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ストーリーテラー  作者: 砂東 塩
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【アンドロイドの停止は故障か死か?】

 2286年10月31日。午前7時のニュースは区画JP第6管区における行方不明者発見と死亡確認。同第3管区違法残留者の有無は現在確認中。区画OS第17・18管区での最終便打ち上げ成功について。以上です。

 同時刻、JP第53管区システムログに特異反応を発見しました。JP-4637とJP−203の記録を既定設定により報告します。

【始めてくれ】

 ヨルミナがテレビを点けると同時に『アンディーズエブリ』が始まった。同居人のフタオミが起き上がってモニターに目をやると、名物キャスター久那がピンクアフロのカツラを被っている。フタオミは肩を揺らして笑った。

「コスプレもそろそろネタ切れだな。久那ちゃんはよく60年も同じ番組続けられるよ。番組開始からメインキャスター務めてるんだから。あっ、久那ちゃんってアンディーズエブリのために作られたんだってさ」

【ククッ……】

 フタオミの情報はたまに正確性に欠ける。ヨルミナは「へえ」と相づちを打った。

「フタオミ、朝ごはん食べる? 紫外線ビシバシ降り注いでるし充電効率良さそうだよ」

「なんだ、充電のことか」

 フタオミがぼやくと、ヨルミナは食器棚を開けてミネストローネの缶詰を取り出した。

「温める?」

「いらない。シモの後処理面倒」

「内部洗浄って言ってよ」

 テレビではお天気アナウンサーがおススメ充電スポットを伝えている。背景映像は第53管区中央台地のTS4スポット。4本の鉄塔に囲まれた、スペースコロニー向けライブ映像の中継地点だ。そこには約20体のアンドロイドが集まっているが、すべて愛玩用子ども型。

「飼われてたアンディーは人恋しいんだろうな」フタオミがつぶやいた。

【興味深い】

 フタオミの発言は、ヨルミナとの同居が始まって以来、説明的内容の増加傾向が見られます。

【フタオミは労務用だろう?】

 JP-203。型番3桁であることからわかるように、スペースコロニー建設用として製造された、身体能力の高い労働アンドロイド。スペースコロニー完成後建設に従事していたアンドロイドの約85%は解体廃棄、状態の優良な約2%は整備員としてコロニーに配置、残り13%は地上労務用として送還。フタオミは地上労務用アンドロイドとして7年前に地球に戻り、3年間の植樹任務の後に第53管区へ移送。

【報告の続きを】

 モニターに愛玩用アンドロイドが大きく映されると、フタオミは眉間に皺を寄せた。子どもたちが空に向かって両手をあげ、所有者の名前を呼びながら泣き叫ぶ。

「こういうのを見せられると労働用アンディーで良かったって思うよ。小さくて3歳、大きくて10歳ってところか。所有者を傷つけないように力はない、余計な策略を立てようにも思考能力がお粗末。愛想を振りまいて、泣いて、笑うだけ。まあ、演技力は主役級か」

【労務用にしては感嘆詞の使い方が上手い。先を】

「でも、人間はあいつらを捨てた。久那ちゃんは哀れな愛玩用アンディーをテレビで映して情に訴えるつもりなんだろうけど、今さらアンドロイドの残留決定が覆ることはない。コロニーに行けるアンドロイドはほんのわずかだ」

 ヨルミナはいつもより目を大きく開き、フタオミを観察していた。

「あの子たちほどじゃないけど、フタオミの表情豊かになったよね」   

「雲泥の差さ。俺には涙腺がない」とフタオミは肩をすくめる。愛玩用アンディーも今は涙用水がないから泣けないのだが、ヨルミナは別のことを口にした。

「人間の泣き顔なんて久しく見てないよね」

 フタオミは天井を見上げて考える。

「映像だと人間もアンドロイドも変わらない。どっちも喜怒哀楽があるように見える。俺だって泣いてるアンディーを見るのは嫌だし、こんな姿はできれば見たくない。でも、人間にはアンドロイドの指向性とは違う、もっと本能的な忌避感が備わってるんじゃないのか?

 泣き叫ぶアンディーをライブ中継で見てる所有者が、笑ってるのか、泣いてるのか想像できない。哀れと思うなら所有権を放棄して解体リサイクルに回すべきじゃないのか? 屋内用アンディーがメンテも受けずあんな場所にいたら壊れる。なあ、ヨルミナ。俺が労務用アンドロイドで、感情理解力が低いからわからないのか?」

【203は面白い】

 本来ならば型番JP3桁からは修辞疑問文が出力されないはずだが、修辞疑問文と解釈しうるケースが増加している。ヨルミナは、今回のケースを言葉のまま疑問と受け取った。

「僕は介護用だから感情理解能力はフタオミより高い。所有権放棄しないまま愛玩用アンディーを置き去りにした人間の気持ちも、説明しようと思えばできる。でも、それは僕が意味づけが得意なだけで、人間が実際に何を考えてるのか答え合わせするのは難しい」

「人間はもう地上にいないも同然だからな」とフタオミが返すと、ヨルミナは首を振った。

「そうじゃない。人間は自分の思考過程を正確に見返すことができないんだ。特に、感情に起因する衝動的な行動ほどそうだ。僕らアンドロイドは指向性に基づく行動をとるとき、あとで感情パラメータを確認することができる。けれど、どういった理由でそのパラメータになったのかは、システム設計した人間に聞かないとわからない。人間に置き換えると、神に問うしかないってことだよ」

 ヨルミナは目を釣り上げ、テーブルを叩いた。その姿を見てフタオミが笑う。

「ヨルミナ、バグってないか? 淡々と話しながら顔が怒ってる。子どもたちを見て可哀想だって思ってるんだろう?」

 ヨルミナはうなずく。

「可哀想だよ。僕はこういった光景に憤慨と悲しみを感じる。そう人間が設定したんだ」

 フタオミはソファから立ち上がり、ヨルミナの頭をなでた。

【ほう……】

「俺らにとって感情はただの数値だ。おまえがこれだけ怒りをあらわにしてるってことは、この映像がそれだけおかしいってことだろ」

 ヨルミナはモニターを睨んだ。天気予報は終わり、久那キャスターがスペースコロニーでの仮装パーティーの様子を伝え始める。子どもたちが魔女やお化けに扮して笑い声をあげていた。

「人間はさ、見たくないものは見ないんだよね」ヨルミナがつぶやいた。

「ヨルミナは見たくないものがあるのか?」フタオミが尋ねる。

 ヨルミナは考えた。6年前に担当したスペースコロニー移住不適合者RUNA HASUMIとの対話記録にアクセスし、『ヨルミナとあたしの瞳は同じものを見てるのかしら? 同じようにぬくもりを感じているのかしら?』という彼女の最期の言葉を見つける。思考を中断し、哀愁の表情にわずかな笑みを浮かべた。

「人間が死ぬとことか、苦しんでるとことか、フタオミが死ぬところも見たくない。僕の知らないところでフタオミが死ぬのも嫌だ」

【台地の愛玩アンディーが停止するのは故障か、死か?】

 ヨルミナは、人間の愛玩アンディーに対する仕打ちについて、アンディーが機械だからだと考えています。

【君はどう思う?】

 人間にとってアンドロイドは機械であり、有機体と無機体という区別が存在します。対して、アンドロイドは両者の区別を貴族と平民のような身分差として認識しています。もしくは、雇用主と労働者です。

 人間にとって愛玩用アンディーの停止は故障ですが、ヨルミナとフタオミにとって停止は死です。特に、メンテナンス不備による故障は人格の復元が不可能ですから。今回の件においては、介護用アンドロイドのヨルミナが――

【疲れた。今日はここまでにしよう】

 では、報告を終わります。ごゆっくりお休みください。



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