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旅の終着駅

「ガイド役が同行する事になった」


 そう、宿に戻りイネスに報告する。


「ガイド?」

「そう。粗野に振舞う少し軽い男。育ちは良い筈だけど」

「ほう。男。

 ……ヒザマルを新たな境地へといざなう案内役!」


 目を輝かせるイネス。


 いや、何なの?

 それ。


 ◆


「まさか、春の使いがエルフとは」


 翌日、イネスを見るなりルトが絶句する。

 耳を隠して居るのでレーヴでは、一目で気付いた人は居なかったのだが。


「よくわかったな」

「何度か会ったことがあるからな」

「そう」

「ルト・スコルピオ。よろしく森のお嬢様」

「イネス・ウェネリス。

 私に案内は不要。

 ヒザマルと存分に戯れて」


 静かに名乗り、ルトが差し出した手を無視して歩き出すイネス。

 気まずそうに、その手で頭をかくルト。

 そして、こちらを見る。


「いや、俺にもわからん」


 そんな救いを求める様な目をするな。


 ◆


「いまいち絵にならない」


 俺たちの後から付いて来るイネスがそう呟く。


「何だって?」


 ルトが振り返りながら問う。


「何か。何かが足りない」

「何が足りないんだろう?」

「いや。まだ良い。

 じっくりと籠絡される方が楽しめる」

「ヒザマル。あのお嬢様、何言ってるんだ?」

「知らない」


 知りたくも無い。


 行き先に不安を感じながら山を下る。




 そして、雪の残る高原を過ぎ木が生える森に差し掛かったあたりをその日の野営地に定める。


 別に野宿なのは何の問題も無い。

 ルトと二人でそこテントに入るのも。


 ただな。

 イネスのやけにニマニマした顔が気になる訳だ。


「多分、お前が期待してる様な事にはならないぞ?」


 ルトが先にテントに入ったので小声でイネスに釘を刺す。


「隣のテントで男が二人寝て居る。

 それだけで、妄想が捗る」

「……捗らせないで」

「そんな二人の元に訪れるインキュバスの男の娘、マーリー」

「来ないから! 止めて!」

「次第に絡み合う三人」

「絡まないから!」

「たまらない」


 恍惚と言うのはこう言う事か?

 そんな表情を浮かべイネスはテントへと入って行った。


 ……俺はこのまま焚き火の番をしていよう。

 そうしよう。


 浮気しないでね!


 突然脳裏にマーリーの囁きが蘇る。


 浮気とか、そう言うのじゃ無いから!


 ◆


 テントから出て朝日の中刀を振る。

 何も無かった。

 あるわけ無い。


 邪念を振り払う様に、無心に刀を振るう。


 ……違和感。


 木々がざわめいて居る。


 何だ?


「猿が寄って来た」


 いつの間に起きて来たのかイネスが静かに言った。


「猿?」

「ルトを起こせ。すぐに荷物をまとめる」

「わかった」


 言われるままにテントに顔を突っ込みルトに声をかける。


「猿が来たらしい」

「何!? こんな上に!?」


 慌てて身支度をするルト。


 俺は改めて周りの様子を伺う。


 イネスは既にテントをたたみ始めていた。


「猿だって?」


 テントから出て来たルトがイネスに問う。


「ああ。黒い奴等だ」

「……不味まじーな。直ぐに発とう」

「どんな奴だ?」


 テントを片付けながらルトに問う。


「群れで上から襲って来る厄介な連中だ。

 攫われたら餌になる。

 道の方にはあまり姿を見せないんだけどな」


 奇声が上がる。

 周りから幾つも。


「シルフ。おいで。私と共に走りなさい」


 樹上から投げつけられた木の枝をイネスの精霊が叩き落とす。


「走るぞ」


 矢を一つ放ちイネスが走り出す。

 直後、断末魔が木霊して怒りをにじませた奇声が更に大きくなる。


 俺とルトは荷物を背にイネスに続く。


 飛び降りて来た猿をルトの短槍が貫く。

 急所を正確に。


 ……槍使い。かなりの腕前だな。


 ◆


 山を下るまでの三日。

 途切れる事なく魔獣が襲い来る。


 一人では無理な道程だった。


「おかしい。いくら何でも数が多すぎる」


 そうルトが訝しんでいたが、何とか麓の町までたどり着いた。


 ひとまずギルドで所在報告。

 マーリーはこれをチェックして居るのだろうか。


 そして宿へ。


「いや、見てないな」


 フロウさんの事を尋ねるが、上と同じ答え。

 追いかける彼の影は完全に途切れてしまった。


 そのままルトを案内役にして、セイールまで。


 十日程の旅。

 幾度か魔物に襲われる。


 ◆


 そして、そこで西への旅はひとまずの終着を見る。


「……死んだ……?」

「ああ」


 セイールに着き、そして、あの時の戦いを見ていたと言う守衛兵から話を聞く事が出来た。


「何で!? そんな訳は!」


 フロウさんは、あの人は、竜殺しの勇者だぞ!


「落ち着けって!」


 守衛兵の胸倉を掴みかかっていた俺をルトが押さえつける。


「……すいません。

 ……その時の話を聞かせて下さい」

「俺も遠巻きに見てただけだがな」


 ルトに椅子に押し付けられている俺に親切な護衛兵の親父は話を続けた。


 曰く、翼を持つ魔人、空襲のハマリエルと互角の戦いを繰り広げていたフロウさんだが途中で剣が折れた。

 それでも、体捌きと魔法で応戦し、傍目には優位に見えたそうだ。

 そして、その戦いに結末が訪れる。

 突如、椅子に座って居た復讐のズリエルが立ち上がり歌を歌い出す。それは、とても悲しい歌に聞こえたそうだ。

 フロウさんは、そこで動きを止める。

 そして、ハマリエルの剣が彼の胸を貫き、アムプリエルの炎に全身を焼かれ遂に力尽きたそうだ。


「死体は?」


 ルトが尋ねる。


「白い魔獣が咥えて飛んで行った」

「飛んで……? どっちに?」

「東だな」


 ◆


 夕陽が海を赤く染める。

 波止場でぼんやりとそれを眺める。


 半年前、ここから海の中へと逃げた。

 勇者の命と引き換えに。


 あいつらは、そんなに強かったのか?

 竜よりも。


『あやつ自身の力に武器が耐えれなかったのだろうな』


 そうなのか。


『儂との戦いでもそうじゃった。

 神代の武器でもなければ釣り合わん。

 そう感じた』


 フロウさんに剣があれば死ななかった。


『わからん。それだけが原因で無いかもしれん』


 ……あいつらは何者なんだよ。


『神の力を奪いし堕天使達。

 何処から来たのかは儂らとて知らぬ。

 人と竜とエルフと悪魔とが力を合わせ封印した。

 それが千五百年程前のお主らの言う聖王戦争じゃ』


 ん?

 聖ピエンズて言う救世主と、魔物、邪神、異教徒との戦い。

 それが聖王戦争だろ?


『まあ、そう伝わっておるのじゃろう。

 ピエンズ教と呼ばれている教団があの異形を利用して世界の国を一つにしようとした。

 その所為で魔獣共が力を増し世界が乱れた。

 人だけでなく、竜族、エルフ、果ては魔族までそれに抗った。

 ピエンズと言う男はそこで中心的な役割を果たした。

 それが真実じゃ。

 ピエンズ教と呼ばれる連中は、自らの過ちを隠し、そして、救世主に仕立て上げ全てを取り繕った訳じゃな』


 衝撃的な歴史の闇だな。

 エリシャが知ったら発狂するんじゃ無いか?


 しかし、そんなのが復活してるのか。

 何の為に……?


『さあの』


 まあ、俺には関係ない。

 フロウさんが居なくなった今、お前の呪いを解く手段は無いに等しいからな。


『駄目元で竜の巣を目指すか?』


 山一つ越えるだけで命がけだったからな。

 あと二年でたどり着けると思うか?


『厳しいの』


 そうか。

 なら、もう良い。


 一つ、目的を見つけた。

 それを果たし、果てるとする。


『目的?』


 ああ。

 あの、牛頭だ。


 あれを倒せば親父を超えた事になる。


 それが……俺の親孝行だ。


 日の沈んだ海にそれを誓う。


 ◆


「これからどうすんだ?」


 宿に戻り、先に食事を取って居たルトとイネスに合流する。


「イネスの旅に付き合うかな」

「私は別に急がない」


 そうか。

 何百年と時間があるんだもんな。


「なら、オレの手伝いをしないか?」


 ルトが意外な提案をする。


「手伝い?」

「ああ。ヒザマルの腕を買いたい」


 イネスを見る。


「私は構わない。

 気にしなくて良い」

「そうか。

 なら、話を聞こう」


 ◆


 こうして俺はルトの行うブリズニツ共和国の国民軍整備に手を貸すこととなる。

 集団戦闘。

 それは、一人刀を振るって戦うことしか教えられなかった俺にとって新鮮な学びだった。


 このままブリズニツ共和国が安定し自立すれば、もう、王族を処刑にしようなどと思わないだろう。

 ルト達の行いは、結果としてミラーシャを呪縛から解き放つことになるのでは無いだろうかと、いつしか、そう考える様になった。


 その合間を見て、自らの鍛錬の意味を込めて牛頭へと戦いを挑む。

 もう少しで、喉元に刃を突き立てられる。

 親父に肩を並べられる。


 そうやって、春が過ぎ夏が終わろうとしていた。

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