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【書籍化】白い結婚、最高です。  作者: 火野村志紀


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58/82

58.役に立ちたくて

 マリーが誰かと話している声が聞こえる。

 ……ユリウス?

 引き寄せられるように、うっすらと瞼を開くと、マリーが深刻そうな顔で私の顔を覗き込んでいる。

 その隣にはユリウスではなく、白衣を着た男性の姿があった。

 あれ? 私、どうしてベッドに寝てるんだろう……


「アニス様、具合は如何ですか?」


 状況が理解出来ずにいる私に、マリーがそう尋ねた。

 そういえば全身がやけに熱っぽいし、頭と喉も少し痛い。

 私が自分の異変を告げると、マリーはふうと溜め息をついてから一言。


「典型的な風邪の症状ですね」

「風邪……私がですか?」

「覚えていませんか? ポワールと買い物している最中に、倒れてしまったのです」


 私はふるふると首を横に振った。レシピ本を探しに行った辺りで、記憶が途切れている。

 マリーによると、ポワールが倒れた私を屋敷まで運んでくれたらしい。

 そして目の前の男性は、急いで手配した医者とのこと。


「ポワールが『大変、大変』と騒いでいるのでどうしたのかと思えば、あなたを丸太のように抱えていたので驚きました」

「丸太のように……」


 ポワール、意外と力持ちなんだなぁ。


「近頃は冷え込みましたからな。アニス様のように体調を崩す患者は多いのです。しかし……」


 医者はそこで言葉を止めると、心配そうに眉を寄せた。


「アニス様の場合、疲れが溜まっていたのもありますな。お体をしっかりと休めていらっしゃいましたか?」

「…………」


 私は、その問いに答えられなかった。

 ここ最近の無理が祟ったということだろう。自業自得以外の何物でもない。

 医者は、黙り込む私を安心させるように、微笑んだ。


「薬を飲んで安静にしていれば、すぐによくなりますよ。では私は、これで失礼いたします」


 医者は一礼して、部屋を後にした。

 マリーも彼の後に続くのかと思いきや、ベッドの脇に椅子を置いて腰を下ろした。


「アニス様の看病はお任せください」

「で、ですが、マリーさんには他のお仕事が……」

「今の私には、これが一番重要な仕事ですので」


 きっぱりと言われてしまった。

 ここは、素直に甘えるしかなさそうだ。


「最近のアニス様は、何かに取り憑かれたように働き続けておられました。気に留めてはおりましたが……配慮が足りず、申し訳ありません」

「いえ……謝るのは私の方です。また迷惑をおかけしてしまいました……」


「オラリア公爵家最大の汚点」とまで言われている私。

 使用人たちは、口々にそんな噂を厳しく批判してくれている。

 しかし、悪い意味で注目を集めているのは事実で、私は今や、オラリア家のお荷物になってしまっていた。

 だからせめてフレイでいる時は、少しでもみんなの役に立ちたくて、ひたすら働き続けて来た。

 なのにこんなことになるなんて……

 ぎゅっと唇を噛み締めていると、マリーに頭を撫でられた。


「あなたは頑張りすぎです。たまにはゆっくりと休んでください」

「……はい」


 とにかく、今は一日でも早く風邪を治すことに専念しよう。

 自分にそう言い聞かせて瞼を閉じても、色々なことを考えてしまう。

 実家のこと、噂のこと、ミルティーユのこと、ユリウスのこと。

 それからポワールにも、後でちゃんとお礼を言わないと。


 そしていつの間にか、私は深い眠りに包まれていた。





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