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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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54.誘い

 時間はレイリーリャが食堂の中に入っていく所まで遡る。


 テグドラウが目を向ける先には、その奥に向かって進んでいるレイリーリャの背中がある。

 海の男テグドラウは彼女を案内する役目は終わったと判断した。そしてそこから離れようと振り返り歩き始める。

 一緒にここまで付いてきたハイリアルも、横に並んで歩いて行く。



「あの時犬族獣人が、ギルド長が『領都侵略するならテグドラウもついていく』とか言ったなぁ。」



 ハイリアルは口許に笑いを浮かべる。手鋏鮫の引き揚げをして、漁民ギルド長が漁民達に呼びかけをした時に、犬族獣人がドサクサに紛れて言った事をテグドラウに言う。



「……トイチのヤツ、オレまで巻き込みやがって、……。


「……ロクな事言わねぇなぁ……。」



 テグドラウは額に皺を寄り、その口許が歪む。

                  


「確かに、漁民ギルド長が海賊してた時、どっかの都市を墜としたのは凄ぇとは思ったけどなッ。」



 声のトーンが高まり、口許に苦笑いを浮かべる。



「そうだな。大海賊が港を陥落させるだけでも凄いがな。…………。」



 ハイリアルがこう同意した後に続く言葉は無かった。

 話し相手のテグドラウではない目の前にある何かに目を向けながら、眉間に皺を寄せ険しい表情をして立ち止まった。


 海の男テグドラウはこの彼の変化を見て、何があったのか解らなかった。それで怪訝そうな目をして立ち止まり彼の顔を見つめる。


 海風が吹き、建物の側に立つ木の葉を震わせ波のような音を立てる。

 鳥も威嚇するように鋭い鳴き声を上げ飛び立っていく。


 ハイリアルは意を決したように力を込め、その顔を凝視し口を開く。



「…………領都侵略ではないが、……」



 こう自ら喋りながら口許に浮かんでしまった笑みを鎮める。



「……我と共に、ドマーラルシズトを倒す気は無いか。」



 その言葉の口調には緊迫感と不安が漂い、下唇を噛んで下唇が薄く見える。


 漁師テグドラウはそれを聞いた途端驚き目を見開く。



 近くを彷徨いて(うろついて)いた男が、二人が立ち止まって話し始めるのを目にすると、立ち止まって眺め始めた。その男は長身の金髪で上半身に包帯を巻いている。



「…………ドマーラルシズト?本気かぁ?」



 テグドラウは驚きで目を見開いたままハイリアルの顔を凝視する。その声は大きく、口調も昂ぶっている。



「本気だ。ドマーラルシズトを見つけ出し、これで倒すつもりだ。」



 彼は相手を凝視しながら、握っている薙刀を見せるように上げる。

 長年使い込まれて染まった黒ずみが、薙刀に付けられた皮のフードの上に浮かび上がる。


 海の男はそれを見て、片手で顎に掌を当て眉間に皺を寄せて俯く。



「…………まぁ、オマエのあの魔法を見たから、倒せんだなんて言うつもりはないが、…………」



 ハイリアルが光魔法を放ち手鋏鮫を倒した時の様子を想起すると、顔を向けて彼を見る。

 そして自らの気持ちを抑えるように閉じた口を開く。



「…………オレが若い頃だったら、面白いって言って、付いて行ったンだろうけどな…………。」



 拳を握った右腕を見せつけるように上げるリアクションをしたが、視線が下がると共に上げた腕も下がっていく。

 その声の調子も低く沈んでいく。



「……まぁ、今は、結婚して、子供が二人いるからな。」



 海の男は顔を上げ、決心して意志を固めるようにハイリアルの両目を見つめる。

 眉間と額に皺が寄る。


 その表情を見て覚悟を決めるように、ハイリアルの眉間にも皺が寄り険しくなる。


 二人に向かって海からの風が吹く。

 二人の髪が煽られ、彼が纏う(まとう)ローブの裾が靡く。



「どんなに捜しても、いつ出会えるか解らん相手に命懸けの冒険するのは、今は出来ない。」



 海の男が言い切って断った声は力強かった。

 

 それを聞いたハイリアルは口許に苦笑いを浮かべる。

 

 

「……貴公は二児の子持ちだったのか。それなら誘う訳にいかないな。


「……子育てはある意味、どう育ってどうなるか解らない、冒険以上の冒険みたいなものではないか。」



 両目を瞑り何かを思い出したように、口許に歪んだ笑いを浮かべる。



「そういう訳で行けない。すまない。」



 海の男は顔を歪ませ頭を下げて詫びる。



「謝らんでいい。……所詮、我が満足する為だけに行うものだ。」



 ハイリアルは片手を上げて拒絶する。

 何かを割り切っているかのように、その声の調子は淡々としている。



「だから、レイリーリャはいずれ帰すつもりでいる。」



 テグドラウはそれを聞き、額に皺を寄せ少し辛そうな神妙な表情になってしまう。



「…………そうか。そういう目的なら、やらなくても良いだろう。



「…………と言っても、止めるつもりはないんだろう。」



 そう言いながら、思わず口許に苦笑いを浮かべてしまう。

 逆の立場ならハイリアルと同じ行動をしてしまう事を自覚するように。



「そうだな。」



 彼は表情を変えずに即答する。

 何か感情を抑えつけるようだった。


 だがその表情の意味を、テグドラウは単なる同意だと解釈している。


 その時、何か面白い事を思いついたように目が輝き、笑みで両口許が上がり、その表情が変わった。



「…………そういうハイリアルこそ、ここで漁師をやるのはどうだ?」



 その声の調子は昂ぶっている。



「漁師ぃ?!」



 彼は両目を見開いて驚く。その声は大きく全く想像していなかったようだった。



「オマエの魔法の力なら、大海竜(シーサーペント)大蛸(クラーケン)でも狩れるンじゃないか?」



 窮余の一策を思いついたように、その顔を見つめる。

 その声は大きく昂ぶっている。



「この海の沖に向かってフネを出して一週間もすれば、アッチの方から頼んでなくても襲いかかってくるだろうな。


……だから、ドマーラルシズトよりは見つけやすいだろッ。」



 漁師は額に皺を寄せつつも、口許に笑みを浮かべ苦笑いをする。



「……大海竜(シーサーペント)か……。」



 彼は目を細め考える。

 全長が百メートルを越える大海竜(シーサーペント)の脳天を、得意の魔法で貫いている姿を。


 テグドラウはその表情を見つめる。

 眉間に皺を寄せ考えているようだが、嫌そうには感じていないように男は思う。



「……何なら、ギルド長みたいに、セイレーンの娘を攫うかぁ?」



 漁師は喋りながら笑い出してしまう。

 ハイリアルもそれを聞き苦笑いをしてしまう。



「……我はあいにく、そういう強引な真似をする趣味はないのだがなぁ……。」



 その声は大きくなかったものの、口調は笑いで震えている。



「……もし口説くんなら、……『我がドマーラルシズトを倒すのに協力してくれぬか?』……だなんて言うなよッ。」



 漁師はこう言った途端、爆発したように笑い出す。



「……さすがの我でも、恋として口説くのならそう言わぬわ。」



 彼も勢いに流されるように言い返す。そうしながらも口許に苦笑いを浮かべる。

 離れた所で二人を眺め続けている金髪包帯男は、何も言わず眺め続ける。


 だが二人はそれに全く気付いていない。


 テグドラウが続けていた笑いが止まると、漁師は興味深そうに目を輝かせる。



「……それなら口説く具体例として、何か上げて言ってみてくれ。」



 漁師が尋ねる言葉の調子が昂り踊り出す。

 ハイリアルは昂ぶる漁師を見つめ、口許に笑みを浮かべる。



「……やはり、貴公が奥方を口説いた時のように言えば良いのか?」



 その口調は平静を装おうとしているが、言って楽しいのが口調に現れ、昂ぶり弾んでいる。

 その様子はレイリーリャと二人っきりでいる時には、全く見せないものだった。



「な、何を聞き出そうとしてるんだ?」



 漁師は途惑い苦笑いを浮かべながら、両掌を彼に向けて押し返すように上げる。



「…………一度、家に帰らなくてはいけないの思い出した。」



 話の流れを切るように、海の男は平坦な棒読みで言い出す。そして反対側に振り返り、歩き始める素振りをして帰る真似をする。

 

 離れた所で金髪の包帯男が立ち止まり眺め続けている。



「逃げるのか?」



 ハイリアルが笑いながら、海の男を挑発する。



「そうだ。


 ……シーサーペントよりも、はるかにおっかないのが、家で待ち構えているからなぁ。」



 テグドラウは帰り始める姿勢のまま、彼に顔を向け苦笑いを浮かべる。


「怒りを鎮める度に、たっかい貢ぎ物を差し出さなくてはいけなくなっちまうよ……。」



 それを聞き彼も両眉を下げ苦笑いを浮かべる。



「そうだな。下手な魔王より恐ろしいな。


…………だが、そんな恐ろしいモノだと言いつつも、野獣や魔物だと言っていないな。貴公の細君の事を。」



 彼は漁師を見つめながら口角を上げ、含みを持たせた笑みを浮かべる。



「……なにニヤついてるんだよ。」



 漁師はそう口に出すのと同時に、彼の肩を小突く。その顔は気持ち赤い。


 彼は肩を小さく竦めつつも、口角を上げニヤつきながら愉しむ。

 


「……この様子だと、浮気する気や二人目の嫁を手に入れる気はなさそうだなぁあ。


 ……ちなみに、昔魔術師隊にいた上官は、浮気現場に乗り込まれて半裸で追い出された。」



 海の男はそれを聞き、右の口許を歪め苦笑いする。



「パンツ一丁で追い出されるのは、ぜったい嫌だなッ。昼間のゾーコンじゃねぇんだし。」



「……海に落ちたあの男か?


 ……あ奴は好きで脱いでいるのでは無いのか?」



 彼は右側の口許を歪ませ、嘲笑うかのような笑みを浮かべる。



「まぁ、そーだなぁ。ゾーコンが至る所で脱ぐのは、……それが好きだからなんだろうな。やっぱり。」



 海の男は言い終えると、自ら納得するように二回頷いた。


 海風が二人を煽り、ハイリアルが着ているローブの裾が風に靡く。


 空で舞っていた野鳥の群も、海風に乗って森に帰っていく。


 二人を見ていた金髪の包帯男はいつの間にかいなくなっていた。



 テグドラウはハイリアルに告げる。



「…………また夜にここに戻って来るが、漁師になる件については考えて置いてくれ。」



「ドマーラルシズトを倒した後なら考えよう。」



 ハイリアルは苦笑いを浮かべるが、その口調は楽しげであった。



「それではまた夜に。」



 テグドラウは片手を上げ別れの挨拶をした。そうして振り返り自宅に向かって歩いて行った。


 ハイリアルはその背中をしばらく眺めていたが、振り返りギルドの建物が建つ方に戻っていく。


 この場にハイリアル独りになった。

 周りにはテグドラウやレイリーリャもいない。


 その表情は今までとは打って変わり、思い詰めたように険しく変わっている。

 その目は力が入り、レンズ越しに射って貫くように鋭く据わっている。



「…………漁師になるのは、…………ドマーラルシズトを倒した後、ならな……。」



 独り呟く声は低く、何かの覚悟を決めたような圧力があった。



 海風がハイリアルの身体を正面から叩きつける。

 海風に煽られ、前髪は横に流され、ローブの裾が靡いて後ろに拡がる。


 それでも彼は前に進み続け海風に抗う。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


今まで書き溜めていた物語のストックが尽きてしまいましたので、次回以降の更新は不定期となります。


これからもこの作品を読んで楽しんでいただけると嬉しいです。


2026.6.17


△▼△▷▼△△▼△▷▼△


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

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