスたちメイドたちの一団がホテルを後にする。
残っているモノは死体だけであった。
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