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第28話 「空には青だけが」

ヨナ―――ヨナキリアス=ロゼス=アクセティアをはじめとする士官学校生(ゼロバン)四名が気がついたとき立っていたのは草原だった。

ひざ下まで伸びた緑の草は柔らかな見た目に反し風にそよぐことはない。

否、そよがせるものがない。

また空は雲ひとつない青空が広がっているものの、そこには太陽は浮かんでいない。

風もなく、太陽もない颯爽とした異世界。

ただ遠くにそびえる一つの城だけが人間の文化を主張している。


(……趣味の悪い城だ。

見渡す限り観測する者は居ないだろうに、ああまで装飾過多にするとは)


敵を探して周囲に気を配っていたヨナだが視線を遮るものもない地形のお陰でその作業はすぐ済み、構えた武器を降ろした。

警戒を緩め、周囲 の仲間へと意識を向ける。


「……無事か?」


一見して誰にも損傷は見受けられないものの確認の意を込めてヨナキリアスは呟いた。


「僕は大丈夫ですよ」


「自分も問題ありませんっ」


「お腹がすきましたね?」


周囲に居た各々が返答をする。

一人だけ会話が成立していなかった気がするがそれはそれで彼らの日常である。




「ではとりあえず現状の確認でもしましょうか」


「……確認するもここがどこかもわからんぞ?」


「ま、そうですね」


ヨナキリアスの言葉にアリスはさらりと返す。


「わ、分かっているのはカナタとソラルさんがいないこと、だけですね。

それと……」


あまりにのほほんとするアリスを見かねたようにミフルが代理で現状を告げた。


「目指すようなものといったらあれぐらいでしょうか」


続けて語る彼が指差した先には城がある。

トキタやソラルもここにいるのなら待ち合わせ出来そうな場所はあそこ以外にない、という予想半分期待半分の提案だ。


「……まぁ 、どこにも行くあてもないのならアレに向かうか……?

何か意見は?」


プリ―が微笑みながら手を上げた。


「いいかしら?」


「……ああ」


「食料と水についてですが……。

今私たちが持っている分の食料ではもって三日と言うところでしょう。

タイムリミ ットがありますよ」


「「「……!」」」


プリートが真っ当なことを喋っただと!?

三人に電撃が走った。


「もし、彼らがいない場合はどうするの?

最悪、待っているのは餓死…………って、まだ約束のミルフィーユとやらを食べていないのに!

死んでた・ま・る・かああぁぁ!」


いつも通りか。

三人は安心した。


「……あの城を探索し、二人が見つからなかった場合のことはあまり考えたくはないが、その時は救援を待つしかない」


「《日》のソラルさんが居れば良かったのですが」


やれやれ、とこぼすアリスにヨナキリアスは仕方ないだろうと言うと、城を見た。


「……ともかく、今はあれに向かうぞ。あれが魔王城の可能性もある」


「ああ、それと……」


アリスが話を遮る。


「 さっきの不可思議な何かがこの現象に関わっているのは確実かと」


「……根拠は?」


「勘ですが何か?」


(アリスさんがボケに回ったっ!

俺が突っ込むべきなの!?)


「…………」


(ってヨナキリアスさん怒ってる!

絶対怒ってる!!)


「というのは冗談で、さっきの何かはトキタさんを大分意識しているようでした。

聞き取りづらかったものの彼を"運命の人"とまで言っていましたし」


「……それが根拠になるか?

偶然かも知れんぞ?」


「たまたま(・・・・)わけのわからない何かが現れ、たまたま(・・・・)彼は意識されており、たまたま(・・・・)その直後に転移に巻き込まれた、と」


アリスの意見にヨナは押し黙った。

流石に偶然にしては出来すぎている。


「さあ 、そんな詮無いことで議論していても食欲の無駄遣いです!

行くと決めたからには即行動!!

行くわよ!!!」


「どうして貴方はテンションで口調と性格が変わるんでしょうか……」


「細かいことは良いのよ!!!」


「……目的はともかく、こいつの言っているとおりだ。

全員行くぞ」


黒衣の集団は行動を開始する。

その様は揺らがない草原に落ちた影だった。





「私は貴方を待っていたの、運命のヒト。

俺の城へようこそ、異邦の精霊」


まだ湯気の上がる紅茶をテーブルに置きゴスロリ校長は立ちあがる。

マナだって感知できないから敵意は無いのだろう。

それはとても自然な動きだ。

……格好と口調は明らかに不自然だけど。

そのままゴスロリ校長は足を進めることなく俺と相対する状態で止まった。

彼我の距離は十メートル。

騒音とかそう言ったものが無いのでこれだけ離れていても声は十分に届く。


「先に関係ないこと聞いていいの?」


ちょっと待て、冷静に考えろ。

この女は本当に俺の知ってる校長なのか?


『……』


「その無言は肯定でいいんだな?」


口調を男物と女物と交互に変えながらコイツは微笑む。

さあ、考えろ俺……!

頭を回転させろ……!

過去見てきたありとあらゆる経験(アニメ)を思い 出せ!

まず分かっているのは相手が校長と同じ容姿をもっていることだ。

しかしながら校長はこれほど感情表現豊かではない。

あの人は語尾に感情を表す単語付ければいいと思ってるだけだ。


「……ホントに良いの?」


外で雑音が聞こえるが気にしない。

今は現状を把握すべきだ。

このゴスロリ(あえて校長はつけない)は口調が変だ……これはどうでもいいや。

キャラ作りがんばってるね!


「おい、俺の話きいてるか?」


またこの口調でキャラ立ちしようとしているゴスロリは今俺に「ようこそ」と言った。

見た目は校長ともろかぶりだけどね!

閑話休題、その言葉(ようこそ)が本意ならばさっきの転送の原因はこの人だ。

そしてこの現状と俺の経験から導き出される答えは… …。


『全然分かんねえよ畜生ッ……!』


もっとラノベを読んでいれば、こんなときどうすればいいか分かったかもしれないのに!


『あ、それで聞きたいことって?』


「急に会話に戻るの……ま、いっか。

お前は俺を「校長」と言ったな。

そこんとこの根拠はなんなの、って思ったの」


『知り合いにあんたらとよく似た人がいただけ』


偶然かはともかく、違う人なんだろう。


「そうか。

ちょこっとその話題気になるけど今はいいや。

……ああそれと、俺は一人だ。

ここに私以外はもともと誰もいないもの」


『え?

じゃあその口調は多重人格でないん?』


俺は多重人格についてぜんっぜん詳しくないんだけどね。

一番知ってるのは千年アイテムもった決闘士(デュエリスト)ぐらいなもんで。


「たじゅ……なんだそれは?」


『いやいや、こっちの話』


あ、外にリンを待たせっぱなしだ。


「……じゃあ本題に入ろうと思うの」


『あーちょっと待った。

連れが居るんで呼ぶよ?』


「……何?」


『リン、入っても大丈夫っぽい』


リンは俺の声に応える形で幕を抜け、広間に入ってきた。


「では失礼す―――」




「お前人間か?」




その瞬間、ゴスロリの放つ雰囲気が変わった。

俺と話していた時の気軽な様子ではなく、何か怒りを堪えるような。

赤い《火(マナ)》が眼前のゴスロリから漏れ出すように発せられる。


「……ッ」


リンにはその情景は見えないだろうが、観測(し)ることは出来たのだろう。

圧されるようにして言葉を失った。




「答えてくれるの?」




『ああ、この娘(こ)は人間で……俺の大切なパートナーだ』


両者の間に立ち、告げる。


「なら、お前には死んでもらいたい。

あんなこと私だけで十分だもの」


いきなしヤル気マンマンかよ!?

ゴスロリの背中に《火》で編まれた翼がいっぱい生えてきたっ!?

やだ、カッコいい…………ではなく、いやな直感があった。

この翼も魔法なのだろう。

しかし、俺のアドバンテージである魔法の発動前の察知が出来なかったのだ。

それはつまり……。


『一旦逃げよう!』


「ああ!」


身体強化、ではなく『必殺・精霊だっしゅ』を用い、リンを抱えて部屋から飛び出た。

今回はお互いにもともと示し合わせていたためリンが応答以外に声を上げることは無かった。

一瞬で幕を抜け階段を降り……ん?

着地まで時間がありすぎるな……って俺飛んでる!?

つまりアぁぁぁイ キャぁぁぁン フラ(着地しちゃったよ!)!?


『よいしょ、って危ねー!』


階段分を飛び越えただけでしたっ。

一階層下にあたる場所、丁度俺たちが現れた辺りに着地をする。

と、背後でマナが集まって行くのを感じた。

さっきは察知できなかったのに今回は出来たぞ……?


「《火滅(バニッシュメント)》」


轟!


頭上を半径三メートルほどの極太光線が抜けた。


『この攻撃俺もろとも殺す気だー!

短い対話だったなコンチクショー!!』


話があるんじゃなかったんかい!!!


「防御を!」


腕の中のリンに従って咄嗟に防壁を張る。

これも特訓の賜物!

とはいってもこれも純粋に集めたマナを全方位に放出してるだけなんだけども。

こんな簡単な理屈だけども校長曰く「通常火力でこれを破壊するのは不可能」程度の防御力はあるらしい。

そういえば防壁(これ)の技名考えるの忘れてたぜ!


『あれ? 避けたんだから防御する意味無いんじゃね?』


「いいや、この魔法の怖いところはこれからだ」


防壁を張りつつリンを抱えたまま尋ねると、緊張したリンの声が返ってきた。

頭上では光線が少しずつ細くなっている。


「これが抜けた後の射線上は真空状態になる。

それゆえによほどの防壁では無い限り直に防いでは直後の圧縮で砕かれてしまう。

これが《火滅》の第二の効果だ」


リン先生解説ありがとうございます!

解説キャラになってる気がしないでもないけど、きっと俺を思っての説明なんだよな!

と、頭上の光が消え風の刃が乱舞する。


『わー!ガード、ガードォ!』


縋るようにリンが抱きついてきた。

冷静に考えれば俺の両手を空けようとしてくれたのだろう。

だが冷静でいられるはずもない。

だって、こう柔らかいものが押し付けられたっていうか、まるで世界から祝福されたって言うか、なんていうか刺激が強すぎたっていうか。

一言で言うならば、むにゅ、って。


『み・な・ぎっ・て・き・た!』


俺のマナによって城の俺より上が爆散した。





城に向かっていた四名は丁度この様を見ていた。


「……あの爆発」


「ええ、二人ですね」


いくらなんでも巨大建築物を一部爆砕できる存在なんてそうそういない。

そしてその削り方は先程カナタが森に道を拓いた時の様子と同じだ。


「よかった、無事だったんだな……!」


「よおっし!これで私のミルフィーユは安ッ泰!」


プリートの言葉に反応する者はない。

要は馴れというやつで。


「……ともかく、早く向かうぞ。

今の魔法は尋常じゃない」


「了解です!」


「……待って下さい、そうはいかないみたいですよ?」

アリスが全員を止めた。


「「「!」」」


前方にここに飛ばされる直前に見たナニカに良く似た集団が突如出現した。

ただしそれらは先程のものとは違い、輪郭も形もはっきりとしている。

一般の兵士の格好をしている。

数はヨナキリアスの目算で軽く千を超えている。


「……突破するぞ!」

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