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アルバの考えた策



ロフテン国のコルタカという街で、サーシャたちと偶然知り合った歌手のバイシャリは、約束通り教団の女神サーシャの願いを聞きとげ「ソンガーの宴」という店で共に教団の歌を唄ってくれた。


教団追放令を出したばかりのロフテン国だったが、それが浸透していないのか、はたまた民はその事自体に快く思っていないのか、店に居合わせたお客も2人の歌を聴きいるように楽しんでいた。


2人のプチコンサートが終わると店内は大きな拍手に包まれ、バイシャリはサーシャと共に、アルバ達が待つテーブルへと着いて行った。


「お二人とも、お見事でしたわ。まさかサーシャ様がこれほど上手いなんて…驚きです。」


「本当ですな。お二人はいいコンビになれそうです。」


サーシャの仲間であるユラと、後から遅れてやってきた教団のピオ司祭はそう言い合って、サーシャとバイシャリを迎える。するとサーシャは照れ笑いを浮かべながら


「小さい頃から毎日歌っていれば、人並みにはなれます。ですが、やはりプロには敵いません。」


と、褐色の肌をしたバイシャリを見てそう話す。バイシャリはその言葉に小さく微笑むと「人並み…では、ありませんよ。」とゆっくりとした口調でサーシャを讃えると、そのまま椅子に腰掛けた。サーシャは一度アルバの元へと行き、肩に手を掛けながら一言二言耳打ちすると、やがて2人して小さく笑っている。その様子を見たバイシャリは、横に座るユラに静かに尋ねた。


「あのお二人は、お付き合いされているの?」


「はい、見ての通りです。えっと…お二人に忠誠を誓った私でも、た…偶にカチンとくるくらい仲がいいの。」


「そうね。私も、カチンときたわ。さっそく相方を盗られた気分。」


「そ、そっちですか?」


ユラは若干緊張しながらも、バイシャリの言葉にそう言って笑った。ユラは、極度の人見知りだ。仕事中の時は、特に緊張しないが、プライベートで知らない人と話すのは苦手だ。ただ、バイシャリは話し方はゆっくりで、話しやすい方ではあった。


「あの…貴女は、教団の方なんですか?」


「いえ、私はアルバ様とサーシャ様の部下です。この中では、サーシャ様とそちらのピオ司祭が教団関係者ですね。」


「まぁ…。」


バイシャリはユラの言葉に、意外そうな表情を浮かべた。この国は、教団追放を決めた国だ。その国の民である自分に、サーシャの正体を、こんなにもサラッと話すとは思わなかった。

ふと目の前を見ると、サーシャは横の椅子をアルバにくっつけて、仲良さそうに並んで座る。彼らの様子は、先ほどこの国の秘密警察をあっという間に追い払った2人とは別人のようだ。


「サーシャ様…。」バイシャリは思わずそう呟いた。彼女は、熱心な教団の信者だ。教団の女神とハッキリ知った以上、気軽には話しかけるのは、気持ち的に憚かられる。だが、サーシャは意外そうな顔で彼女に顔を向けた。


「バイシャリさん。どうしたのですか?」


サーシャは急に「様」をつけた、バイシャリに驚いたのだ。彼女は先ほどまで仲良く歌を唄っていた相手だ。すると、その事に応えるようにバイシャリは一度頭を下げて話し出した。


「私は、教団の信者なんです。子供の時からずっと、貴女にそっくりな女神像に祈ってきたの。」


「それで、教団の歌をあんなにもご存知なんですね。」


「私もサーシャ様と同じように、毎日歌っていたの。本当なら、サーシャ様の前に跪いて教えを乞いたいわ。」


「まぁ…。修道士も信者の方々も、私にとっては可愛い子供たちと同じ。親に跪く子供なんて可笑しいでしょ?」


サーシャはそう言って、バイシャリに微笑んだ。バイシャリも彼女のその言葉を予期していたのか、小さく笑顔を見せる。(ほんと噂通りの優しいお方…。これでは修道士の皆さんが熱狂するのも無理がないわ。)バイシャリがそう思いながら、サーシャを見つめていると、彼女の横にいたアルバが話しかけてきた。


「バイシャリさん。この国では、信者の皆さんはどうしているんですか?」


「はい。ほとんどの方は、信者であることを隠し暮らしています。ですがこの国は貧しいので、熱心な信者の数が多い。それで、さっきの連中みたいのが躍起になって、修道士や信者を捕まえているんです。…見せしめですね。」


彼女がそう話すと、ここロフテン地区の教会を纏めるピオ司祭は、大きく落胆し顔を落とした。


「俺がしっかりして無かったばかりに…何てことだ。」


「ピオ司祭。それは貴方の所為ではありません。気を病んではいけませんよ。」


サーシャがそう励ますとピオは申し訳なさそうに、女神に頭を下げた。彼は、この国の王が教団追放を企んでいた事を直前まで気がつかなかった。それは、この地方を束ねる司祭としては失策と同じだ。


「ところで、捕まった信者や修道士はどうなっているんですか?」


アルバが心配そうにバイシャリに尋ねると、彼女は真っ直ぐ彼を見返して小さく首を振って応える。


「詳しくは知らないの。でも…処刑されたり、強制労働させられたりという話はよく聞く。この国は元々、自由や人権がないの。」


「なんてこと…。」



彼女の言葉に案の定、サーシャは怒りを露わにした。アルバはサーシャの肩に優しく手をおいて


「だが、確証がない。まずは、証拠をつかもう。もし、バイシャリさんが言った通りなら、この国で暴動が起きるかもしれない。そうしたら、多くの人が死ぬ。その前に…。」


と彼女に問いかけた。アルバは、もはやロハンを中心としたザグレア地区の国王になろうとしている。多くの切れ者や英雄たちに囲まれて過ごしている内に、いろいろな事が見えるようになってきていた。「人は環境こそが全て」との言葉通りに。


「はい、騎士さま。でも、まずはどうしましょうか?」


「そうだな…。でも、まずは捕まった信者たちがどうなっているのか…知りたい。本当なら、ロハンの諜報部隊に任せたいが、彼らは今はレダルとサイの情報集めで手一杯だ。」


「そうですね…。」


「そこでだ。ちょっと、俺に考えがある。」


アルバはそう言うと、やがて仲間たちに小声で自分の考えを話し始めた。






アルバが考えた策は、実に単純だった。


要は彼が修道士に扮して、わざと秘密警察に捕まり収監されて様子を探るというものだ。


「それなら、誰かが捕まるのを待っている必要もないし、多くの修道士や信者から直接話を聞ける。彼らを引きいれば正当性も出るし。」


アルバはそう得意げに話すと、サーシャはすぐに泣きそうな顔で文句を言う。彼の聖女でもあるサーシャにとっては、またアルバと離れ離れになってしまう「とんでも話し」だった。


「それでは騎士様だけが、酷い目に遭ってしまいます。共に、参りましょう?」


「バカ言うな。サーシャをそんな目に合わせられるか!俺は全然大丈夫だ。」


アルバは顔を顰めてそう返した。彼女の気持ちはよくわかるが、流石に教団の女神を牢屋には入れさせられない。


「あの…アルバ様自らそんな諜報の真似事などしなくても…。貴方は我らの王なんですよ。私に、行かせてください。」


ユラがすかさず口を挟むが、アルバは首を大きく横に振った。


「ユラさんは女性だ。女性があんな連中に捕まったら、何されるか分かったもんじゃない。」


「そんな事でしたら…気にしないでください。お仕事ですから…。命じていただければ…。」


ユラは顔を赤らめて言うがアルバは慌てて手を大きく振った。


「バカ言わないでくれ。そんなの絶対ダメ!だいたいユラさんはロハンの3大天の一人だぞ?そんな辱めを受けさせられる訳ないだろ?」


「…アルバさまは、その上の王なのですけど…。」


「そこは今はどうでもいい。いいか?これはワザと捕まって探る仕事だ。相手をぶっとばす仕事じゃない。それは、全ての証拠が集まってからだ。その時は、ユラさんに思い切りやって貰うから。」


アルバは、ユラを見てそう応えた。勿論、戦いなら彼女が本気を出せば何も心配はないが、今回は諜報だ。弱いふりをしなくてはならない。彼はユラを説得すると、再びサーシャに目を向ける。


「サーシャ。おまえは、ピオ司祭とこの国の王子の情報を集めておいて。俺は、その間に全部片付けてくるから。」


「はい。でも、アルバ。毎晩帰ってきてくれるでしょう?」


「あのな。俺は、今から牢屋にくんだけど…。」


「…じゃ、嫌です。」


「作戦が終わったら、1週間遊びに行こう!それでどう?」


「…2週間。」


2人のその会話をおとなしく聞いていたバイシャリは、思わず笑い声を漏らしてしまった。とても大それた事をやろうとしている2人とは思えなくてそのギャップが面白かったのだ。


「ユラさん…やっぱり、イラってきますね。」


バイシャリは、冗談ぽくユラにそう話しかけると彼女も呆れたように大きく頷いた。



だが、この時たまたまこの場に居合わせたある傭兵にも、大きな不幸が訪れようとしていた事に、その当の本人も気づかなかった

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