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第10話 「プラネタリウム・オーバー」

「…!」


上段から剣が迫る。

なんとか目視できるぎりぎりのスピードのそれをこちらも剣で迎え撃つ。


『っ!』


がぎんっ!と嫌な音と火花を散らせながら剣をそのまま振りぬく。

相手は弾かれた剣を一瞬で制御化におき、また衝撃とともに刃を放つ。

まだまだっ!

俺も振りぬいた剣をそのまま勢いを殺さずに相手の剣にぶつける。

1撃目は相手の剣の横っつらを弾く。

それよりも迅く俺を刈り取りに来る2撃目は上からたたき落とす。

相手の剣先を地面に埋め、今度はこちらから切りかかる。


『うああ!』


一瞬力をため、上段から切り落とす!


「わかり易すぎる」


『え?』


地面に突き刺さっていたはずの剣はもうそこにはない。

しまった、と思っても動き出した体を止めることができない。

全力の1太刀を体を半身そらすだけで避けられる。

渾身の一撃は地面に跡を作っただけ。

そして俺の頭上には相手の剣が添えられていた。


「ほい、お前の負けだ。ってなわけでちっとばかしきゅーけー!」


それまでの鋭い眼光はどこへやら。

セオドア先生は剣を放り投げると練習場の端へと向かい壁を背に座り込んだ。


『いきなりすぎやしませんか?まだ練習初めて1時間も経ってませんよ』


「俺は疲れたんだ」


んな身も蓋もない。

座り込む先生に習い俺も剣を立て掛け、先生の横に立つ。

体が熱くなる感覚こそあったが体の動きが収まるとその熱はすぐに引いて行った。

汗など1滴もかかなかった。


『俺はこんなに運動神経良くなかったはずなんですが』


「そりゃあ人間の体と、ある(マナ)的存在である精霊とじゃ身体の反応速度は比べ物にならんだろうさ」


『すいません、言ってることがよく分かりません』


「気にするな。理解してもらおうとは思っていない」


それは俺がバカってことですか!?


『主人公補正ってやつですね、わかります』


「主人公?お前がか?

主人公なら召喚されたお前は精霊なんて使役されるような存在じゃないだろう。

確かに妙に体の動きが良くなるのは早いが、それだけだ。

どう考えたって絵物語の主人公には物足りん」


やけに饒舌だなおっさん。

そんなに俺の心に傷をつけたいか…orz。


「それよりも…お前たち隠れてないで出て来い。別に怒ったりしないから」


これまたつまらなそうにセオドア先生は入口へと声をかけた。


『ゆ、幽霊でもいるんですか?』


ぎぎぎと俺も入口を見る。

時刻はもう8時過ぎでわざわざこんな時間に練習場に足を運ぶ者がいるとは思えない。

嫌な音をたててレバーが回る。

え?

嘘でしょ?

この世界では幽霊なんて珍しい存在でもないとか?

某魔法の学校みたいに数多くの霊がこの学校に住み着いてたりして。

建てつけの悪い木製の扉わ不快な音をたててゆっくりと開く。

その暗闇から人影が2つ現れる。

シルエットから想像するにそれはまぎれもなく…


『ティーちゃん、にリン?』


「なぜ影だけでティーだとわかるのか甚だ疑問だな」


「いやー、ばれちゃいましたかー」


2人だった。


「こら、寮生はこの時間はもうこの棟には立ち入り禁止だぞ」


「うっわー、先生の嘘つきー!怒らないって言ったじゃないですかー!」


ぶー、とティーちゃんが抗議する。


「大人はずるいもんなんだよ。で、お前らどうしたんだ?」


「邪魔してすみません。先ほどカナタが校長先生に呼ばれてから様子がおかしかったもので」


子どもらしいティーちゃんとは対照的にリンは大人な対応だ。


『ごめん、説明する暇がなくて』


「いや、そこまで深刻そうな顔をしていなかったしな。気になっただけだ」


「あーあー、お熱いことで。面倒だし今日はこれぐらいにしとくわ」


『面倒って放課後の先生との個人授業始ったのって今日からですよね?』


この言い方エロくね?


座り込んでいた先生はさっさと道具を片付け始めた。


「明日からのメニューでも考えてくるから、今日はもうこれまで」


少しばかり言葉を交わしているうちに先生の道具は片付いた。

この人ほんとに帰る準備だけは速いな。


「トキタも、お前たちも、鍵閉めるからとっととここから出ろ」


急かされるようにして俺たちは練習場から追い出された。


「んじゃ、気を付けて帰れー」


『明日も同じ時間ですか?』


「ああ」


鍵をくるくると指で回しながら先生は教員棟へと去って行った。

いや、帰るのもマジはえー。






「それにしてもー、さっきのすごかったねー!」


正門へと向かう廊下を歩きながらティーちゃんがこぼした。


『へ?何が?』


「カナタの剣の腕がだよ。

手を抜いているとはいえ、あの人とあそこまで打ち合える学生はここにはほとんど居まい」


称賛してくれるリンにこそばゆい気持ちになる。


「いっやー、目にも止まらぬとはこのことだねー!」


「うむ、私としても鼻が高い」


『……なんでリンが?』


「はうっ、そんなことよりどういうことだ?いきなりセオドア先生と一対一で稽古など」


今、とてもかわいい声が聞こえた気がしたが幻聴だったのだろうか。


『…ハッ。ええとそれはね―――』


俺は先ほど校長室で聞いた話を話した。


「なんだと?いくらなんでもカナタは先日まで普通の学生だったというのに。

いきなり演習に参加とは異常だぞ?」


歩みを止めてリンが俺を見る。


「カナタは納得できたのか?」


『出来るも出来ないも拒否権は無かったからね』


言いつつ立ち止まるリンを歩くように促す。


「命がかかっているんだぞ?」


歩き始めたもののリンは追及をやめない。

俺としてもそれなりにメリットのある条件だからのんだのだけど。


「あー!さっきのところに忘れ物しちゃったー!」


返す言葉を迷っているとティーちゃんが急に大声をあげた。


「どうした?」


「さっき隠れてた場所に忘れ物しちゃってー。私先に帰っててー。それじゃー!」


「3人夕食を食べると言ったろう!?」


「ごめん!それまた今度ー」


この前のようにドップラー効果を起こしつつティーちゃんは走り去って行った。


『いっちゃった』


竜巻みたいな子だ。


『ん?晩御飯食べてないの?』


「ああ。今日はたまたま遅くなってな。カナタを誘って街の食堂にでも行こうと思ってな」


それは魅力的だ。


『メロウに晩飯はいらないって伝えてあったから助かるよ』


「それはよかった。ふむ、ティーもああいっているし2人で行くか」


『うん。レッツゴー』






8時過ぎ。

日は落ち日中と比べるとだいぶ暗くなったが、等間隔におかれた街灯のおかげで道が見えないことはない。

仕事終わりの大人や仲間で遊んでいる若者も多くいて人は多い。


『どんな店に行くの?』


「行ってのお楽しみだ」


何度尋ねてもほほ笑むだけでリンは答えようとしない。



「おやじー、もう一杯よこせー」


「よーし!今日はとことん飲むぞー!」

「おー!」


「それにしてもうちの親方がよぅ…」

「お、おい。お前後ろ…」

「あぁん?なんだ、って親方ぁー!?」



聞こえてくる喧噪は活気があり、この街が生きているんだと感じた。


『みんな楽しそうだね』


「カナタはああして騒ぐのが好きなのか?」


『そうでもないけどさ、楽しそうにしてる人を見るのって気分がいいじゃん』


「それには同意する。ただああいった酔っ払いは苦手だがな」


『相手するのが面倒なんでしょ?』


「ぶっちゃけてしまうとな。ここを右だ」


たしかに堅そうなリンはああいうのが苦手そうだ。

リンの後を追い、細い道に入る。

さっきまでの通りに比べると細いその通りからもう一回まがったところにその店はあった。


「ここだ。店名は「月の踊り場」、よくティーと2人だけで来るんだ」


『へぇ。ここ木製住宅なんだね?』


言葉の通り、その店は石造りの建物がほとんどを占めるこの街(スパイア)には似つかわしくない木製住宅だった。

山の中にあるロッジのような感じの2階建て。


「家主の趣味らしくてな。さぁ、入ろう」


木の扉を開けると一気になかの喧噪が聞こえてきた。


「いらっしゃいませー、適当なところに座ってー」


カウンターで女性がこっちを見ることなく忙しそうに言った。


「女将さん、ソラルです。上あがってもいいですか?」


「ん?リンちゃんじゃないかい!最近来ないから心配してたんだよ、ってそこの男の子は誰だい!?」


リンが女将さんに声をかけると笑顔で振り向いた。


「もしかしてオトコかい?」


女将さんがそう言うと近くの酔っ払いたちがそれぞれに嘆き始めた。


「そ、そんなぁ!リンちゃんに男がぁー」


「お父さん認めんぞぉー」


「アンタは家に家族がいるでしょうが!詳しい話は後で聞くよ!さっさと上にあがってな」


「ありがとうございます」


苦笑しつつ階段をのぼるリンの後について行くと2階のベランダに出た。

ベランダは人2人には十分すぎるほど広く、これまた木製の椅子とテーブルがある。


「座ろうか」


『うん』


向かい合う形で座るとリンが口を開いた。


「カナタはもう演習に参加するのは決めたのだな?」


『うん。さっきはああいったけど自分で考えて決めたよ』


「そうか、なら私も深くは問うまい。…私にも考えがある」


納得してくれたかどうかわからない最後の言葉が妙に気になる。


『考えってな――』


「はいよおまたせ!」


どかどかと階段を女将さんがあがってきた。

両手にはたくさんの料理を抱えている。ちょっと多すぎやしない?


「さすがにそこまで食べれませんよ?」


「いーの、いーの!リンちゃんに彼氏ができた記念なんだから!」


「いや、カナタと私はそんな関係では、カナタも何とか言ってくれないか?」


「恥ずかしがらなくていいのに。彼氏クン、リンちゃんは優しい娘だからね!

泣かせたら承知しないよ!」


『了解しました!』


「カナタまで…」


恥ずかしがって俯くリンもかわいいなあ。


「少年、ノリがいいね。おふざけはこれぐらいまでにして、そんなに遅くまで出歩けないんだろう?」


「ふざけていたんですか?」


『いやあ、照れるリンかわいんだもん』


「かっ」


「ほんとに付き合ってるみたいだねアンタら。

じゃなくて、余った分は梱包したげるから持ち帰りな」


『ありがとうございます女将さん』


「それなりにごゆっくり」






『ふぅ、美味しかった…ってまだ怒ってるの?』


「…別に」


からかいすぎたかな。

食事を始めてからリンが喋ることはあまりなかった。


「それではな」


『まだ寮まで結構あるし送るよ』


正確な時間はわからないがそれなりに遅い時間だろうし。

リンと2人で夜道を歩きたい、と思ったのも理由の一端……ほとんどだけど。


「ありがとう」


無言で夜の街を歩く。



ふと、空を見上げた。


『すっげぇ』


夜空には元の世界ではなかなか見ることが出来ないほどに綺麗だった。

空を分かつ天の川。

天体望遠鏡でも覗いているみたいだ。


「カナタ?」


急に立ち止まったのでリンは不思議に思ったらしい。


『今行くよ』


その後も黙って歩いたが、いつの間にやらリンの険しい雰囲気は取れていた。


「わざわざ校門前まで、ありがとう」


空を見上げながら歩いているとすぐに学校に着いた。


『どういたしまして。それじゃあ、おやすみなさい』


「それでは、今度こそ」


夜間用の入口にリンは入っていく。

そんな後姿に何か言わねばならないような気がした。

この星空を、間接的にとはいえ見ることができたのはリンのおかげだ。

だからそのお礼ぐらい言っておきたい。


『俺、ここに来て良かった。召喚してくれてありがとう』


返事を待たずにそのまま帰った。






『遅くなりました』


一階の厨房には親父さんだけがいた。


「おかえり、ちょうど良いところにきた。試食しないかな?」


『いただきます!』


温かい紅茶でも飲みながら親父さんとお菓子談義に花を咲かせる。

まるで、家族みたいだと思った。

御覧くださり、ありがとうございます。


照れてる女の子を書きたかった回です。だけってわけじゃないんですが。

もう少し学園モノにしたいですが、ままなりませんねー。


またおこしくださいませ。

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