第22話 「揺れる車窓から」
いざ、演習だ!
…とはいうものの、揺れる馬車の中というのは予想を超えて暇だ。
これならもくもくとご飯粒をちねるなどといった圧倒的に無駄な作業をしていたほうが良いわー。
ちねり米を一生で一度は食べてみたいと思う俺は異端だろうか。
そういや、この世界に来てから米を食べていない。
ともかく米食いたいな。
『ふぁ~』
俺たちエクリプスの生徒は三日前の朝にスパイアを出発し、今朝士官学校と合流を果たした。
それからかなりの時間がながれている。
しかし向こうさんも当然馬車で移動しているためほとんど顔を見ていない。
ただ、一概に馬車と言っても十人そこらしか乗れない俺たちの馬車と違って士官学校の馬車はもっと定員が多いようだ。
アクション映画で軍人さんがトラックにひしめき合うように乗ってるイメージらしい。
そもそも彼らは学生とは言え軍属なのだから当然かもしれない。
「暇そうだな?」
『うーん、せめて本でも読めたらいいのに』
上下左右にガタガタと揺れるため、小さな文字なんて読めたものではない。
漫画とかも無いし、地デジ化もまだだしね。
「あまり贅沢を言うものじゃない。そんな快適に過ごせるのは 王族か貴族ぐらいだろう」
「つまりは世の中金ってわけだよー!」
『んなもともこもない』
ティーちゃんはまだ学年的には演習に参加することはないはずだったが、リンと俺が参加すると聞いて急遽参加を決定したのだ。
さすがに特殊部隊には入れなかったけど。
「そうだ、気になってたことがあった」
『へい?』
「カナタくんの女性の好み?」
「魔物についてだ」
『?』
どうして俺に聞くのだろう。
「リンちゃんが無視するぅー…」
「ああもうっ、ティー。
お前は気にならないのか?」
リンはティーちゃんに優しいなあ。
「んー?何がー?」
「カナタが魔物を知っていることだ」
「別にきにならないよー」
「ティーに聞いた私が馬鹿だったのか……!」
何はともあれ。
車内の話題は魔物について、になった。
『魔物ってスライムとかドラゴンとかじゃないの?
あとリビングデッドとか?』
「ドラゴンが魔物?それにリビングデッドとはなんだ?」
ありゃ?
俺の発言に不思議な顔をしてる。
「もしかしてカナタはドラゴンと戦ったことがあるのか?」
『竜ならなんども狩ったことあるよ!』
「なん…だと…?」
異世界に来てまでこのリアクションを聞くことができるとは。
『と、冗談はこれくらいにして。
俺の世界には俺の知る限りは現実に魔物なんていなかったよ。
ドラゴンとかリビングデッド……ゾンビならわかる?
こういうのは空想の産物』
「……やはりカナタの持っている知識は間違っている」
『魔物について俺の考えが?』
「そうだ。
今までの話しから推測するにカナタの言う魔物は怪物と同意なのだろう。
だがこの世界の魔物の概念とは「魔を宿す物」だ」
『生き物じゃないってこと?』
「そうではない場合が多々あるということだ。意思を持つモノとも言えるか」
『……いまいちわかんにゃい』
男のネコ真似って気持ち悪いよね!
「見たことがなけれはそんなものか。
マナを見れるカナタから奴らはどう見えるのかは分からないが一目でわかるだろう」
『わかるのかな?』
「分かるさ。カナタなら」
全幅の信頼ってのはちょっとだけ俺には重い、かな。
『ティーちゃんは魔物をみたことあるの?』
「……」
へんじがない。
『ティーちゃん?』
「ぐー」
ティーちゃんは説明の途中で眠っていたようだ。
この寝息は本当に寝てるのか……?
「さて、そろそろ着くと思うぞ」
リンが外を見ながら言った。
『ついにか!見せて見せて!』
リン顔を出している窓に体を滑り込ませるとそこには様々なマナを放出する森と山々が見えた。
「か、ち、近すぎ…!」
『うっわぁー!』
日中だというのに光を放っているように見えるこの光景はとても幻想的だ。
俺がマナを観測る時は視覚で感じ取っているわけじゃないけど、膨大な自然の奔流はとても幻想的に「見えた」。
様々な色のマナが空へと向かって伸びる様は逆天国の階段といったところか。
とにもかくにも意味のある言葉がでない。
夜ならばどうみえるのだろうか。
「か、カナタぁー」
「ふつうは男のヒトがどぎまぎするものなのにねー」
『恋愛の形はそれぞれなのよ』
ティーちゃんたちがなにか喋っていたが全く耳に入らない。
興奮した俺のテンションは到着するまで約一時間続いた。
到着してからはみんなの準備は早かった。
リンは終始ぐったりしていたけど。
各自割り振られた部隊ごとに両学校本部の設営を済ませるまで二時間とかからなかった。
《土》と《水》の混合魔法でコンクリ造りのような建物が出来上がる様は圧巻だった。
『凄いな、まるで魔法だ』
「だから魔法だよ」
リンからツッコミをされるほど。
そして野営用のテントを張り終えた現在は部隊ごとのブリーフィングを行ったりしている。
「甲部隊は探索用の装備を装着した後、セオドア=クライハウス教員の元へ集合!十五分でだ!」
本部から《風》を利用した拡声魔法で怒号が飛ぶ。
「乙部隊も同様の装備で集合なさい。甲部隊よりも早く集まること」
演習の内容は以前校長と話したとおり、生徒の習熟だ。
現在は特にアスカは戦線を開いておらず、命懸けの経験を獲得するための場所が少ないため各地の士官学校ではこの演習と同様なものが開催されているんだそうだ。
ただし、魔導学校で参加してるのは俺たちだけ。
参加する生徒は両校の生徒が約半分ずつの混成部隊を組み、それの指揮官として教員がつく。
部隊数は通常のもの(部隊名は甲、乙、丙、丁……と続く。全く覚えずらい(´Д`))は十。
それに加えて俺とリンが所属することになる「特殊部隊」が一つの計十一。
ただし特殊部隊には指揮官が就くことがなく、生徒だけで独立行動をする。
『ティーちゃんも集合地点に行っちゃったし、俺たちはどこに行けばいーのかな?』
「"俺たち二人で"!?か、カナタはどどこでななな何をするつもりなんだっ!」
リンちゃんはこんらん中だ!
「久しぶり、カナタ」
声の主はミフルだった。
以前リンと戦った時とは付けていなかった両手両足のアクセサリーを付けている以外は黒いマントと軽そうな防具を付けているだけで違いはほとんど見えない。
『リンに瞬殺された薄幸緑髪騎士ミフル=セシルール、通称薄幸じゃないか』
「誰に説明してんだよ!つーか通称てなんだ!」
女性に嫌な(恐ろしい)経験があるということでミフル(以下ハッコー)とヨナとはだいぶ仲良くなった。
同じ傷を持つ者同士、傷をなめあってるとか言うなー。
「久しぶりだな。たった半月会わなかっただけだというのに腕を上げたようだな」
「ははは…あんな負け方許さん、ってかなり絞られましたから」
俺には違いがぜんっぜんわからん。
どうみてもへたれっぽい。
今だって恐怖の元凶から話し掛けられて脂汗だっらだらだし。
「俺たちは出発は明日だから一応確認だけするみたいだってよ」
『じゃあハッコーに着いて行けばいいん?』
「なに?それで通す気ですか?」
「行こうか、セシルールさん」
「了解しましたっ」
『行こうか、ハッコー』
「名前で読んでください!?」
どうも十日ぶりのお久しぶりです。
ここまで来たらさっさと演習に入れよ!といった具合に、今回もあまり進んでないですね…。
ミフルは彼方以上にツッコミ(ヘタれ)として活躍してくれるかもしれません。
ではまたのお越しをお待ちしております。それでは。