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オービタルエリス  作者: jukaito
第5章 ズハル・ムアームラ

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第99話 土星列車

 列車の中の方は外で見るよりも狭く感じた。


「中もかなりレトロチックだな」


 ダイチはそういう感想を漏らす。


「地球ってこういうのが走ってるの?」


 エリスがダイチに訊く。


「さあ……俺が知ってる限りじゃそんなに走ってなかったな」


 ダイチは自動ではない木製のドアを開く。

 車両の中は五人くらいが通れるくらいのスペースに座席が二つずつ敷き詰められている。中央が通路になっていて歩けるようになっている。


「ま、悪くないんじゃない」


 エリスは無造作に空いている座席に着く。

 ミリアはそんなエリスの隣に座る。


「こんなに空いてるのに、なんで隣に座るのよ?」

 というより、この車両にはエリス達しか乗客はいない。別に隣に座るほど差し迫っているわけではない。


「なんとなく、ここがいいような気がして」

「ふうん」


 ミリアの返答に、エリスは適当に答える。そんなに座りたければどうぞ、という言いたげだった。

 そういうわけで座席は何十と空いているというのに、二列の座席に八人座るという状態になった。

 エリス、ミリア、イクミ、エウナーデの組とダイチ、デラン、マイナ、フルートの組になった。ちなみに、フルートはダイチの膝の上に乗っている。エウナーデはエリスの隣に座れなくて、むくれている。


ブオオオオオオン!!


 汽笛の音が車内にも響き渡る。


「お、もうすぐ発車の時間やな」

「おうわ!? 中からでも響くのか!?」


 フルートはダイチにしがみつく。


「ああ、蒸気機関車の気分を出すためにな」

「確かに気分は出るな、ハハ」


 しがみついてくるフルートの爪に食い込んできて、ダイチは苦笑いする。よほど、汽笛の音が苦手なのだろうか。

「私はうるさくて慣れないわ」

 マイナは耳を塞いでいる。

「まあ、汽笛が鳴ったら、そろそろ発車やな。出発進行ってな」


シュシュシュシュシュ


 蒸気が吹き出す音に、さらに車輪が回る音も聞こえてくる。

「ああ、こんな感じだな」

「何が?」

 ダイチのコメントに、エリスが訊く。

「列車が走るって感じだ」

「ふうん、そういうものなのね」

 金星でリニアモーターカーに乗った。

 エリス達にとって、列車というものは車輪を回して走るものではないらしい。

(あれ? でも、この列車、宇宙を走るんだよな。宇宙にレールが伸びて走るのか?)


シュシュシュシュシュ


 車輪が回って、列車が走り出す。


「おお、あれは!?」


 フルートは窓を開けて身を乗り出す。


「おいおい、そんなに顔を出して危ないぞ」


 ダイチが諌める。


「大丈夫や、バリア張っとるから列車からある程度顔を出しても大丈夫や」

「そうなのか……」

「それにしても、ダイチお前……親父じみてないか?」


 デランが言う。


「そ、そうか……」

「ダイチさんはいい父親になれると思いますよ。そう思いますよね、エリス?」

「なんで私にふるのよ……? ダイチが、父親……」


 エリスはダイチをジッと見る。


「プッ」

「おい、なんで笑うんだよ」

「い、いや、だ、だって……ちょっと似合ってると思って……」

「似合ってるのかよ!? っていうか、そのリアクション、ちょっとどころじゃねえだろ!?」

「まあまあ、そんな風にフルートはんを抱っこしてるところを見てると……そう思うのも無理ないで」


 イクミにそう言われて、ダイチは窓ガラスに映った自分達の姿を見てみる。

 確かに、四歳くらいの幼女を膝に抱えて座っている姿は、親子に見えなくもないけど、十六歳のダイチを父親としてみるのはちょっと無理あるのではないか、とダイチは異論を立てたい。


「妾は不満じゃ」


 その気持ちがフルートに通じたのか、そんなことを言ってきた。


「フルート?」

「妾は、ダイチの嫁であり、娘ではないのじゃ」

「……お前はお前で何言ってるんだよ?」


 ダイチは呆れて、もう言い返す気力を失ってしまった。


「って、そうではないんじゃ! ダイチよ、外を見てみよ!」

「外?」


 ダイチはフルートに言われて、外を見てみる。


「おお!?」


 レールの上を歩いていたと思ったら、そのレールが途切れて、宙を駆け巡っていた。


「レールがないのに走ってるのか!?」

「せや、レールがなくても突き進む列車や」

「まさしく宇宙を走るSLってわけか」


 イクミの発言に、ダイチは思わず心躍らせる。


「でも、これって車輪を回している意味あるのかしら?」


 エリスが疑問を投げかける。


「エリス、お前わかってねえな」

「わかってないって何を?」

「そういうのは無粋ってもんだよ。列車は車輪回して走るもんなんだよ」

「ふうん、そういうものなの……」


 エリスはそう言われて、窓から回る車輪を覗く。

 列車はレールの上ではなく、虚空の宇宙に対して車輪を回して走っている。


「……よくわからないわ」


 エリスの返答に、ダイチは落胆する。


「もういいよ。んで、イクミ? この土星列車はどこに向かってるんだ?」

「せやな。今ウチらはここを走っている」


 イクミ達の対面している椅子の中心に土星が立体ホログラムが出現する。

 その土星の環にマーカーがついている。これが現在位置らしい。


「十駅先の駅に行って、そこの軌道エレベーターから土星に降りて、そこの宇宙港から天王星へ行くんや」

「それってどのくらいかかるんだ」

「五日くらいやな」

「結構かかるんだな。それまで列車の旅か」

「ま、星間旅行は気長(きぃなが)くいこうや」

「そうだな……」


 ダイチはそう言いながら、エリスの顔色を伺う。

 そんなにのんびりしていていいのか。

 ダイチはエリスの焦りを察して何か言うのでは、という気になった。


「そうね、退屈はしそうだけど……」


 しかし、出てきた返答は意外にも肯定だった。

 その返答の想いには、イクミの言うことなら、という信頼があるかもしれない、とダイチは思った。

 イクミの顔を見るとどこか得意げだった。




 それから五時間くらい経った。

 列車の汽笛と車輪の音にも慣れてきた。

 というよりも、それが心地よく聞こえて旅の慕情を感じられたのは最初の一時間くらい。

 その後は、たまに見えてくる列車よりも大きな小惑星や氷の粒が周囲に漂う景色に見惚れる。それでも、フルートは「おお!」と目を輝かせて、列車の景色を眺めているものだから「楽しそうだな」とこちらも退屈せずにはすんだ。

 しかし、時間が経つにれてその景色も見慣れてきて、思い思いの雑談していた。

 それにも飽きてきた頃、


『ご乗車の皆様、まもなくチャール駅です。停車時間は三十分です』


 アナウンスが流れた。


「停車時間って長いな」

「まあ降りたら入ったりするからな。コンテナとかも積み込むしな」

「なるほど」


グウウ~


 突然、お腹の虫が鳴る。


「ミリア……」

「だって、お腹空きましたもの」

「あ、そういえば各駅で名物の弁当があるんや」

「駅弁かよ!?」

「名物の弁当、ですか……!」


 ミリアの視線が自然とダイチに寄る。


「お、俺を見るな」

「いいえ、ダイチさんなら必ずや私のためにその名物の弁当を買ってくれると信じています!」

「そんなこと信じてもらってもな……まあ、その駅弁っていうのは興味あるけどな」


 そのつい漏れ出た興味を口にしてしまったのが迂闊だった、とダイチは直後に思う。


「興味があるなら行きましょう!」


 ミリアは、ダイチの手を掴んで強引に立ち上がらせた。


「お、おい!?」

「ささ、行きましょう! そのエキベンを食べ尽くしに!」

「おい、待てよ! 俺は興味あるって言っただけだ! 買いに行くなんて言ってねえぞ!」


 ダイチは口答えしたものの、ミリアは聞く耳を持たなかった。

 ミリアはダイチの手を引っ張って、車両から出ようとする。


「ダイチが行くなら妾も!」


 フルートもついていく。


「ちょっと俺も行ってみるか?」


 デランも列車で座りっぱなしなのは退屈だったのか、ついていく。


「え、え、あ、私は!?」


 マイナは行くべきか行かないべきかあたふたする。


「迷子になるんだから待ってなさいよ」


 エリスは釘を刺す。

 マイナも「それもそうね」と納得して、立ち上がるのをやめた。

 エウナーデはエリスの側にいることだけを考えているので、買いに行く選択肢ははじめから無かった。


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