第11話 「嗚呼、厄介事のかほり。」
先日から、カナタの演習に向けての特訓に見学、そしてたまに参加させてもらうようになった。
演習までは一ヶ月もない今、カナタは休む間もないほど物事に追われている。
午前中こそ通常の九回生と同様に授業を受けているが、午後の魔法実技以降は自宅に帰るまでほとんど休みをとっていない。
一度カナタに大丈夫か質問したが彼は
『んー。リンが思ってるより大変じゃないよ?』
と笑顔で答えるだけだった。
特訓の内容は実技の時間の後、2時間程度校長と魔法の練習。
その後休みをとらずに練習場へ移動し1~2時間セオドア先生と剣、というより超至近距離での訓練。
私は魔法の練習のみ時折参加する。
カナタと同じメニューをこなすだけでかなりの疲労をうけるので、とても体を動かすことが出来ない。
週末は2日間、居候先で店の手伝いをずっとしている。
何度かティーやクラスメートとその店に行ったが、カナタが疲れている様子はなかった。
あの日、一週間前2人で晩御飯を食べに行った日にカナタが言っていた言葉が気になっている。
感謝を表す言葉だった、はずなのに。
どう考えたって、人間ならば明かなオーバーワークだ。
朝は勉強、昼から夜まではとんでもない密度の鍛練。
休日だとしても一日中店番をして夜には何かしている。
身体が大丈夫だとしても精神がへばってしまう。
周りは彼を特別だから、として見ている。
例外の精霊だからただ呆れるだけ。
そうして「人間」の、ただの少年として考えなくなっている。
このままでは、彼は私が居ても孤独を感じるようになるのではないのだろうか。
杞憂なのかもしれないし、そうであってほしい。
だから、私はあの日彼に願った時と同じでいよう。
カナタと離れずに一緒にいよう、どんな時でも。
季節は巡り、というわけじゃないけど十月になった。
学校の木々は青々と茂っているが、街の木は少しずつ秋らしくなっている。
学校の制服も冬用らしくコートを身につける生徒が増えてきた。
俺は特に暑いとも寒いとも感じないのでまだコートは着ていないが。
そして時間が経つにつれ、魔法実技の時間にも変化がでてきた。
「はぁーい、今日の実技の時間はこれまででーす」
「きりーつ、礼」
「「『ありがとーございましたー』」」
ここって本当に異世界なのか、と疑ってしまうような挨拶だ。
この学校、というよりココには部活動などもない。
なので放課後はとりあえず三回生にしてみれば自由な時間になる。
もう少し年齢を重ねれば自己鍛錬などに励む子どもがでてくるかもしれないがそれはまだまだ先のはなしだろう。
「兄ちゃんは今日もとっくん?」
メロウが尋ねてくるも、答えはわかっているのだろう。
『ああ。今日も晩飯はいらない。というか演習まではそんな時間ないかもな』
「ちぇー、父ちゃんも母ちゃんも最近兄ちゃんと晩飯食えないって言ってたぜー」
『悪いな、演習が終わったら普通になると思うから』
「メロウくん、仕方ないよ。カナタさんは精霊だからいそがしいんだよ」
「そうですわ。引きとめていては悪いですわよ」
タステが気遣ってくれるのは予想どおりだがルリアがこう言ってくれるのは意外だ。
「…む、なんだか失礼なことを考えていますわね?」
炎のように赤い瞳で俺を見上げるルリア。
『いえいえ、そんな滅相もないですよお姫様~』
迫力はないけど、こんな時女性に逆らうもんじゃない。
それぐらいには俺だって常識人だ。
「なんで…」
む、ルリアの様子がおかしい。
「ちょっとこちらに来てくださいまし!」
『今から魔法の――』
「愚図愚図してないではやくっ」
嗚呼、厄介事のかほり。
んで、校舎裏。
建物の陰になっているが、風が通りジメジメとした雰囲気はない。
ここで告白とかしたら叶う、みたいな伝説でもありそうな太い木が生えている。
「カナタさん、先程のことですが」
ぜいぜい、とルリアは肩で息をしている。
ちょっと落ち着かせてやんなきゃ。
『ん?告白でもするの?』
この木に伝説なんてないだろうけど。
「…ばれているようですわね。そうですともルルリリアとは仮の名前――」
ここで一気にためて――
「わたくしの本名はルリア=フィーネリア=アスカ。この国の第三王女ですわ!」
ばーん!
知りたくなかった、そんな事実。
だって絶対厄介事でしょ!
なんでこちらに来てから退屈しないんだろうか。
「何か言うことはございませんの?シルトがパチンコに打たれたような顔をして」
シルトは元の世界でのハトに良く似た鳥だ。
つまりは「鳩が豆鉄砲をくらったような」表情をしてたということ。
『うん。どゆこと?なんでいきなりそんなことカミングアウトするの?』
「…どういうことですの?」
『さっきののお姫様ってのは冗談だったんだけど』
「わたくしの早とちりだったと?」
『だろうね』
一国のお姫様がこんなにまで早とちりなのはどうかと思う。
あれだけでばれたと思うなんてこの先隠していけるのだろうか。
よく今までばれなかったな…。
「ばれなかったというか、メロウとタステは信じませんでしたわ」
『いってたんかい…』
普通信じないよね、こんな話。
『ルリアの言ってることが冗談じゃないなら、俺はどうすればいいの?』
ここで嘘でも冗談でした、と言ってくれるといいんだけど。
「秘密にしておいてくださいまし…。それよりも信じますの?」
論点はそこじゃないんだ、なんて言っても通じないだろう。
『ここに俺が来て、君は一度も嘘をついてないからね。誰にも話さないよ』
やれやれ、だまってればいいのならこれ以上問題は起きないかな。
『それじゃ、俺は魔法の特訓があるから』
遅れると校長に何言われるかわからんし、早く行かなきゃ。
「わたくしを信じて…」
校長先生との特訓は魔法を使うことではない。
マナの流れを観ることと、ひたすらに集めたマナを制御することだ。
前者は魔物に魔法を使われる前に相手の魔法を判別、妨害する為の訓練らしい。
実際にマナの動きをみていると様々な魔法のでも一つとしてマナが同じ動きをするものはない。
だからその動きだけで、どの魔法を判断し先手を選ぶことが出来れば演習での生存率もあがる。
これは結構簡単だった。
問題だったのは、後者。
俺が現在使える魔法は先日のはじめて使った「魔弾」のみ。
それの精度を上げるためのものだ。
「乱れてる」
『はい』
出来ない。
そりゃ、特訓を始めた時よりは長くマナの収束状態を維持することができるようになったけど。
「カナタ、深く集中しすぎないことも大事だぞ」
3日に1日ぐらいのペースで一緒に特訓を受けているリンは俺よりもずっと収束が上手だ。
『了解。かるーく、かるーく』
脱力する。
息を吐いて集中を緩める。
「力を抜きすぎだ!」
「暴発(呆)」
『え?』
…そんなこんなで特訓に使っている教室には俺の魔弾のせいで空いた穴がたくさんあります。
その後、セオドア先生との特訓を終えると辺りは真っ暗だった。
今日はリンもいないので先生と別れると1人だ。
昼に比べて幾分人の減った街道を歩く。
その時、妙な物が目についた。
裏路地で子どもを抱えている男が居る。
ただそれだけなら不思議なことでもなく、父親が子を抱えているように見えるだろう。
ただ妙だったことは、その子がどう見たってルリアだったことと男が認識阻害の《闇》の魔法を使っていたこと。
校長曰く何か後ろめたいところがある人が良く使う魔法らしい。
何も無ければいい。
一応事情だけでも聞いてみよう。
『すいません、その子のお知り合いですか?』
返事はない。
言葉の代わりに男は《水》のマナを操りはじめる。
マナの動きは幸運に校長先生の特訓のおかげで分かる
男が放とうとしているのは「アクアスパイク」、高圧の水のカッターで相手を切り裂く魔法。
人を殺す魔法…!
絶対に只事じゃない。
ルリアを助けないと!
男が魔法を完成させる前に魔弾で男の足を打ち抜く。
「ッ!」
咄嗟に放った魔弾は男の右太ももに風穴を開けた。
マナは術者の集中が途絶えたため、霧散。
『この子はボクの友人なんで返してもらいますよ!』
男に詰め寄り魔弾で穴のあいたほうの足を蹴りつける。
が、男はそれを避けて踵を返しすと逃げ出した。
『待てっ!』
こう言われて待つ馬鹿にあったことはないけど、とりあえずどなってみる。
怪我で思うように動けないためか男はルリアを俺に投げつけてきた。
…ルリアを?
『あっぶね!』
何とか彼女を抱きとめる。
危うく避けるとこだった…。
見たところ外傷はなく、眠っているだけのようだ。
「またな、バケモノ」
男はもうどこにもいない、逃げられた。
毎度、ご覧いただきありがとうございます。
序盤に少しリンの一人語りです。彼女は彼方を心配しているけれど、当の本人はリンが感じた周りの態度に疑問をもってなかったり。自分のことは自分が一番わかってる、というわけでもなかったり。
そして戦闘シーンorzです。生温かい目で見てください…。
それではまた、お越しください!




