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オービタルエリス  作者: 樹海人
第5章 ズハル・ムアームラ

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第101話 その時、車内にて

 ロケットバズーカを二発放った男は、直後にデランに斬り伏せた。


「おい、ダイチ! そっちは無事か!?」


 デランは通信機で呼びかける。

 しかし、返事は来ない。


「まさかやられたのか!?」

「ダイチさんのことですから、大丈夫ですよ」


 ミリアがあっさり言う。心配した様子はない。


「まあ、あれくらいならなんとかするか」


 デランも同意見だった。


『いや、ダイチはんの扱い、雑やおもへんか?』

「いえ、これは信頼ですよ。あのダイチさんがバズーカの一発や二発で宇宙の塵(チリ)になるとは思えません」

「そういうことだ。俺達は信じて先に進むだけだ」

『ダイチはん、信頼されてるなあ』


 イクミは感情のこもっていない口調で言う。


「それより、エリスはどうしましたか?」


 ミリアが訊く。


「それより……って、まあええか、ダイチはんのことやし。まあ、エリスの方なら心配いらへんやろ? どんどん元気に前へ突っ走っていってるわ」

「この場合、それが心配なんですけどね」

「心配性だな。このまま強盗集団を一掃してくれる勢いじゃないか」

「ただの強盗だったらそうなんですけど、敵の数や正体がまだわかってないじゃないですか。イクミ、そのあたりはどうなんですか?」

『せやな……リーダーは声から分析して、ガダン・ファールちゅう、土星では札付きの武装集団の頭目やそうや』

「それはエリスに伝えましたか?」

『あぁ、ダメや。こっちの呼びかけを無視しとる』

「まったく仕方ありませんね」


 ミリアは呆れたように言う。


「私達は前も進みましょうか。イクミ、そこで大人しくしていてください」

『ほーい。うちはエリスと違って大人しいからな』

「部屋に籠もってるだけじゃねえのか」


 デランの遠慮のない言い方に、イクミは少しだけ眉をひそめたような気がした。


「ああ見えてイクミは結構アクティブなんですよ」

「へえ、ヒトは見かけによらないもんだな」

『そうそう、うちは引きこもりオタクの見かけにはんしてな~、って、誰が引きこもりオタクやねん!』

「な、なんだ、それは……」


 デランはノリについていけず困惑する。


『あ~ノリが悪いな、デランはんは。やっぱりダイチはんやないとあかんわ~』

「そのダイチは列車の外に放り出されただろ」

『あ~それならダイチはんの通信デバイスの生体反応が消えてないから大丈夫やろ。意識は失ってるかもしれんがな』

「それで大丈夫っていいのか」

「前にもこんなことがありましたが、ダイチさんは無事生還しましたよ」


 ミリアは不安なく言い切る。


「ダイチって、とんでもない奴だったんだな」


 デランはしみじみと言う。




 列車が発車する前まで、時間は少し遡る。


「退屈ね」


 エリスは窓に頬杖をついて、愚痴(ぐち)る。


「そう言わんと、のんびり列車旅を楽しもうや」

「のんびりしていられないのよ」


 エリスは苛立ちが滲み出る発言をする。


「まあまあ、ダイチはん達が買ってくる駅弁とやらを楽しみにしようや」

「お姉様、私、エキベンというものが楽しみです」

「そんなにいいものなの?」

「それはもう格別やで。エウナ―デはんは、そこんとこよおわかっとるみたいやな」

「まったく……」


 いつの間にか通じ合っている二人に、その場は少しだけ和む。


ブオオオオオオン!!


 そこへ突然発車の汽笛が鳴り響く。


「やっと走るのね」


 エリスがせいせいしたと言わんばかりに窓を眺めてみる。


「ダイチ達、早く戻ってこないと置いてかれちゃうんじゃない?」

「いや、予定よりちょっと早すぎるな。何かトラブルか?」


 イクミはデバイスを動かし始める。


シュシュシュシュ


 そして、列車は走り始める。


「ありゃりゃ、やっぱり予定より早いな」

「ダイチ達、置いてかれた?」


 マイナがそわそわする。


「そうかもしれんな。ちょっと声かけてみるか」


 イクミはまるで他人事のように言って、ディスプレイを動かしている。


「まったく面倒ね」


 エリスは窓から駅の様子を見てみる。

 ひょっとしたら、そこでダイチとミリアが見えるかもしれないという気まぐれだった。


『乗員に告ぐ』


 突然アナウンスが流れた。

 それは、これまでの聞き触りのいい女性の声ではなく、野太く威圧感のある男性の声だった。


『今から我々が土星列車を占拠した。乗客はみな人質となってもらう。大人しくしていれば命は保証しよう』


 それだけ言って、アナウンスは途切れる。


「「「「………………」」」」


 エリス達はしばし沈黙した。


「……なにこれ?」


 エリスが不機嫌顔になって口を開く。


「うん、どうやら列車が占拠されたらしい」

「占拠って……面倒くさいことになったわね」

「とか言って楽しそうな顔してるやないか」


 マイナが指摘すると、エリスは「そう?」と答える。


「うん、まあこういうトラブルにあったほうが退屈はせんやろ」

「退屈はしないけどね! ひと暴れしましょうか?」

「おいおい、無茶はあかんよ。ダイチはん達も乗れたかどうかわからんのに」

「ダイチなら自分でなんとかするでしょ」


 エリスがぶっきらぼうにそう言うと、イクミは「おや?」と眉をひそめる。


「前ははぐれただけでメッチャ動揺しとったのにえらい変わりようやな」


 マイナは「あぁ……」と少し青ざめる。

 エリスとの出会いはそのとばっちりで殴り飛ばされたようなところから始まる。そのときのことを思い出した。


「あいつだって成長してるのよ。一人でだってなんとかするでしょ」

「とかなんとかいって、一人でどっかいったら淋しいやろ」


 イクミにそう言われて、エリスはムッと睨む。


「おお、こわ! そんな怖い目で睨まんといて!」

「姉様、私はいつも姉様と一緒です! 淋しくありませんよ!」

「はいはい」


 エリスは横柄に答える。

 エウナーデに対しては未だにどう接していいかわからない。


ドタン!


 車両の扉が強引に開かれる。

 そこから見るからにガラの悪い男が三人ほど入ってくる。

 手にサーベルや銃器が持っている武装集団であった。


「見るからに、俺達が列車を占拠したって宣伝しているような連中やな」


 イクミはエリスに楽しそうに向かって言う。そのエリスは男達を無表情で見つめている。


「この車両にも客がいるぜ!」

「ついてねえな、ハハハ!!」


 男達は下品な高笑いをする。エリスにはこの上なく耳障りだった。


「なんだ、ガキばっかじゃねえか!」

「ガキばっかだったら大人しくしてやがれよ!!」

「でねえと、お仕置きしてやるからな、ガハハハ!!」


 男達に笑われて、エリスはスッと立ち上がる。イクミは小声で「あ~あ~」と諦め気味の声を出す。


「お、なんだ?」

「嬢ちゃん、俺達と遊びたいのか?」

「俺達忙しいんだけど、特別に遊んでやるぜ」


 男達はからかわれるように言われると、エリスはニヤリと笑う。


「それじゃ、遊んでもらいましょうか!」


 そう言うなり、男達へ一気に踏み込んで拳打を繰り出す。


ズドン!!


 車両を揺るがすほどの一撃を受けて男の一人が吹っ飛ぶ。

 そのままの流れで蹴りを放ち、もう一人を吹っ飛ばし、それを踏み台にして、フックを放ち、最後の一人を叩き伏せる。


「わあ!」


 エウナーデは感嘆の声を上げて、パチパチと手を叩く。


「さて、行くわよ!」

「行くってどこに?」


 マイナが不安げに訊く。


「当然、親玉のところよ!」


 マイナは「やっぱり……」とぼやく。

 エリスはそんな態度に構わず、前の車両へ進んでいく。


「姉様! 私もついていきますわ!!」


 エウナーデは嬉々としてついていく。


「ちょ、ちょっと待って!」


 マイナは慌ててついていく。


「やれやれ、楽しそうやないか。事件があるとなあ」


 イクミは歩いて前の車両へ向かおうとする。


ポン


 ディスプレイにコールサインが出る。


「お、ダイチはんか!」


 イクミは嬉々として応答する。

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