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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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16.欺き


…………あーあ、ハイリアル様に付いて行くって、言ってしまったなぁ……。



 レイリーリャは愛馬ズゼルーマーに跨がったまま、打ちひしがれ全身の力が抜けてしまっていた。もし今乗馬していなければ、脱力感を感じるまま後ろに倒れ込み、重力に全身を委ねて地面の上で仰向けになっていただろう。


 自らには戦う力が無い無力だという事と、自らの心に対して自制する力が無い事を受け入れてしまい、微かな寂しさの混じったような虚ろさを感じている。

 だが、この行動の選択を行ってしまった事に関しては、後悔はしていなかった。

 


 それというのは、この日宿泊した宿を出る前に荷物を纏めながら、これからどうしたら良いのか悩んでいた時の事だった。



…………魔物に見つかっちゃうと、襲われるよね。そうなるのはやっぱり、嫌だよねぇ……。



 レイリーリャは今朝使った櫛を、左手に持った小物を入れる袋の中に入れながら思ってしまう。こう思ってしまう度に気分が沈み重くなる。



…………魔物達に見つかっても、戦う前に逃げてくれればいいけど、う~ん……。



 歯ブラシを上下に振って水を切り、小物入れの中に入れる。

 そして使い切れずに余った洗剤の実という水色したミニトマトみたいな果実を一つかみして、その手を同じ小物入れの中に突っ込む。



……もし魔物達がわたし達を見つけなかったら、襲われないという事だよね?



 小物入れの中から出そうとした手の動きが止まった。



…………そうなると、魔物達に見つからず出くわさずに済んでいる間は、「―――襲われずに済むから、安心していられるという事だよね。」



昂る余り声が口から出てしまう。



「しっかも、昨日と同じ調子なら、―――魔物に襲われている時間よりも、襲われていない時間の方が長いよね。」



 閃いたとばかりに、片手に持った小物入れを手のひらで叩いた。



「それにハイリアルさまの他に守ってくれる人が加われば、わたしが一緒に付いて行っても大丈夫という事だよね。」



 そう呟くと、館に戻って副メイド長達と一緒に働かずに済みそうに思え嬉しくなる。



「やったッ。これであの人達から逃げられ―――」



 嬉しさで昂ぶり、思わず左手に持った小物入れを何度も上下に振ってしまうと、中の物が飛び出し床や部屋の壁に当たった。

 壁に当たって潰れた洗剤の実の白い果汁が床に垂れ落ちる。

 潰れた跡が壁に残り、垂れた雫が床に拡がっていく。


 小物入れの中に入っていた歯ブラシや櫛、それに振られて潰れてしまった洗剤の実などが飛び出してしまったのだった。


 レイリーリャは壁に雫が垂れ落ちていくのを目に入りながら、小物入れの中も眺める。



「うわぁぁぁ!やっちゃったぁ。何やってるのぉ、わたしぃ!」



 彼女は突然何かのスイッチが入ったかのように動転した。

 壁や床に付いた果汁の跡と、洗剤の実が入っているのに叩いて潰し汁まみれになっている小物入れの中を凝視する。そして鞄の中から雑巾を取り出すと、据え置きのたらいに水を入れ、汁を拭き取る為に雑巾を浸した。




 ……このようにレイリーリャは出発前に魔物に襲撃される事に関する考え方を変えた。それによって、館に戻る事を翻意して、ハイリアルに随行する事にした。

 それまでは魔物に遭遇し襲われた時には自分には対応出来ないと思い、そういう状態に陥る事を怖れていた。


 しかし、魔物に遭遇せずにいる間は襲われず平穏にいられ、例え襲われた時には彼以外にも護衛する者がいれば無事にいられ、そして襲われる時間よりも襲われずにいられる時間の方が長いはずという事に気付いた。


 それらの気付きによって考え方や受け止め方を以前とは違うものに変わり、魔物に襲われる事に対する恐怖は、場所と時間を問わず闇雲に恐れてしまう事は減った。



…………これで副メイド長達と館で一緒に仕事をして、嫌な思いをしないで済むのはいいけどねぇ……。



 レイリーリャはズゼルーマーの手綱を握りながら空を見上げる。

 雲のない青空を、鳥が風に乗り弧を描く。



…………だけどぉ、自分の力だけじゃあ、魔物をやっつけたり追い払えたりするのを出来ないのは、相変わらずだけどねぇ……。



 口から溜息が漏れる。



………………新しい仲間を入れてもらうまで、自分で何とかしないといけないかぁ。



 落胆して身体が重く感じ頭が下がってしまう。自らの無力さを感じながら、嘲笑いが口から漏れてしまう。


 雲一つ無く爽やかですがすがしく見える青空が、現在の自分自身に対する皮肉のように感じる。



…………それはそうと、ハイリアル様の身体、本当に大丈夫なのかな。……



 彼女は顔を上げその背中を見つめる。

 彼の背中は見かけよりも肩幅は広く、威圧する空気を周囲に醸し出している。それは魔術師としてだけでなく、騎士だとしても鍛えられている事を物語っていた。



……ハイリアル様の身体の事を心配した時に怒ってたように感じけど、何で怒ったんだろう?



 彼女は彼の周囲に暗雲が漂っているような雰囲気を、実際には全くそうなってはいないのに感じてしまう。



…………そういえば、ハイリアル様の病気って何だろう?メイド長達から説明された覚えないけど。



 出発前からの記憶を辿ってみるが、誰からもその説明をされた記憶について全く思い出せず、見当もつかなかった。



…………血を吐いていたけど、どうなんだろう?あれから血を吐いていないけど……。




 彼の身体の状態について想像する。

 しかし彼の身体の状態が悪く、今すぐに旅を止めて治療をしなくてはならない程の重症である可能性がある事を、彼女は無意識のうちに目を逸らし、そう思わないようにしていた。



…………ハイリアルさまは痛いとか苦しいとか言ってないよね……。



 事実確認をするというよりも、自分自身を正当化する為に言い訳して誤魔化しているように無意識のうちに感じている。



………………なんか、わたしのやってる事って、ハイリアルさまをダマしている事みたいね……。



 彼女は前を進む彼の背中を見つめる。

 出発前にあれこれ本心では無く付け足したような、付いて行く理由付けとして説明をした事が思い返る。


 今朝少し前に喋った事なのに、その時に喋った内容の記憶があやふやになり始めている。…………いや、喋ったその瞬間から、記憶に無い。



 主人を欺いているにしては、思っていたよりも罪悪感を感じていなかった。もう少し申し訳なさを感じた方が良いんじゃないのと、自らに対して思う。


 結果的に彼女が再び付いて行く事は彼にとっても都合の良い行動で、お互いにとって都合の良い行動同士で上手い事やったと、今現在自覚する意識の上には上がっていなかった。



 レイリーリャはハイリアルの背中に向かって聞こえないような小さな声で呟く。



「…………ごめんなさい。…………」



 一区切り付けたように語尾が切り上っていた。謝るというより、気持ちを次に切り替えたという感じであった。



………………気持ちが全然こもってないし、やっぱりわたしは、碌な女じゃないよね。



 内心自嘲すると溜息をついた。


 ハイリアルは後ろを振り返る事無く、何も気付かぬまま、前に向かって乗っている馬を進めている。



 街道で移動している最中、二人の間に漂う沈黙の空気が晴れる事はほとんど無かった。

 ハイリアルは道中レイリーリャに用事を申しつける時以外は何も喋らず、ずっと沈黙を保ったままであった。

 眉間に皺を寄せ唇を噛みしめて、苛立ちや不満、辛さを表に表す事を我慢しているような険しい表情を続けていた。


 たまに道中で休憩を取る時には、彼は道から外れ、彼女のいる所からは見えない森の中に入るのだった。

 そうしてから少し経つと、彼の怒りを込めて何かに攻撃するような怒号、魔法か何かの攻撃による木々の破壊音が響く。


 それが彼女の耳に入ると驚きと恐怖を感じるのであった。


 そして戻ってきた彼に彼女が魔物による襲撃の有無等を尋ねると、機嫌の悪そうな表情しながら、そんな所だなどと適当に応えるのだった。そしてこれ以上この話題に触れられる事を嫌がるかのように、速やかに話を終わらすのだった。


 彼女はこの彼が放つ触れたら怒り出しそうな雰囲気に怖さを感じた。


 その上、彼女には負い目があった。

 彼に付いて行っている理由の一つとして、再び館に戻って副メイド長や先輩メイド達と働く事が嫌でそれから逃れている事があった。

 主人である彼の為ではなく、彼女自身の為の私的な理由であり、彼に仕えるメイドとして不道徳な動機のように彼女には感じられた。

 

 それ故に彼に知られたら不忠義の者として見なされ、何らかの処罰を受けるのではないかと恐れていた。そのような態度を表に出さないよう警戒していた。


 その様な状態だったので彼女は居辛さを感じていた。

 何か伝える必要のある時は、何か気の触る事を言って怒らせてしまうかもしれない怖れを感じ、彼に話しかける事に躊躇ってしまうのであった。

 そうして彼との距離が縮まらず離れてしまうのであった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

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