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第13話 「眠り姫と精霊と(2)」

ルリアの寝顔に違和感はない。

ただ眠っているだけだ。

目を覚ますことがないだけで。


「校長先生!」


「診せて」


まだ朝礼前、リンの部屋に校長先生が来た。

俺の目には魔法の影響に見えなかった。

ルリアにマナを重ねて見ることが出来なかったからだ。

リンにそのことを伝えると校長を呼ぶことになった。

そしてその選択は正解だった。


「今、この子の身体には魂が閉じている」


『魂?どう見ても眠っているようにしか…』


「どういうことでしょうか?」


「心を奪われたようなもの。厳密には眠りの呪い」


心奪われた(フォーリンラブ)?


睨まないで校長先生!

というか心読まないで!

俺だけでなく、リンも校長の言っていることが理解出来ない様子だ。


「呪いならばマナの動きでカナタが感知できるのでは?」


『俺には何も見えませんよ?』


俺マナを見るとき色で表しているが、視覚で判断しているのではなく「そう」認識できるだけだから。

たとえどんなに暗いところでも《闇》のマナを見逃すなんてことはあり得ない。

マナと存在する色は似ているけどまったく違う色をしているから。


「君達にこの子が狙われる心当たりは?」


「私は何も」


『…あります』


ルリアが本当にお姫様なら、それが理由だろう。


「カナタ?」


「聞いた?」


『本人から』


リンはルリアの正体を知らないから驚いた表情で俺を見ている。


「それが黙っていたことか?」


『…はい』


リンに包み隠さず話した。


「まったく…そんなこと他言するわけがないだろう」


『約束だったからさ』


「カナタらしいというか馬鹿正直というか」


『馬鹿にしてる?』


「誉めているんだ」


どうだか、なんてここで言ったら話がこじれそうなんで口に出すことは無かった。





やはり校長もルリアの正体を知っていた。

それどころかルリアのお母さんから直々に頼まれたらしい。


『ルリアのお母さんって王妃様なんじゃ…』


「知らぬが仏(笑)」


そこまで言ってそういうのやめて欲しい。





閑話休題。

校長曰く犯人といよりその集団に心当たりがあるらしい。

反政府組織、自称「革命軍」。

この国(アスカ)とラック共和国連合の間にあった小国を母体としている。

他国の王に従うのも、連合に取り込まれるのも良しとせず徹底抗戦を唱えたらしいがいろいろあって軍部の一部を除きアスカに併合された。

その一部が故国を取り戻すためという名目でうごいているらしい。

しかしその発足は今から百年以上前で今ではただの暴力集団と化している。

今回の件は王女のを人質にとって大金を得ようとしていたらしい。

というのも、昨晩そのような脅迫状が届いた模様。

しかし邪魔者(オレ)のせいで王女を奪うことに失敗し、王女の意識を取り戻させることを交渉の要に変更。


『呪いは解けますか?』


「この魔法は解こうとしなければ効果が出ない」


「効果は今出ているのでは?現に彼女は眠っています」


「呪いの効果は夢を見せ続けること。内面に働く呪いだから君がマナを観ることはできない」


肝心の解けるか否かを校長は答えていない。

俺の視線で気がついたのだろう。


「これぐらいの年齢の子ならば私が治療できる。この子のことは私に任せて授業を受けなさい」


「どうする?」


リンは関わった以上、ルリアのことが気になるといった様子だ。

かなりうずうずしてる。


『校長先生に任せよう』


「……わかった」


少々不服そうだったがリンは俺の意見にしたがってくれた。

この件は政治の分野っぽいし面倒そうだしね。

ルリアも無事だってんならもう俺がすることはない。

良かった、良かった。





んでもって、教室。

今1限が終わったところ。

リンが横でかなりそわそわしてる。

多分ルリアのことを心配してるんだろう。


『落ち着きなよ。校長を信じよう?』


「いやいやいやいや、ぜんぜんぜんぜん落ち着いているぞ?」


いつもの冷静な口調で壊れてる…。

ティーちゃんの時もだったけどリンは人に任せることに慣れていない感じがする。

信頼していないわけじゃなくて待つことに慣れていないというか。

まぁ、こればっかりはどうしようもない。

あの校長が言ってたんだし。


「これぐらいの年齢の子ならば私が治療できる」という台詞に違和感はあるけど。


わざわざ限定して言うってことはルリアの年頃じゃなかったら危ないってことなのか。

考えても無知な俺に分かるはずはないので結局待つだけになる。


「おいおい、ソラルさんに何かあったのかい?」


俺とリンの会話が途切れたころを狙ったように例の名無し君が話しかけてきた。

みなさん憶えているだろうか?

ちなみに俺はまだ名前を覚えていません。

リンを落ち着ける方法も思いつかなかったので意識を前の名無し(♂)にむける。


『それよりも君の名前を教えてくれないかな?』


「…僕が話しかけるたびに聞いてくるのやめてくれないかな?

結構傷つくというか…」


「はーい、席につきなさい」


あ、先生だ。

ルリアのことは校長が何とかしてくれると信じているからさほど心配じゃない。

むしろそわそわしてるリンのほうが心配だ。

けれど今は授業だ。

俺は意識を切り替えて勉学に励むことにした。


『まだ後ろ向いてるの?先生来たよ』


「どうして僕はこんなにも邪険に扱われるのだろうか……」


リンに色目使おうとしてた、なんてリンの前で言ったら彼女はどう反応するんだろ。





「よーし、キリがいいとこで終わんなきゃな。これで授業を終わるー」


だからセオドア先生、せめて答えあわせだけでもしてって下さい。

中途半端な授業な黒板を残してセオドア先生は教室を去って行った。

ほんとにあの人の帰るスピードぱねーっす。先生まじぱねーっす。


「ああそうだ、自分の部屋に忘れ物をしていたな」


それ誰に対しての言い訳なんだろうか。自分自身?


『治療するなら保健室かどっかに移してるんじゃない?』


「…少し気分が悪くなったので保健室に行こうと思う」


どうしてそんなに心配だと言わないのだろう。

聞いてみよた。


「カナタには隠せないな」


誰だって授業中もぼそぼそと独り言を言ってたら気がつくと思うけど。

気がつくどころか付近の生徒だけでなく先生もリンの態度に違和感を感じてたし。

基本的に賢いけど……若干あほの子だな。


「わざわざ校長先生に頼み、任せろと言ってくれたんだ。

心配してました、などと言っては失礼にあたるだろう」


うん。本当に賢いんだ。あくまで基本的にだけど。


『先に校長先生の所に行こう。ルリアはリンのこと知らないでしょ』


「む、それもそうだな。

ぐっすり眠る姿は見ていたらまるで姉にでもなったような気持ちになっていた」


お姫様の姉って。

そういうことじゃないってのは分かってるよ?

ただそう思ったってだけで。

くっだらないことを考えているという自覚はあるのでスルーして下さい。





校長室に行くとまたも机に座っている先生がいた。


「アイデンティティーだから」


誰もそんなこと聞いてません。





結果的に言うとルリアは意識を取り戻した。

彼女も寮生活だったらしく今は自室でもう一度治療を受けているらしい。

当の本人は誘拐されたことをまったく憶えておらず、気がついたら昼過ぎでかなり驚いていたとのこと。

俺とリンは明日にでも挨拶に行くことにした。

また、ルリアのこともあり、今日の魔法実技の時間は全学年通して休校になった。

教員総出で学校内に魔法で侵入した形跡の探査と街の見回りに出かけたりするために。

魔導学校である以上、どの先生も基本的に王の認めたかなりの手練の魔術師ばかり。

加えてセオドア先生のように剣技が優れている先生もいる。

それにともなって、俺の特訓は今日ばかりは中止となった。





自由になった放課後。


「みんなでご飯食べに行こー」


というティーちゃんの決定で「月の踊り場」に行くことが決まった。


「いらっしゃい!」


『どうもです』


「お!色男君じゃないか」


「彼はトキタカナタというしっかりとした名前が…」


「はいー、リンちゃん落ち着いてー。おばちゃん上にあがっていーい?」


「料理は適当でいいかい?」


「おまかせー」


先日と同じテーブルを三人で囲む。

すぐに女将さんが料理を持ってきてくれた。


『魚料理ですか!』


そう、何かと肉やパンばかりで少々魚に飢えていていた。


「たまたま鮮魚が手に入ってね」


「これは何という魚なのですか?」


「マグロっていう淡水魚だよ」


『ブッ』


「どいたのー?」


『ごめんなんでもない』


淡水魚て!

それにこの魚、白身なんですが。


「おーい、おかわりくれー」


下から女将さんを呼ぶ声が聞こえてきた。


「おっと、話してる余裕はないみたいだね。ま、それなりにごゆっくり」


今日はこの前よりも早いからじっくりと食べられそうだ。


「「『いただきます』」」


三人で合掌する。

こちらの世界には食前にこのような挨拶をするような決まりは無かったが、癖で俺がしているとリンとティーちゃんもするようになった。

ちなみにディスティ家では当然のルールと化している。

そう、これが俺の計画「人類いただきm(恥ずかしいので省略。





俺の食事中の余計なひと言で久しぶりにタナトスさんにも会った。

ルリアのことも話したけど


『なんで精霊なのにあんたはそんなのに関わるのか理解できないわ』


と怒られた。

メリアといいタナトスさんといいどうしてこうも怒られるんだろう。

デレをくれ。

いや、リンのデレがあればそれだけで…。





そんなこんなで楽しい食事の時間は過ぎていった。

本当に楽しい時間はすぐに去っていく。


「じゃー、私はここでー」


「泊っていくのか?」


そういえば女将さんはティーの叔母さんらしい。


「うん。寮に届けもだしてるから大丈夫ー!」


『じゃ、おやすみ』


「また明日な」


「じゃねー」


こうして俺はリンと2人で夜道を歩く権利を得たのだった。

ティーちゃんがこっそりとウインクをしていた。

ありがとう!ティラミス先生っ!





「なんだかんだで久しぶりだな」


リンが横を歩きながらぽつりと呟いた。

それなりに人通りが多い通りなので危うく聞き逃すところだった。


『ご飯たべに来たのが?』


「いいや、カナタとこうしてゆったりと話すことがだよ」


穏やかな微笑み。


「昼以降はあまり顔を会わせられなかったしな」


『一緒に魔法の特訓したじゃん』


少しおちゃらけつつもリンとの会話を楽しむ。

俺としても結構、いやかなり嬉しいのだ。


「それにしたって特訓中はほとんど口をきく余裕などなかったではないか」


『…もしかして寂しかった?』


「……そうかもしれないな」


『えっ?』


「ふふふ、一本いただきだ」


気になる女の子と2人きりで楽しく話すこのシチュエーションに我ながら浮かれていた。

だから、ってつなげるのはおかしいだろうか。

誰だって未来が分かるわけはない。

この時はこの楽しい時間が無理やり終わらせられるなんて思ってもみなかった。

リンと喋れなくなるなんて、思ってもみなかった。





2人で、微妙にお互いを意識しているような距離で歩いていた。

学校近くの、人が少ない通りに差し掛かった時、複数の男が道をふさいだ。


「なにか用か?」


不審に思ったリンが問いかけるも一団は言葉を返そうとしない。

セオドア先生と打ち合っている時と似たような感覚を感じる。

鋭く、こちらを射殺さんとする殺気。

その中の1人が前に歩いてくる。


「よう、また会ったな。バケモノ」


《闇》のマナが渦巻いた。

毎度、ご覧いただきありがとうございます。


とりあえずお姫様の件は一件落着……?

本気で名無し君の名前を考えていません。いつか思いつくでしょう!(棒)


それではまたのお越しを。


修正:第三話の各属性のシンボルについて

《夜》のシンボル精霊を「蛇」から「月光」に変更しました。

設定ミスでしたorz。すみません!

こんな調子の本作ですが、生温かい目でスルーしてください。

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