第012話 地下帝国エルドラド
ドワーフの長老は頭にたんこぶをつくりつつも、おっさん達を自分のテリトリーに招いた。
危うく戦犯になる所だったおっさんは一人縄を掛けられた状態でついていきます。
もう二度とあんな真似は致しません。
ドワーフはオーガ山のふもとにあった隠された入口を伝う。
入口こそ狭くて、おっさんの先を行くシーラが窮屈そうにしていた。
「頭に気を付けてね」
「ああ、あ痛ぇ!」
「だから気を付けてねって言ったじゃないですか」
それはまぁそうなんだけど。
言えない、おっさんは前を行くシーラのお尻に意識がいってたなんて。
するとシーラの耳が紅潮していたように見えた……あ。
そう言えば彼女って軽い読心術が使えるんだった。
おっさんの後ろにいた三号が。
「平気ですか才蔵様」
「あ、ああ、平気だよ」
「なんでしたら俺が前に行きますよ」
おいおい、お前はアネッタ狙いのはずだろ?
見境ないなあ。
入口は狭かったが、進んでいくに連れ洞窟は広大さを増していき。
足場はドワーフの手によって整備された道になっていった。
壁に埋め込まれた紫色の光源もあいまって、なんというかファンタジー感マシマシ。
「結構歩いたな」
洞窟の中をかれこれ一時間は進んでいると思う。
それと地熱のせいか、少し暑い。
先を行くシーラも肌汗をかいているようだ。
そんなシーラにおっさんからプレゼント。
『冷汗タオルのレシピを獲得しました』
「シーラ、これ」
おっさんがシーラにクラフトした冷汗タオルをぴたっとうなじに這わせると。
「きゃ! 冷たい、なんですこれ?」
彼女は嬌声をあげてから手にしていた。
「暑い時期にこれを首に巻いておくと、熱中症対策になるよ」
「凄いですね、ひんやりしててとても気持ちいいです、ありがとう才蔵さん」
おおきに。
シーラの前を歩いていたアネッタが「私にも頂戴」と言ったのを皮切りに、冷汗タオルは飛ぶようにさばけていった。ホムンクルスの女性個体の二号、六号も重宝している。
いくつかはドワーフ族の手に渡り、おっさんの価値を見直したようだ。
「ドブネズミが、こんなものあるんだったらさっさと寄越せ」
「……ドブネズミだと? 今、俺のことドブネズミって呼んだ!?」
「嗚呼! だからな――」
一人のドワーフが言い返そうとして来たので、おっさんは彼に特別なグミを与えた。
「むぐ! これは……甘い、噛めば噛むほど果汁が染みて、そして冷たい」
「それ、おっさんからのプレゼント。娘の大好物の一つだ」
そうすると他のドワーフが不平不満を嘆くもので、一袋ずつあげておいた。
前を行くアネッタは「おっさん、私にはシェイクを頂戴。苺味のね」と言い始める。
素直にシェイクをクラフトし、渡すとドワーフがやはり不平不満を言う。
しょうがないので連中にもシェイクを贈る。
「く、美味しいじゃねぇか」
「ちょっと待て」
「なんだ?」
「俺のとお前のとで、味が違う」
「なん、だと?」
そうそう、苺味は早々に売り切れたので、ソーダ味やチェコ味、シンプルにバニラ味も配ってある。
あるドワーフがおっさんの裾を引っ張っていた。
「おいおっさん、俺と取引しねーか?」
「どんな?」
「俺はお前のこれを都のみんなに販売したい、俺からはお前にこれをやろう」
と、ドワーフは皮袋に詰まった宝石類や鉱石を見せる。
「ほう、交渉成立だな」
なにせおっさんのクラフトって結構鉱石いるんだよね。
狩猟に出かけた一号や二号が拾ってきてくれたりするけど、それじゃあ物足りない。
廃墟と化した街で得ていた黒曜石とかも品薄状態だったし、こりゃあいいね。
「じゃあ、貴方はおっさんのお得意様ということで、これをあげよう」
「ん? この箱は?」
「アイテムボックスって言ってな、容量上限はあるんだけど」
しかし、収納した持ち物は重さがなくなり、物の持ち運びに便利な道具だ。
「おお! 凄い、ありがとうな、おっさん」
ドワーフはニヒルな感じに笑い、以後はおっさんのお得様だ。
それから歩くこと三十分もすれば、向こう側に一際明るい光が見えた。
光を目にしたシーラはおっさんの手をつなぐ。
「何? どうした?」
「ここは本来なら私みたいな小物じゃたどり着けない」
よほど緊張していたのだろう、シーラは手に汗をかいているようだ。
「すごい場所なのか、ここって」
「ええ、ここはドワーフ族が千年掛けて築いたとされる都」
明るい光が広がっていくと、おっさんの目にドワーフの都の光景が飛び込んできた。
それは地下に広がる大都で、眼下の巨大な都を放つ色とりどりの光が行き来している。
大都を覆う天井には土肌に備えられた宝石が散りばめられている。
シーラは恐縮した様子で、その都の通称を口にしていた。
「地下帝国エルドラド」