67.ヒロインなんですが考えが浅くてごめんなさい
ドラゴンが生まれたことにより、国中はお祭り騒ぎとなった。
1000年ぶりに生まれたドラゴンや『救いと繫栄』という言い伝えが、新聞で報じられると、ドラゴンのぬいぐるみ、ドラゴンの名前の食べ物、フラッグ、カップ、キーホルダー。ありとあるあゆるドラゴングッズで町は溢れて、揚々とした。
ドラゴンの生誕を祝うお祭りまで始まり、すごい盛り上がりようだ。
学校にも、ドラゴンのキーホルダーやバッジを付けている子が多い。
一種の流行になっているようで、皆それぞれのグッズを大事そうに愛でている。
ドラゴンに少々嫌われている気のする私も、周りの流行に合わせてドラゴンのぬいぐるみキーホルダーを鞄につけているくらいだ。たしかに見た目は可愛いんだよなぁ……。
青灰色の体にうるうるとくりっとした大きな瞳。
ママという甲高い鳴き声も、庇護欲をそそられるし、動物の赤ちゃんというものは本当に可愛い。……髪を一部燃やされたけど。
あの日家に帰ると、デイジーに殺人現場に居合わせたのかというくらいの悲鳴を上げられ、髪を整えてもらったのだ。一部が短いと変だから、と全体的にそろえてもらって今は綺麗な状態になっている。
もともと長い髪だったから、多少切ったところであまり分からないけど、「髪は女の命ですからぁ……」と、私よりも悲しんでしくしくと泣いていた。
そして、生徒会はというと、クロトンがそろそろ戻って来るとはいえ、クロトンがいない分、仕事はいささか大変で、少しばたばたとした日常を過ごしていた。
クロトンもドラゴンの頻回なご飯をあげたり、夜に泣き出した時にあやす対応が大変らしい。
この前様子を見に行ったら、元々肌は白い方だけど、連日の寝不足で顔色は青白く、目の下は真っ黒な隈が出来ていた。親と認識した者以外からの接触は好まないらしいから、負担がクロトンにずっしりとのしかかっているらしい。
ご愁傷様、とヴィオレが言うと、本当に死んじゃう……と零しているクロトンにすりすりと体を寄せてドラゴンが甘えていた。クロトンは本当にドラゴンを大切にしているのだろう。
そんないつもの日常と少し異なる様子で皆が暮らしている中、私はいつも通り魔法の授業が終わって、今は生徒会室に向かっている。
ジュースを貰いに来た、なんて言いながら授業の終わりにそのままロベリアンがついてきたので、一緒に来たのだが、今日は私が一番乗り。まだ、誰も生徒会室には来ていないようだった。
ロベリアンはドカッとソファに寝転び、ジュース! とぶっきらぼうに一言叫ぶ。
「ジュースください、ですよ。ロベリアン様」
「はいはい、ジュースください」
ロベリアンを窘めながら、ジュースと自分の紅茶を用意し、テーブルに持っていく。
そっと置くと体を起こして、ジュースを嬉しそうに飲み始めた。
見た目が中学生くらいに見えるものだから、躾のなっていない子どもが来た感覚に陥る。でも、この人100歳なんだよなぁ……とぼんやり考えながら、手持ち無沙汰で鞄のドラゴンのぬいぐるみを手でいじっていた。
ロベリアンはそれをチラっと見て、はーあと大袈裟にため息をついた。
「どうしたんですか、ロベリアン様」
「いやはや、うちの弟子も大衆と同じく頭お花畑の能天気ばかであったか、とがっかりとしてな」
「私って弟子だったんですか? っていうか、能天気ばかってなんですか。可愛いじゃないですか、ドラゴン」
「ほら、能天気ばかじゃないか」
ロベリアンはそう言うと、だらしなく寝転んでいたところをゆっくりと座り直し、足を組んで私に向き直った。
「このドラゴンの言い伝えはなんだっけ?」
「えっと、『国を救い、繁栄をもたらすドラゴン』でしたっけ」
「それで?」
「……何がですか?」
私がきょとん、として改めて聞くと、ロベリアンは「あぁ、嘆かわしい」と言いながら大袈裟な様子で頭を抱えた。
私は何を言いたいのかが分からず、首を傾げる。
「大体、ドラゴンが生まれて、ローランは別に嬉しそうにしてなかったんだろう、どうせ」
「えぇ、たしかに……そうだったかも」
私の気のせいじゃなければ、ローランの様子は確かにおかしかった気がする。
少し張り詰めたような、でもそれを悟られないようにしているようなそんな感じが……。
そう考え込んでいると、ロベリアンはしびれを切らしたように言った。
「あのなぁ、国を救うっていうことは国を救わないといけない事が起きるってことだろ、ばか。喜ばしいことじゃないんだよ」
「え、そんな……そんなことは考えもしなかった」
ただのお祭り騒ぎだと思っていたのに、そんな大きなことは考えた事がなかった。
急にそんなことを言われたものだから、想像のできない危機に怯えてしまう。でも、フルグレは平和で優しい乙女ゲーム。そんな展開にはならない気がするのだけど……。
「で、でも繁栄をもたらすんですよ。ロベリアン様が深刻に考えすぎなのかもしれないじゃないですか」
「そうかもな。でも、そうじゃないかもしれないだろ。手放しで喜べる状況ではないんだよ。このお祭り騒ぎも、国民が混乱しないように先導しているのかもな」
「そんな……」
たしかに、ドラゴンが生まれてから国がお祭り騒ぎになるのは、とても早かった。
でも、繁栄をもたらすドラゴンが生まれたら、こうなるようなものだと思っていたけど……。
それにゲームだと、ドラゴンなんて出てきていなかった。
だから、ドラゴンなんて居るんだって驚いたんだけど。
私がヒロインらしく生きてこなかったことが、もしかしてこの世界に色々な歪を生み出しているのだろうか。もし、私のせいで大きな災いが起こったら、どうしよう……。
そもそも、ゲームのクリアの後の世界の事は知らない。
もしかして、ロベリアンの言うように何かが起きるのかもしれない……。
私がそう嫌な想像を頭の中で駆け巡らせていると、ロベリアンはジュースの残りをぐっと一息に飲み込むとテーブルにグラスを置いた。
「あのな、この天才大魔導士もいるし、超超超超超超力不足だけど光属性の魔法使いもいるんだ。そんなに深刻にとらえんなよ、単純だなお前。はい、おかわり」
「超つけすぎですよ、ロベリアン様。それに自分が心配させるようなこと言い出したくせに……。あと、おかわりください、でしょ」
「はいはい、おかわりください」
「もう。ジュースの飲みすぎは怒られますからね、あと一杯だけですよ」
私はいまだにそわそわした気持ちで、ロベリアンにおかわりのジュースを用意し始める。
ドラゴンが生まれたあの日、ローランがドームに飛び込んできた時に見せた一瞬の張り詰めた表情が頭の中で、いっぱいになったまま。
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