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第24話 「瞬間、光重ねて」

このタイトルにデジャビュを感じたそこの貴方。それは気のせいです。ええ、きっと。

彼女は思索に耽る。

後悔に苦しみながら。


どうにか出来なかったのか?


幾度となく繰り返した自分への問いかけ。

今は動けないこの義体で、五百年前のあの日々を懐古する。


ちょうど今ぐらいだったろうか、彼らが一歩を踏み出したのは。

踏み外してしまったのは。


毎晩、彼を助ける方法を考える。

答えはまだ出ていない。





「私も初めてだから……って《感覚共有(シンクロ)》!?」


リンが立ち止まっていたかのようにずっこけた。

まるでお昼にある新喜劇みたいな感じに。


『リン?どうしたん?』


リンはそのまま立ちあがることも無く倒れたままぶつぶつと何かを言っている。


「恥ず……い……勘違……というのか……」


『もしもーし、聞こえますかー』


異様な雰囲気のリンに対して知らずと敬語になってしまう。

誰だって知り合いがいきなり地面に突っ伏したまま独り言を始めたら怖いだろう。

このままブリッジして走りまわったら俺はちびる自信がある。

精霊(オレ)はトイレしないけど。


「これ…………で痴……は……か」


ともかく、触らぬ美少女に祟りなし。

ほっとくとしよう。

べ、別に怖いってわけじゃないんだゾ?




数分後にリンはようやく落ち着きを取り戻した。

立ちあがると何事も無かったかのような表情で語りだした。

無かったことにするつもりだな、この子。


「《感覚共有》か。

言われてみればそんなこと考えもしなかった」


うむうむ、と顎にてを当てながら真剣にうなずくリンの顔には突っ伏していたときについた草がいくつか付いておりなんとなく締まらない。


『顔にいろいろついてるよ』


「!?」


俺が指摘すると弾丸もかくや、というスピードで草を払った。

正直まだ付いているけどこれ以上言うのも酷だろう。


『とまぁ、俺にしろタナトスさんにしろリンに近しい精霊はみんなそんなことする必要無かったしね』


話を戻そう。

あ、こっからは校長の受け売りなんで俺はおまり理解してないので数行読み飛ばしてもらっても結構。

俺の言葉ではないので全く傷つかないよ!



そもそも《感覚共有》とは字の如く感覚を共有する魔法である。

間者と視覚を共有して遠くから偵察を試みたりする際に、と何百年も前に発明された魔法だ。

両者の合意のもとでなければ繋がることが出来ないという欠点があるもののこれはかなり有効だったらしく幾つかの国が消えていったらしい。

相手の全戦力が分かっていれば情報は戦争への抑止力どころか起爆剤となったのだろう。

勝つ戦いは誰だって好きだろうから。

しかしこれが作られてから数年でほとんどの国がこれに対抗する術を生み出していたため本来の用途では使われなくなった。

本来の用途では使われなくなったこの魔法であるが、これに目を付けた人々がいた。

それが精霊と召喚者だ。

精霊は異世界の存在であるため、彼らの中にはここでいう所の目がないものも多くいた。

そんな精霊たちに召喚者と感覚を―――ここでは例として視覚―――を共有させたのだ。

同じものを見て、触れば誰だって何だって近づける。

そういったわけで《感覚共有》は人々に受け入れられ今日でも使われているのである。

ちなみに《感覚共有》の一歩先を行く魔法には《一体化》というものがあるらしいが、大禁術となっている。



つまるところ《感覚共有》とは感覚を共有出来る魔法ってこと。

おわかりいただけただろうか、俺の説明下手を。

え?そんな歴史とか説明する必要あったのかって?

蛇足だよ、言わせんな恥ずかしい。

なにはともあれ。


「それにしても、わざわざ何を共有するんだ?

私もカナタも共有すべき感覚などないだろう?」


『マナをリンに見せてあげたくてさ』


リンにもこの森の風景を見せてあげたいと思ったのだ。


「そうか、それなら戦闘にも役立つな。

しかしカナタは目で見ているのではないと以前言っていたではないか?」


うむ。

精霊の心、召喚者知らず。

リンはひとえに俺が戦闘のために提案したと思っているようだ。


『それは大丈夫。

テレビのチャンネルを合わせるみたいな感じで試してたら出来たよ。

今は目で観てるよ』


「テレビノチャンネル?なんだそれは」


うん、わかるわきゃねーよなー。


『気にしないでいいよー』


「ふむ、やはりカナタはすごいな。

では始めよう」


何をすごいと思ってくれたんだか。

と、リンの瞳を覆うようにマナで描かれた幾何学模様の魔法陣が浮かぶ。

ちなみに、人間側が精霊に合わせる場合はそれに対応した機能を一時的に封じる必要がある。

校長曰く人では精霊の感じ取れる世界の情報と自分で感じ取ったものを同時に処理できないとか言っていた。

実際そうなのかわからないが、校長がわざわざ言っていたのだから問題があるのだろう。

輝く《日》の魔法陣が形を成した直後にリンは視力を失ったようだ。


「これは……」


『なんか問題あった?』


「いいや、ただ……」


『?』


「なんでもない、さあ」


本来あるものを失うということはとても恐ろしいことなのかもしれない。

目を閉じたリンのほほ笑みはひどく弱い。

リンにあんまり長くこの怖さを感じさせるのも忍びないしさっさと進めよう。

ちなみにおどおどしてるリンも可愛い。

小動物的な。


『じゃあいくよ?』


「ああ」


リンの正面に立ち、両手を絡める。

その瞬間、リンの体がびくりと震えた。


『……』


こつん、と額を合わせる。

互いの吐息を感じれるぐらいの距離。

リンにあわせて俺も瞳を閉じる。



「『《感覚共有(シンクロ)》』」



一瞬、マナが流れるのを感じたが俺の体に変化は何も訪れない。


『これでいいのかな?

離れるよ』


「ああ」


少々以上に惜しいがリンから離れる。

この設営所には簡易浴室もあるらしくリンからはいい匂いがした。

くっ、静まれ……!

俺の中の(ほんのう)よ…!!


「そんなに見ないでくれ…」


『はい!?』


言われてリンの顔をじっと見つめていたことに気がついた。

目を閉じたリンの顔にはうっすらと朱がかかっている。

……お風呂をのぞきに行ったら実はばれてました、的な恥ずかしさだよ!

あわてて目をつぶる。

今は視覚を共有しているから俺が見ているものをリンが見ているんだった。

とりあえず深呼吸。


『ひっひっふーひっひっふー』


「どうしたんだ?」


焦りすぎてラマーズ法してたぜ!


『…ふぅ』


とりあえず落ち着いた。

別に賢者になったわけではない。

さて、リンに森を見せてあげようか。


『これがキミに見せたかった幻想(ふうけい)だよ』


そういって閉じた目を開ける。


「!」


リンが息をのむのが分かった。





それからちょうど一時間後、二人で天幕に戻った。


「あらあら、おかえりなさい。

ちょうど準備もできたところですわ」


『ただいま…ってこれは』


「すごいな」


そこにはテーブル狭しと並べられた料理が圧倒的な存在感を放っていた。

焼きたてらしくバターの香りがするパン。

甘辛い香りのソースがたっぷりとかかった肉料理。

溶いた卵が入ったさっぱりめっぽいスープ。

色とりどりの新鮮そうな野菜がこんもりと積まれたサラダ。

エトセトラエトセトラ。

果ては北京ダックっぽいものも、ってか北京ダックそのもの。

ここはどこかのれすとらんですか?


『これだけの材料どうしたんですか?』


「乙女の秘密です」


うむ、プリ―さんに突っ込むことはしまい。


「カナタ座れば?」


『うん』


当然ミフルも突っ込みをわざわざすることは無かった。


「それにしてもお二人とも体にたくさん葉がついてますね?」


アリスさんが面白いものを見つけた、と言わんばかりに聞いてきた。

嫌な予感がする。


「……鍛錬でもしてきたのか?」


ま、別に隠すことでもないか。


『ちが』


「ああそうっ!鍛錬をしてきたっ!」


リン!?


「へぇ、武具も身に付けずにですか?」


「え、と、そうだ!体術の訓練を」


「”夜”に”体”術の”鍛錬”を”男女”で、ですか」


アリスさん強調するところおかしくないですか!?


夜。


体。


鍛錬。


男女。


ぼんっ!

リンが煙を吹いた。


「…からかうのもそれぐらいにしておけよ」


ヨナさんがそう助け舟を出してくれるまでアリスさんによるリンいじりは続いた。

ちなみに料理の感想はというととんでもなく美味かった。

プリ―さんに料理人になることを勧めてみたところ彼女は満足げに笑っていた。

桁違いのスピードで食べ物を処理しながらだったが。

こんな修学旅行のような夜は更けていった。

毎度になりますが、ご覧いただきありがとうございます。


真ん中ぐらいで彼方がトイレしないとか呟いてますが、マジです。

そんなに取り上げることも無かったのでスルーしてきました。


彼方とリンがあの後何をして一時間過ごしたのかは現時点ではご想像にお任せします。


だらだらと進んでしまっていますが、グダグダにならないよう気をつけていきたいと思います。


ではでは、またのお越しをお待ちしております。

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