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終わりと始まり


 階段を一段一段踏みしめながら登っていく。老朽化したこのビルの階段はギシギシと音をたてた。


 もう少しで屋上に着きそうだ。

 あぁ、俺の人生何も良いことがなかったな。

 お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください。


 俺は屋上までの階段を上りきり最後の扉を開けた。

 今日は快晴だった。目の前には雲一つない青い空が広がっていた。


 さて、どこから飛び降りようか。

 左には隣接した建物があり飛び降りにくそうだ。

 正面は細い路地になっている。誰かとぶつかったら危ないから駄目だな。

 右には女の子がいるし駄目だ。どうしたものか・・・


 女の子⁉︎


 なんでこんなところに女の子がいるんだ?

 しかもその女の子はフェンスを越えた先で立っている。


「私は死ぬって決めたの!」


 女の子は大声で叫んでいた。

 

 最悪だ。自殺が被るなんてことあるのか? 

 どんな確率なんだよ!


 俺は大きなため息を吐いた。


 この女の子に先に飛び降りられてはいけない。血塗れの死体なんか見てしまったら飛び降りれなくなってしまう。その事態は避けなければ。

 下の方からは「はやまるなー!」「飛び降りちゃ駄目だ!」と声が聞こえる。


 俺はできるだけ彼女を驚かせないように、近づきながら声をかけた。


「どうも」


「きゃ!」 


 女の子は驚き、急いで近くの手すりを掴んだ。腰が引けていたが、落ちることはなかった。俺はほっと一安心する。

 しかし女の子はすぐに俺を睨みつけ言った。


「それ以上近づかないで! とめようとしたって無駄よ!!」


 どうやら、俺が自殺を止めに来たと勘違いしているらしい。

 勘弁してくれ。こっちだって自殺をしにきてるんだ。

 お前に構っている暇などない。


「とめる気はねぇよ。俺もここから飛び降りようと思ってきたんだ」


「そんなことあるわけないでしょ! 偶然にも程があるわ!」


 俺もそう思ったよ。でも実際に自殺が被ってるんだ、しょうがないだろ。

 

 俺はフェンスを跨ぎ、女の子の横に座った。


 下からは「あの子、説得しようとしてるわ」「頑張れ!」などと野次が飛んできた。


「うるせぇ!! 黙ってろ!!!」


 俺は下に向かって叫んだ。

 あいつら、なんにも知らないくせに好き勝手言いやがって!

 

「ちょっと、隣に座らないでよ! 気持ち悪い!!」


 女の子の厳しい言葉が俺に刺さる。


 まてまて、初対面の相手に気持ち悪いはないだろ!! 初対面じゃなくても女の子にそんなこと言われたら男は死ぬぞ!? まあ、俺は死ににきたんですけど。


「もう最悪! これじゃ飛び降りにくいじゃない」


 女の子は嫌悪を含んだ目で俺を睨みつけた。


 怖い! 一瞬ちびりそうになった。

 だが、これはチャンスだ! なんとしてでも飛び降りるのを遅らせて、先に俺が飛び降りるんだ! 


 ここは会話を広げよう。


「お前はなんで死のうと思ったんだ?」


「え、急になに。聞いてどうするの。キモ!」


 キモはいらなくない! いくら死にに来てるからってメンタル無敵じゃないんだよ。


「あんたはどうなのよ?」


 こいつ自分のことは言わねぇのに人のは知りたいってか。言ってること無茶苦茶だな!

 

 だが俺は話した。

 

 俺は優しい心の持ち主だったからだ。あと、めちゃくちゃ久しぶりに女子と話せて嬉しかったのもちょっとある。


「そうだなぁ。あれは高1の時」


「前置きはいいからちゃっちゃと話して」


 なんだこいつ! 生意気だな!


「へいへい。女子が買おうとしていたプリンを奪ったやつがいたんだ。それを注意したらその人、暴走族の頭やってる人だったんだよ!」

 

「ちょっと待って。今ここに来た原因ってプリン?」 


「そうだよ! 悪いか!!」


「い、いや。悪くないけど・・・」


 女の子は手を口にあてて必死に笑いを堪えていた。

 

「続けるぞ! それからいじめが始まったよ。別にそれぐらいならよかったんだけど友達から家族までしつこくてさ。

 俺も反抗的だったからなぁ。最近は弟にも嫌がらせをするようになった。あいつら法に触れないギリギリのことするんだぜ。バレないように周到に準備したりしてさ。


 弟は今年中学受験だから、邪魔はできねぇ。だからここでいっちょ俺が死んで、あいつらに分からせてやろうかなって。

 遺書も書いてきたし、弟なら俺の死をバネにして立派に生きるだろうよ。あいつは超優秀だからな!」


 そう言って女の子の方を見ると思ったより真剣に聞いてくれていた。ヤバイ、恥ずかしい。

 しかしさっきより気持ちが少し楽になった気がする。


「あなたって弟思いなのね」


 女の子は笑顔でそう言った。

 かわいい、不覚にもそう思ってしまった。


「でも、いじめられる原因がプリンって」


 女の子は笑いながら言った。

 うるせぇ、俺だってプリンはないって今でも思ってるよ! 

 ナンパをとめたとかだったらかっこよかったのになぁ。


「次はお前の番だ」


 女の子は笑うのをやめ、腰を下ろして話し始めた。


「中1の時、クラスの女の子がいじめられていたの。

 私はそれをとめたわ。

 そしたら次の日からいじめのターゲットが私になった。それは覚悟の上だったわ。だから私は学校に行かずに家で勉強をすることにしたの。

 

 でも出席日数が足りなくて、卒業できなくなりそうだったから学校に行ったの。そしたら始めにいじめられていた子が私をいじめてきたの。

 それは強要されてるって分かってたわ。だけど、途中からその子、笑顔で私をいじめだしたの。その笑顔を見たら、私のしたことはなんだったのか分からなくなっちゃった。

 

 先生はいじめを認めてくれないし、親は勉強しなさいの一点張り。私ってなんで生きてるんだろうって思って」


 彼女は最後まで話すと大きく息を吐いた。


「話すと少し楽になったわ!」


 そう言って女の子は立ち上がると両手を上げ伸びをした。


「あなた名前は?」


「野崎優人。優しい人でヒロトだ!」


 俺も立ち上がりながら言った。


「ふふっ! 確かに。プリンが盗られそうな人がいたら誰が相手でも助けちゃうんだもんね!」


 女の子は楽しそうに笑顔で言った。

 プリンは忘れろ!


「私は佐倉光」


 光は出会った時よりも柔らかな表情になっていた。




「わっ!!!!!!!」




 その声は屋上の扉の方から聞こえた。

 驚き扉の方を見ると、1人の青年がスマホをこちらに向けながら見ていた。

 

「きゃっ!!」


 光が発したこの声で俺は背筋が凍った。

 急いで光に向かって手を伸ばす。光もこちらに手を伸ばす。俺の手は光の手をしっかりと掴んだ。

 このまま一緒に2人で死のうか。そんな考えが一瞬頭をよぎった。

 

 いや、ダメだ! 俺は光に生きていて欲しい。たとえ辛く苦しいことがこれから待っていようと生きていて欲しい。

 

 これは俺の人生で一番のわがままだ!


 絶対に助ける!!


 俺はすぐさま光を引き上げた。俺はそのままビルの屋上から落ちていった。



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