第2話 ~小鬼との死戦を経て~
一部長いセリフ等を地書きにしています。
まだ完結していないので心理描写や表現を変更、追加する場合がありますが、本筋の内容は変わらない予定です!
あれからしばらくしてアデルの目が覚めるとそこには、夕暮れに染まる赤い空が広がっていた
「はっ...ここは...?」
「起きたか、一応怪我の応急処置はしたがまだ痛むか?」
「ん...ああ、少し...」
ゴブリンとの戦いを経て、彼は思い知る。この己の身体の脆弱さを、そして無力さを…
彼が助けてくれていなければ、きっとあそこでゴブリンの餌になっていただろう
「...助けてくれて、ありがとう」
「ああ、礼には及ばない。俺は自分のやるべき事をやっただけだからな」
「それより、その身体でゴブリンに善戦するなんて君は何者だ...?」
どうしたものか、事情が事情だけになかなか正直に話す訳にもいかない
しかし、1人で行動すればまたあのようなリスクを背負う事になる...どうにか理由を見繕って同行できないだろうか...
とりあえず、外見に合わせて女の子っぽい振舞いをした方が怪しまれないはず...
「あはは...あの時は無我夢中で、わたし自身もよく覚えてなくて...」
「お前、変わった奴だな...まぁいい、日も落ちるから今日はここで野宿だ。今から飯の支度をする」
「あっ、はい...わかりました。助けてもらったお礼にせめてお手伝いさせてくれませんか?」
「いや、1人で大丈夫だ、その腕で手伝いは無理だろう。お前はそこで休んでいろ」
「二人分の食材としては少し足りないな...時間は遅いが今から食糧を取りに行く、付いてくるか?」
「ええ、何かお手伝い出来る事があるかもしれませんし…」
「わかった、一緒に行こう」
そして2人は食糧を手に入れるために暗闇の中、森の中に向かった。
「流石に、日が暮れると野生動物の姿は見えないな…食べれる木の実でもあればいいが…」
「木の実ですか…?夜ご飯は何を作る予定なんですか?」
「普段はスープを作ってるんだが、具材が少し足りないからな…」
「(スープの具材か…ここはキノコ類が妥当だよな)」
「わたし、植物なら見つけるのが得意なので任せてください!」
アデルは多くの力を失った…が、まだ残っている力はある。
その一つは知識と、それから派生するスキルだ。スキルには2種類あり知識などで習得する知識系、身体に宿す異能系だ。
つまりは身体が少女になった今でも、彼(彼女)には知識…つまりそれに関する知識系スキルが残っている。
「(スキル:植物探査!)」
そう念じると、彼(彼女)の眼に映る様々な植物の情報が手に取るように分かるようになった。
「(懐かしいな…このスキル、俺が旅に出た時に初めて教えてもらった物だったんだよな…しばらく使ってなかったがこうゆう時には役に立つな」
彼(彼女)は、スープに合いそうな食用キノコを次々見つけては持って来た袋に入るだけ放り込んだ。
「これだけ見つかれば問題無いですよね?」
「あ...ああ、多すぎるくらいだ。君は職業はドルイドなのか?それにしても、この採取量は只者ではないが…」
「えっと…今まで薬草とかを売って生活してたので、普通の人よりは詳しくなっちゃったかもしれないですね。あはは…」
「それより早く戻って、ご飯にしましょう!私お腹空きました」
そう言って、アデルは早く戻る事を促すように青年の背中を強く押した。
「お…おう、分かった。先にキャンプを貼ってから焚き火を起こすから待ってくれ」
青年は食材の入った袋から、幾つかの野菜と水、調味料を出した。
「具材はこんなもんか、予想外にキノコが大量に手に入ったから今日はキノコスープだな」
そう言うと、青年は魔法で焚き火を起こし、鍋でスープを作り始めた。
「貴方は魔法使えるんですね、羨ましいです…」
「魔法、使えないのか?」
「はい…どうしても上手くいかなくて…」
「俺も魔法は専門じゃないが、魔法はどうにも人によって出す感覚が違うらしいからな…俺の場合は全身に魔力が行き渡る事に集中しろって教えられた」
「そうなんですね…少し試してみます」
アデルは魔力を全身に行き渡らせるように集中してみたが、やはり魔法は発動しなかった。
「っ…はぁっ…!やっぱり無理です…」
「そうか…感覚は人それぞれと言うし、仕方ない。合う感覚さえ見つかれば良いんだが…」
そうこう話しているうちに、鍋で煮込んでいたキノコスープが完成した。
「どうやら、スープが出来たみたいだな」
そう言うと青年はスープを2人分、器に取り分けアデルに手渡す
「ありがとうございます、それではいただきます!」
「ああ、味付けは口に合うか?」
「はい、美味しいです!」
「それは良かった。そういえば、長い事喋ってるのに名前を聞いてなかったな...なんて言うんだ?」
「(そういえば、この身体に合う名前をまだ考えていなかったか...まぁ何でもいいだろう)」
「ユーシャっていいます」
「お...お兄さんの名前はなんて言うんですか?」
「カインだ、カイン・ストラウド」
聞き覚えのある名前だ...確か王都近くにある交易都市の領主の家系がそんな名前だったはずだ
しかしそれにしては、護衛の一人も居ないのは不自然だよな...少し探ってみるか
「ストラウドさん、ですね。ストラウドさんはなんで、お1人で旅をなされてるんですか?」
「ああ、俺の実家は交易都市の領主をやってるんだが...」
カイン・ストラウド...南西の海に面した交易都市の領主の息子で長男
彼の父が治めるこの街は王都に近く,さらには大きな港があるので別の都市や他国から、色んな品物が入荷されたり、漁業も盛んだったようだ。
しかし街の近海に毒を撒き散らす水蛇が住み着いた事から、港を使うことが出来ず、水質は汚染され魚は取れなくなり街はみるみる廃れていった。
国内有数の港が閉鎖される事は国の物流に大きな影響を与える事を免れない。この事態を受けて、王国から軍隊を要請するも軍艦ですら強力な毒攻撃によって簡単に沈められてしまい、打つ手が無いと王都からの支援も打ち切られてしまう...
日に日に廃れる街を指を咥えて見るしかない日々の中…ある日、転機が訪れた。カインが街では有数の剣士だと言う話を国王が知ると、新生勇者として魔王を倒す旅し手柄を上げる事を条件に都市に支援金を出す事を提示してきた。
困窮する街をとにかく救いたかったカインは、ほかに手段も無かった為に勇者として旅をすることになったのだった。
「それから勇者として、1人で旅をしているが…俺には勇者なんて肩書、荷が重い…俺は自分の為に、魔物を倒して回ってるだけだ」
「それは、違いますよ!カインさんは街の人々の事を思って戦ってるですよね?だったら、街の人々はカインさんの事を少なくとも勇者だって思ってるはずです!」
「そうだな、そうだったら…いいな、励ましてもらって悪いな」
「いえ、私も1人で戦う辛さは知っていますから」
「そうか…そういやユーシャは、1人でこんな場所で何してたんだ?」
「えっと…実はわたし、両親を探して旅をしているんです」
「1人でか…?出会った場所には、鞄らしきものは無さそうだったが…荷物はどうした?」
「あ…えっと…何処かに置いてきちゃったみたいです」
「そうか…目的地が無いなら、俺についてくるか?」
「はい!1人では、心細かったのでよろしくお願いします!」
「そうか…わかった、これからよろしく頼む」
「とりあえず今日はもう遅いから寝よう。俺は、地面でいいからお前が毛布を使え」
「そ、そんな…わ、悪いですよ!」
「その身体で、毛布無しじゃ夜を凌げないだろ。遠慮せず使え」
「わ、わかりました…ありがとうございます」
こうして、ユーシャ(アデル)の長い1日が終わった。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。次回は、街に向かう話から始まります!
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