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第14話 「眠り姫と精霊と(3)」


「死ねっ、小僧!」


後ろから両刃の剣を持った男が飛びかかって来た。

動きもセオドア先生に比べると亀のように鈍重に見える。

いや、亀もあれで結構速く動く時もあるから失礼だったかな?


「来るぞ、カナタ!」


『大丈ぶい』


振り向きざまに剣をたたき落とし、足を引っ掛け転ばせる。


「うがっ!」


男は頭から地面に落っこちると意識を失った…って弱っ。

せっかく後ろとってんのにわざわざ大声上げるとかワケわかんね。


『先生たち呼んでくれない?』


前後をパッと見て人数を確認する。

《闇》のマナで形作られた黒い(シャドーボール)を放とうとしているのが前後に各2名、剣やらダガーやらを持ったのが前に3人と後ろに2人。

意識を失った特攻馬鹿を除いて計9人。

と確認しきったところで少しずつタイミングをずらして魔法を発動させてきた。


『あっぶな』


「え?―――」


咄嗟にリンを抱えて横に逃げる。

こちらに向けてくる殺気といい、魔法の発動のスピードといいかなりのものだ。

魔法の着弾に合わせて前後から5人の男が飛びかかって来た。

さっきの馬鹿とは違うようで踏み込みの音さえ出さずに。

かなりの手練を相手にこのままリンを抱えて立っているようでは俺らの命は無い。

人数の少ない方へこちらから飛び込んでいく。


『必殺・精霊だっしゅ!』


意味のないことを叫びながら。

いやいや、あれですよ。ドーパミンが出て興奮してる感じの。最高にハイってやつ。

この世界に来て、テンションが上がると身体能力が上がるようになったと気がついたのはセオドア先生との特訓の時だ。

もともとこんなに痛い性格ではなかった……と思う。


ともかく、リンをまたお姫様抱っこして男たちの間を駆け抜けた。

すり抜けざまに2人の獲物(ぶき)をけっ飛ばしつつ。


「お、俺様の剣が!」


「鉄の剣を折っただと!?」


ブレーキの代わりに魔法を使ったうちの1人の顔を使う。


「へぶしっ」


すげぇ、何回転もして転がってった。

流石精霊だっしゅ!


説明しよう精霊だっしゅとは(略)一瞬で十メートルを駆け抜ける必殺わざなのだ!

別名、電光石火。後からカッコよさ気な名前を思いついた。

え?たいしてカッコ良くない?心配しないで、自覚はある(キリッ。


「い、今何がおきたの?」


突然なんかが起きるとときたまリンは口調が可愛くなることに気がついたよ。

…今はそんな事態じゃないですよねー。


『リン先生たちを』


俺とリンが襲われた理由は全く分からないが、幸運にも今日はこの街に数名の教師がいるはず。

こうして軽く戦ってみて分かったが今のところ負ける気がしない。

セオドア先生との打ち合いに比べたらこの集団を相手にする方がずいぶんマシだ。

先生たちが来て、数の不利さえ補えば負けるはずない。


「貴様ァ」


急に近くに立っていた俺に驚きつつも残った方の魔術師がマナを操り始める。

それと同時にリンがマナを操りだしたのを感知する。


『こんなドガンッ!至近距離でつかわせるわけないでしょ』


『こんな』ぐらいのところで1発蹴りを叩き込んだ所でその男は壁にめり込むようにしてこちらも吹っ飛んだ。

多分最後まで聞こえてなかったと思う。

俺が言い終わると同時にリンの魔法が天に昇っていき三尺玉ばりの爆発を引きおこした。

綺麗な花火だぜ。


「カナタ、私も戦うから降ろしてくれ」


少し顔を赤く染めたリンを降ろして残りの男たちと対峙する。

今の一連の流れ(せんとう)でかなり焦ってる様子だ。


『もう一度聞きますけど、何の用ですか?』


ただの時間稼ぎに最初に声をかけてみる。


「昨日のこと憶えてねえのかよ?バケモノ」


予想外にも男が会話に乗って来た。


「貴様ッ、化け物など!」


『リン、少し抑えてね』


「だが…」


「テメぇのせいで俺たちの計画はおじゃんだ」


男の後ろで残った魔術師たちがマナを操り始めた。

なるほど、あちらさんも時間稼ぎらしい。


『計画ってなんですか?というか俺あんたらみたいなわけわからん集団に狙われる覚えはないんですが』


遠くのほうから近づいて来るマナが複数ある。

おそらく先生たちが魔法で移動しているのだろう。


「おいおい、昨日のこと忘れたとは言わせねぇぞ」


男の態度は喧嘩腰にみえるが目は落ち着いてる。

てか昨日あったことといえば……


『誘拐事件?』


「おい、まさか今思い出したんじゃ…」


図星である。

男だけでなくなぜかリンも呆れた顔をしてる。

なんで?


「まさか素でそう言っているとは…」


『だってそのことは今日解決したじゃん』


ルリアは無事で「革命」とかいう犯罪者の計画は丸つぶれ。

解決してないことがどこにあるんだ?


「多分こいつら「革命」の残党だぞ」


リンが呆れからバカを見るような目で俺を見ている。

そんな目で見ないで!……いや、これはこれで…。


『…それぐらい最初から気づいてたもんね』


今気づいた。


「あぁチクショウ、こんな野郎のせいで俺たちは…」


なんで俺は犯罪者からもバカにされてんの?


「だがよ、それも今ばかりで助かったぜ」


男がにやりと笑う。


「時間稼ぎはこれぐらいだ。永遠に眠りに堕ちてしまえ」


この勝負、あちらさんの勝ちらしい。

向こうのほうが早く、欲しいタイミングを得た。

魔術師たちが魔法を完成させた。

負けたとは言っても「時間稼ぎ勝負」に負けただけなんだよね。


『リンは下がって!』


あえて向かってくる魔法に突っ込む。

別に突撃する以外に才能がないってわけじゃないんだからね!

俺を捉えようとする魔法の攻撃はティーちゃんの暴走時に出てきた黒い腕、「侵界」よりも細い。

こんなの当たる道理がない!

最初に倒した男からもう一度剣を奪って喋っていた男と剣を結ぶ。


「おっせえなぁ!」


『まだまだガキなんでね』


軽口を言いあいつつ一撃一撃加えるたびに男の剣が重くなっていく。

けどセオドア先生と比べると大したことない。

それに


「トキタ!」


こっちの時間稼ぎも終わった。

セオドア先生が一瞬で2人の魔術師を切り伏せた。

魔法の腕が消失すると同時にセオドア先生は男の後ろに迫っていた。


「畜生!」


俺よりも危険だと察したらしく、男はセオドア先生に飛びかかっていく。

だが、遅すぎた。

飛びかかろうとした時、男は先生の剣の腹で頭を殴られ一発で昏倒した。





「阿呆、昨日の今日で夜道を歩く馬鹿があるか」


『心配とかないんですか?』


「お前以外に誰一人として立ってないんだ。心配する気も起きん」


え?


誰一人?


『リンッ!』


俺の背後には倒れた(・・・)人影しか無かった。

崩れ落ちた、男たちとリンが。





駆け寄るとリンは額から血を流して意識を失っている。


『リン!?』


抱き上げて呼びかけるも答えてくれることはなかった。


「…どうした?」


『わかりません。さっきまで元気だったのに…』


「まさか例の呪いじゃないのか?いくらなんでもそれだけで意識を失うなどありえんぞ」


まさか、あの腕が呪いだったのか。

ならリンが今こうして意識を失っているのは俺の所為だ。

くだらない時間稼ぎなんてしていないで、魔弾も使っていれば魔法を使わせることも無かったのに。

今思えば、さっきまでの自分はどうしてあそこまで好戦的だったのか。

いつもの俺ならこんなときはリンを連れてまっさきに逃げるはずだ。


「大丈夫ですか!?」


ほかの先生も遅れてやってくる。


「賊は片づけた。それと、ソラルが例の呪いを食らったらしいから部屋に運んでやってくれ」


「…!了解です」


『リンは俺が運びます。先生方はこの男たちをどうにかして下さい』


「…わかった。学校までは俺も同行する」


『ありがとうございます』


俺は倒れたリンをおぶり、先を走るセオドア先生について行った。

意識を失った人間を一人かかえているというのに、全然重く感じなかった。





学校に着き、リンのベッドに彼女を寝かせるまで先生はついてきてくれた。


「校長は朝までは来ない。自分が起こしたことだ、お前が見てろ」


口調は厳しかったが先生は俺の頭をくしゃくしゃに撫でてからどこかに行ってしまった。

特にできることもすることも無いので明りも灯さずになんとなく眠っているリンを見る。

ここにきて直ぐ、ティーちゃんを止めたときにもずっとリンの寝顔を見ていた。


『可愛いなあ』


呟いてから自分の不謹慎さに気がついた。


ご覧下さっている方、お気に入り登録して下さっている方、誠にありがとうございます。


タイトルの眠り姫はリンでした。ルリアはあて馬みたいな感じです。彼方はロリコンではないので。


次でこの事件?は解決するかと思います。それから真剣に書き方の勉強をしたほうがいいのかもしれない……。


またのお越しをお待ちしております。

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