EP 7
3分間も待てない理系社畜! モンロー効果(RPG-7)の超高温メタルジェットで古代の超装甲を粉砕せよ!
ミシミシ、ピキィィィッ……!
クラウス君が展開した絶対零度の氷盾に、致命的な亀裂が走る。
体長4メートルを超える古代兵器『死甲虫機』の突進は、純粋な質量と魔力駆動による暴力そのものだった。
「くっ……! エミリアさん、このままじゃ……盾が弾け飛びます!」
普段は気弱なクラウス君が、歯を食いしばりながら必死に魔力を込めている。
だが、盾の限界は秒読み段階だった。
その数メートル後ろでは、金髪ツインテールのトップ配信者キュララが、眩い光の中で未だにクルクルとターンを決めながら『3分間の変身バンク』を絶賛継続中である。
「輝く翼は平和の証っ! 闇を切り裂く乙女の祈り……チャラララ〜ン♪」
「祈っている暇があったら物理で殴りなさいよ!!」
私はついに理系社畜としての忍耐の限界を迎え、キュララの四次元ポーチから強奪した旧式兵器――対戦車用携行ロケット弾『RPG-7』を右肩に担ぎ上げた。
「エミリアちゃん!? それ、キュララちゃんの配信用の武器……! なんで使い方が分かるの!?」
キャルルが目を丸くして驚いている。
「前世でミリタリー系の企業案件の市場調査をした時、構造図式と運用マニュアルを頭に叩き込んだのよ! それに、これはただの火薬兵器じゃないわ!」
私はRPG-7の先端に装着された、円錐形の弾頭をポンと叩いた。
「いい!? 相手の装甲はモース硬度も魔力耐性もカンストしている。クラウス君の絶対零度の斬撃すら弾くバケモノよ。でもね、この『成形炸薬弾(HEAT弾)』なら、そんな魔法ファンタジーの理屈は一切関係ないわ!」
私は光学サイトを展開し、死甲虫機の巨体へとピタリと照準を合わせた。
「この弾頭の内部には、すり鉢状のくぼみを持たせた銅のライナー(金属の円錐)が仕込まれているの。着弾して後部の火薬が爆発した瞬間、その爆発のエネルギーは前方のくぼみに向かって一気に収束する……! これを『モンロー/ノイマン効果』と呼ぶわ!」
「もんろー……?」
リーザがぽかんと口を開けている。
「簡単に言えばね!」
私はトリガーに指をかけ、冷徹な声で宣告した。
「着弾した瞬間、内部の銅が超高温・超高圧で溶かされ、秒速8,000メートル、温度数千度にも達する『液体金属の槍』となって、相手の装甲の『一点』に集中して突き刺さるのよ! 魔力防壁だろうが古代金属だろうが関係ない! 物理的な圧力で溶かして貫く、純粋な科学の暴力よ!」
『ギシャァァァァァッ!!』
死甲虫機が、私の構えた筒から放たれる危険な匂いを察知したのか、クラウス君の氷盾を強引に弾き飛ばし、私に向かって標的を変えて突進してきた。
「狙うは装甲の薄い関節の継ぎ目! キャルル! クラウス君! 奴の体勢を崩して、腹部を晒しなさい!」
「了解っ! 月影流――顎砕きッ!!」
私のオーダーに即座に反応したキャルルが、死甲虫機の側面に回り込み、地面を蹴り上げた。
紫電を纏ったタローマン特注の安全靴が、猛烈な勢いで死甲虫機の顎下(頭部装甲の下)へと叩き込まれる。
ドゴォォォォンッ!!
凄まじい衝撃音が響き、重戦車のような死甲虫機の前輪(前足)がフワリと宙に浮き上がり、最も装甲が薄い腹部の関節部分が無防備に晒された。
「今です! 『フリーズ』!!」
すかさずクラウス君が左手を突き出す。
絶対零度の冷気が死甲虫機の周囲を取り囲み、瞬時に巨大な『氷の檻』となって、宙に浮いた古代兵器の巨体を空中で完全に拘束した。
『ギ、ギジッ……!?』
空中で身動きが取れなくなった死甲虫機。
照準は、寸分の狂いもなくその腹部の関節部へとピタリと合わさった。
「これでチェックメイトよ。コンプライアンス違反の害虫は、私のロジックで駆除してあげるわ」
私は大きく息を吸い込み、RPG-7のトリガーを力強く引き絞った。
「ファイアッ!!」
ボシュゥゥゥゥゥゥッ!!!!
凄まじいバックブラスト(後方爆風)と共に、肩の上の発射管からロケット弾が飛び出した。
推進剤に点火した弾頭は、空気を切り裂くような飛翔音を立てて、空中で氷の檻に拘束された死甲虫機の腹部へと真っ直ぐに吸い込まれていく。
そして――着弾。
カッ!!
一瞬、太陽が落ちたかのような強烈な閃光が弾けた。
「エミリアちゃんの言った通りだ……! 弾頭が、潰れた瞬間に……!」
キャルルが目を細めて叫ぶ。
モンロー/ノイマン効果の完全な発動。
着弾したロケット弾の内部で炸薬が爆発し、円錐形の銅製ライナーが裏返るようにして一点に収束。
秒速8,000メートルという極超音速の『超高温液体メタルジェット』が生成された。
ズギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!
それは、熱と圧力による絶対的な貫通劇だった。
どんな魔法攻撃も弾き返してきた古代の魔力装甲が、メタルジェットの超高圧の前にアメ細工のようにドロドロに溶け、あっけなく紙切れのように貫通されていく。
超高温の金属の槍は、死甲虫機の分厚い外骨格をやすやすと突破し、内部に搭載された魔力駆動炉へと直撃した。
『ギ、ギィィィィィ…………ッ!?』
死甲虫機が、今日一番の、そして最期の断末魔の電子音を上げた。
内部コアを完全に破壊・焼却された巨体は、直後に発生したロケット弾の二次爆発によって内側から膨張し――。
ズガァァァァァァァァァンッ!!!!
腹の底に響くような大音響と共に、古代兵器は粉々のスクラップとなって爆散した。
飛び散る装甲の破片は、クラウス君が瞬時に展開した氷の防壁によって防がれ、私たちには傷一つ付かない。
「……ふぅ。目標の完全沈黙を確認。プロジェクト完了よ」
私は肩に乗せていた発射後のRPG-7を下ろし、ふうっと硝煙の匂いを吹き飛ばすように息を吐いた。
「す、すっげええええ!!」
リーザが目をキラキラさせて飛び跳ねている。
「魔法でも闘気でもない、ただの筒からあんな破壊力が出るなんて……。エミリアちゃん、やっぱり凄いや!」
キャルルも興奮気味に私の元へ駆け寄ってくる。
「エミリアさん。素晴らしい連携でした。あれが、エミリアさんの故郷の『科学』なんですね」
クラウス君が、氷の剣を収めながら優しく微笑みかけてきた。
「え、ええ。そうよ。これくらい、理系社畜にとっては朝飯前なんだから」
私はクラウス君の純粋な笑顔に少しだけ動悸を覚えつつ、顔を逸らして誤魔化した。
完璧な勝利。
強敵を前にした、見事な役割分担の成果だ。
だが、私たちが勝利の余韻に浸っていた、その直後だった。
『キララララララ〜ンッ☆』
戦場に鳴り響いていた無駄に壮大なBGMが、ついにクライマックスのファンファーレを迎えた。
そして、背後でずっと眩い光を放ち続けていた空間が、パァン! と弾けるように霧散したのである。
「お待たせ、みんなーっ!!」
そこには、全身を煌びやかな黄金の聖騎士の鎧で包み込み、背中に純白の翼を広げ、手には身の丈ほどもある聖なる杖を構えたトップゴッドチューバー、キュララの姿があった。
「愛と! 正義と! マネーの為の黄金聖騎士! ゴッドチューバー・キュララ、ここに推参だよぉっ☆ どんな悪い魔物も、私の撮れ高とPVのために、まとめて退治しちゃうぞっ!!」
ビシィッ!!
と、完璧な角度で決めポーズを取るキュララ。
カメラ(エンジェルすまーとふぉん)に向かって、最高の笑顔とウインクを向けている。
……しかし。
彼女が杖の先を向けた前方には、すでに敵の姿はどこにもなかった。
あるのは、私がRPG-7で木っ端微塵に粉砕した、死甲虫機の黒焦げの残骸と、まだ燻っている硝煙の煙だけである。
「…………あれ?」
キュララは、決めポーズのままピタッと固まった。
ぱちぱちと瞬きをして、残骸と私たちを交互に見比べる。
「えっと……悪いカブトムシさんは……?」
静寂が流れる。
秋のポポロ村の涼しい風が、彼女の黄金の鎧を虚しく撫でていった。
「何のために変身したのよ、この手羽先天使!! もう全部終わったわよ!!」
リーザの魂のツッコミが、誰もいなくなった戦場に虚しく響き渡ったのだった。
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