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第29話 「再会」

ついさっきまで様々な調度品で飾り立てられていた城の広間は今やただの屋上だった。

状況を確認しよう。

風の刃付きの破壊光線的なものを防いでいた俺はひょんなことから暴走してしまい城のの上部を綺麗に破壊してしまった。

本当にあれは仕方がなかった。

事故と言うほかないだろう。

だって顔に柔らかいものが当たったんだから!

……とにかく、俺が考え無しで全方位に《魔弾》を放った。

城の全様はわかんないけど外から見たらぽっかりとあるべき場所に何もないようになってんのだろう。

しかし辺りは俺が建物を吹き飛ばしたせいもあって粉塵が舞い上がっているためゴスロリを視認することは出来ない。

そして今はリンをお姫様だっこしている。

ここ重要。

思春期の少年的にね!


『無事?』


「当然」


内心の興ふ……動揺をひた隠し、リンを地面へと降ろす。

ここでお姫様抱っこ解除が惜しいなんて思っていません(棒)

いやほんとにリンが無事で良かったな、うん。


『……これって弁償しなくちゃかな』


「いやいや、そういう問題ではないだろう」


『責任とってよね!///、なんて言われちゃったらどうしよう!』


「大丈夫だから!

それどころじゃないから!」


『そっか!

ミフルがいれば安心だねっ』


「それも違うと思うぞ?」


俺もリンもいつもどうり。

落ち着いたところで現実を見よう。


『ともかく逃げる?

さっきの魔法とか連発されたらやばくない?』


「……話題転換が急だな。

カナタはともかく私のすぐに使える防御で は危ないな。

賛成だ。

他のメンバーも探しに行こうか」


『おっし、それじゃはやくここから……』


煙の向こうで《火》が形を成す。

これって―――《火滅(さっきの)》やつだ。

しかも今度は浮かぶ陣は四つ。

やばいよ!


『へい、ガード一丁!

次来るよ!』


リンを後ろに回して両手を前に差し出す。

直後。


「な……!」


『マジか、よ!』


今度は運よく避けることは叶わなかった。

とんでもない力が防壁を突破せんと直撃した。

全身を軽く覆えるような光で前方が全く見えない。

これは、重いなぁ……!


『うぎぎぎぎ』


「無理に全て防ごうとしなくていい!

受け流せれば……」


そんなこと言われたってそんな余裕ない、と思うけどそれを口にだす余裕こそない。

ガードが負けているわけでもないけどこれのせいで動くことも辺りを窺うこともままならないぞ?

眼前の巨大な《火》のマナのせいで視覚的にもマナを観測()る感覚的にもだ。

この状態が体感時間で一時間、多分実際には数秒続いた後やっと魔法が終わった。


「大丈夫か!?」


うははー、俺もリンもお互いに心配するようなことばっか言ってる気がする。


『何言ってるのさ、相棒を信じなさい』


カラ元気でリンに親指を立てて笑いかける。


「……!」


心配そうにしてくれて優しいなあ。

正直なところ、この世界に来て初めて肉体疲労というものを体験してます、私。

精神的には校長とかセオドア先生との特訓でとっても疲れはしたけど肉体的にはそうなることはなかった。

精霊として存在するから肉体的限界は無いのかも、と思っていたけどそういうわけじゃないのか。


「……その手はどうしたっ?」


リンに言われて上げた自分の両手を見る。

と、


『透けてる』


理解が及ばずとりあえず口に出してみる。

見るとリンとの間にある手が透けていた。

半透明になり肌の色がほとんど消えてガラスの様だ。

……一発ギャグ思いついた。

両手を組み合わせて―――あ、透けてるのに触感はあるんだ―――ある形を作る。


『くらげ!』


「……は?」


あれぇ、半透明だし絶対うけると思ったのに。

リンさんよ、そんなマジで訳わかんないみたいな顔しないで!


「おいおい、やりすぎて頭まで駄目になったか?

軽率だったかもしれないの」


「『!』」


俺たちのすぐ横にはゴスロリが居た。


「とりあえずこれで分かったろう。

何したって無駄だと思うし、そろそろ終わってほしいの」


リンの胸のあたりに魔法陣が描かれる。


「カナタ」


リンがぽつりと言葉を零し俺のほうに手を伸ばした。


『リン』


それにつられて俺を手を上げる。

手が遠い。

さっきは届いた手が遠い。

いや、それどころかいつの間にか肘から先が消え去っている。

なんとなくだけど思った。

リンが死ぬ。

そして、


『それは嫌だ』





草原では圧倒的な蹂躙が見て取れた。

ヨナキリアス、ミフル、アリス、プリートの一団が突如現れた影のような軍勢を片っ端から潰しているのである。

四人は城に向かって移動しているため軍勢から包囲された形になっているが決して飲まれることは無かった。

中心にプリートを置き、三人が迫る敵を抑えて時間を稼いだ後に彼女が広範囲を魔法で薙ぎ払う。

簡単な戦法ではあるが効果は絶大だった。

もちろん全方位から迫ってくる敵を抑えている三人が優れた能力を持っていなければこんな無茶は通らないだろう。

また普通では―――この国(アスカ)の一般的な魔術師からすれば―――考えられないほどのスピードと威力の魔法を連発しているプリートもそうだ。

プリートの魔法で辺りの軍勢を一掃し、つかの間の休息が生まれた。


「だいぶ城に近づいてきましたね」


「いいえっ、近づいているのはミルフィーユ!

そうっ、私の生きる目的ぃ!!」


「……セシルールはまだもつか?」


「はいっ、ですがこのペースだと帰りに《黒金鵄(ヤタガラス)》は無理っす……」


「持ちこたえられるのなら十分だ。

理由は分からんがあの城の近辺にはこいつらはいない」


「うわぁ、派手にやってますね」


アリスにつられて二人は会話を止めて城を仰いだ。

おおよそリン=ソラルかそれの相棒の精霊が起こしたと思われる爆発で城は先程までの外観のバランスを崩している。

そしてその空いた空間から幾つかの光線が放たれていた。

昼の明るさを持つこの世界で、それこそ太陽と例えるにふさわしいほどのものが四つ。

うち三つは城とその外との境界あたりで奇妙にもかき消えている。

そして残りの一つはなんとか拮抗する形で光を散らしている。


「まさかカナタさんはあれを受け止めているんでしょうか」


十中八苦そうとしか受け止められない光景だがそうであってくれるな、と希望をこめてアリスが言った。


「……あれは、やばいな」


ヨナキリアスも似合わない脂汗がにじむのを感じた。


「プリ―、あの魔法が何か分かりますか?」


「《火》の魔法としか分かりませんねぇ。

あれ一つで私たちは全滅するぐらいしか分かりません。

って、死ぬなよ!?

お菓子食えなくなるからぁああ!!!」


後半は皆聞いていない。

と、軍勢がまたも肉薄してきたことによって会話が途切れる。

四人はもはや機械的に行動する。

それほどに軍勢は単純で、持っているものは数の暴力くらいしかなかったのだから。

だが四人も、意思の無い軍勢も城で発生した光が途絶えた後動きを止めた。

雲ひとつない青空。

太陽さえもないその空に穴が出来ていたのだ。

そこから見えるのは新月の森。

彼らが元居た場所だった。





『それは嫌だ』


だけど俺には出来ることが思いつかない。

でも嫌だ。

あーあ、それこそ漫画ならここで俺の秘められた力の覚醒とかするだろうに……。

現実は非情にも、否、普通にそんなことは起きないみたいだ。

てゆーかリンが死んでしまったら俺はどうなるのだろう。

この世界に居る理由がそれこそ無くなってしまう。

って今はリンの心配しろよ俺……。

ちなみにこの間コンマ一秒にも満たない思考の流れです。

こーゆーときってなんだか頭がぼーっとしちゃうのな。

まぁ、有体に言って俺は諦めている。

リンを、大切な人を諦めている。

それは嫌だなぁ。


「遅くなった(謝罪)」


聞きなれた声がした。

というよりもさっきまで会話していたのと同じ声だけどトーンが違う。


「君が結界にひびを入れてくれたから来れたよ」


聞きなれた声。

俺は上空に溢れんばかりのマナを観測()た。


「! 貴女は誰なの!?」


ゴスロリの魔法が止まる。

救世主キターーー!


「『校長(先生)!?』」


俺は信じてたよ!

いつもはいらんことばっかするけどいざという時には助けてくれるって!

まだ諦めるのは早いかもしれない。

消えていく手を無視してゴスロリに《魔弾》を放つ。

今度は俺の肩口まで一気に消えた。

なんかやばい気がするけど深いこと考えたら負けだ!


「お前ッ」


不意を突いた《魔弾》がゴスロリの左手を貫通し、ゴスロリが背中の翼をはためかせて後ろに飛んだ。

空いた傷口から漏れたのは血ではなく―――マナ?


『リン、後ろに』


「そんな手で守られるわけには……!」


反論するリンを無視してゴスロリとの間に立つ。

今みたいなことを繰り返したりなんかしてやるもんか。


「久しぶり(懐)」


校長が俺の前に降り立った。


「繰り返すけど誰なの?

俺と大分似てるようだが……あぁ、なるほど。

「校長」さんなの?」


「分からないのは仕方ない(残念)」


と校長はふっと俺に振り返った。


「やば、消えかけ」


『不穏なこと言わないで下さい!』


「色々と惜しいけど帰るよ」


即決!

そして出来るのですかい!?


「余裕(悦)」


俺の考え読んでくる思考も今では頼りがいがあるぜ!


「そうはいっても先生、他の四名はどこにいるか分かりませんよ?」


「あっちは大丈夫。

飛ぶよ(飛翔)」


いやもうそれ意思じゃなくてそれ行動ですよね?

台詞で言うべきやつじゃないですよね?


「うるさい(怒)」


俺は喋ってないし!


「おい、行かせると思うか?

私はその()を殺したいの」


「……制限一解除」


校長の背から青い《(マナ)》が溢れだし、これまた翼を作った。

白鳥のような一対のそれはまさに天使の翼だ。


「……まさか、その翼は」


校長は片手でリンを掴み、両手が無くなっている俺を見た後―――


『ちょ、な、な』


「どうして抱き締める必要が!?」


俺の代わりにリンが突っ込んでくれた。


「そんなうらや……けしからんですよ!?」


リンの喋り方が俺に汚染されているような気がする。

そして現在俺は(見た目)幼女な校長に腰辺りを掴まれているため酷く落ち着かない。

あとリンの視線が痛い気がする。

気がしまくり。


「そう、そういうことなら今はいいの。

ただしこれで完全に俺らは道を違えることになるな。

あの言葉はやっぱり口先だけのものだったということなの?」


「それは、違う……!」


リンの手を掴み、俺を抱きとめたまま校長はゴスロリに反論する。

その言葉には珍しく感情が乗っている……?


「きっと、あなたたちと一緒だから」


「ほぅ。

まぁ良いけど。

それと―――名を聞いていいか?」


『彼方』


「うん、ありがとう。

彼方に一つ聞いておきたい」


なんだろうか?

魔法を放ってきた時と違い、ゴスロリの声は落ち着いている。


精霊(キミ)から召喚された(この)世界はどう見える?」


妙に抽象的な質問だけど真摯に考えなければいけない気がした。



脳裏に浮かぶのはいつかの帰り道に見た満点の星空。



昨夜見た光の逆柱。



そして彼女(リン)の笑顔。



『俺はこの世界がとても美しく思えるよ』


リンを見る。


『だから結構好きかも』


「そう」


ゴスロリは簡単に一言返した。

それを確認するやいなや校長とともに頭上の穴へと飛ぶ。

城からある程度離れた時に一気にマナを感じた。

城の周りに結界でも張ってあったのだろうか。

こんな量のマナに気がつかなかったなんて。

眼下に見える風景はすべてマナで組まれたものだった。

さざめかない草むらも、太陽(ほし)一つない青空も。


「ありがとう」


校長がぽつりと言った。

意味はまったく分からない。

誰に向けた言葉なのかも。

でも分かったのは、リンが無事だってことと諦めるのにはまだまだ早かったということぐらい。


『さてと、帰ろっか』


「そうだな」


リンの安心した表情を見て心に温かいものが広がる。

たださっきのゴスロリが投げかけた問いかけが少しだけ引っかかっていた。

ご覧いただいた方、感想を下さった方、ありがとうございます。


次回はそろそろ学校に戻る……かもです。


またのお越しをお待ちしております。

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