33.待機
ハイリアル達はギルドの建物の外に出た。その目の前を通る道を横切ると、立ち止まって後ろを振り返り、ギルドの出入り口を眺める。
レイリーリャも彼に付いてきてその後ろで控えるが、何でそこで立ち止まっているのか解らなかった。
―――さっさと宿に戻らないと、あの男達が追っかけてきて、争いになっちゃうんじゃないの?それって拙くない?
彼女は怯え、その横顔を見つめる。
彼は眉間に皺を寄せ何か考え込んでいる。
「……ハイリアルさま、もめ事になるといけませんので、宿に戻りませんか?」
彼女は怯え続ける事に堪え切れずに尋ねる。
「…………もう少し待て……。」
彼は彼女に振り返らず、ギルドの出入り口を見つめ続けている。
荷台に被せた覆いを靡かせながら魚を載せた荷馬車が通り過ぎていく。
丸腰の己立者と思われる女性が気持ちを込めるようにギルドの扉を開け入っていく。
ギルドの扉が開くと狢の獣族男性が扉から出てきた。ハイリアルが立っている姿が目に入ると、俯いて目を合わさないようにしながらそそくさと立ち去っていった。
二人はしばらくギルドの建物の前で立ち続けていた。しかし二人を追いかけてくる者達は誰も現れなかった。
「……骨がありそうなヤツはいないか……。」
彼は侘しさと無力感が混ざったように力無く呟く。
それが彼女の耳に入ると思わず戦慄してしまい、目を見開き両眉が下がる。
「…………まさかハイリアル様は、戦う相手を求めて、ここで待ってるんですか?!」
彼女の身体が竦む。争いに巻き込まれるのが恐かった。
「……さすがにムダなケンカをして自惚れる趣味はないが……。」
彼は玄関の扉に目を向けたまま苦笑いする。
「我に付いて行こうと追ってくる者がいないか待っていたのだがな。
「……先程の食堂での我の振る舞いを見た上で、闘いたがる位の気概があるヤツなら、面白いかもしれんがな。」
ハイリアルは捕食者のような獰猛な笑みを右口許に浮かべる。
―――そういうハイリアルさまも、戦いたいようじゃないですか!
彼女は突っ込みを入れてしまう。それを口に出した時の反応を怖れて、何も言わず思っているだけだが。
「……もっとも本当に力のあるヤツなら、こんな陸上では強い魔物の出ない所で、デカい面していきがっていないか……。
大体は、ここから東に領都を過ぎた先にあるマギト山脈などといった奥地で強い魔物を狩ってるか、漁師ギルドで海の魔物を狩って金稼いでいるか。……」
そう言い終わると彼は鼻で嘲笑う。己立者ギルドにいた者達だけでなく、そこで協力者を求めた自分自身も含んでいるように。
「……漁師ギルドですか。強い人がいるのなら、こっちで誘ったのは間ち……じゃなくて、漁師ギルドで誘われてはいかがでしょうか。」
彼女の疑問は彼に対する批判になりそうだったので、慌てて訂正する。だが彼は、彼女の口が滑って批判になりそうな言葉を気にする様子は見せなかった。
「漁民の多くは自らの船を所有していて、自ら主導して漁をしているから、パーティに誘うのは難しいだろうが……、…………単発の漁で、船に乗り込んで漁をする船員として乗る者なら、いるかもしれんな。」
協力者がいるかもしれない期待を感じ、その目が少し広がる。
「……それなら無駄になるのを覚悟の上で、協力を誘ってみるのも良いかもしれないな。」
淡々と発するその口ぶりは彼自身を納得させるようであった。
「ダメだったとしても、大きな損害は出ないでしょうか?」
レイリーリャは普通の勧誘なら金銭絡みで大きな浪費にならないだろうと思いながらも、口に出してから、彼が己立者ギルドで諍いがあった事を思い出す。
―――ハイリアルさまが、またケンカしてしまったらどうしよう。
胸の中に不安を少し感じる。
「……損害は……、時間が多少潰れるぐらいで、大した事にはならないはずだ。己立者ギルドみたいに揉めなければな。」
彼はその諍いを思い出し苦笑いする。
「時間はまだ昼前だし、漁師ギルドに行くか。」
そして彼女の方を向いてこう言うと、漁師ギルドに向かって歩いて行く。
―――またハイリアルさまがケンカをしてしまったら、わたしはどうしたらいいんだろう?
彼女はその後ろを付いて行きながら、同じ疑問を心の中で繰り返しつつ不安を身体に纏っている。
―――恐いなぁ。ホントにどうしよう?……
ゴミ捨て場から生ゴミを咥えた鴉からそれを奪おうと、白い海鳥が嘴でその身体を突く。二羽が争う鳴き声と羽音が拡がる。
レイリーリャはふと己立者ギルドに食堂があった事を思い出す。
調理され皿の上に載せられた海水魚の料理の姿を想像し、その味を舌の上で想起する。
…………漁師ギルドにも食堂があればいいなぁ……。…………美味しいお魚あれば食べたいな~。
協力する者を誘うという本来の目的をよそに、海水魚の料理を食べる期待を抱き楽しみに感じる。
南からの浜風に乗って茶色い鳶らしき鳥が旋回する。浜風が二人の身体を通り過ぎ、彼女の銀髪が靡く。
…………さっきまでハイリアルさまがケンカしてしまう事を怖がってた気がするけど、今はお魚料理の事しか考えてなかったよね。
彼女は自らの気の変わりっぷりに気付き思わず苦笑いしてしまう。ハイリアルが漁師ギルドで喧嘩になってしまう事を怖れていたのを忘れてしまったように。
黒いローブを纏った彼の背中を目に入れ、彼女は尻尾を左右にリズミカルに振りながら歩いて行く。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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