古いビルの一室で。
【ルミエラ大学】での生活も、いよいよ終盤が迫ってきた。 【秋田国際大学】の現地職員との最終調整が今日、ある。 昨年の5月に渡米し一年が経ってしまった。この一年を振り返ると私自身、大きく変化し成長した実感がある。 それが【会話力】だ。
日本で学んだ【会話力】が全く役に立たなかったのが、この一年でこれだけ進歩したと思うと【英語】は、やはり実践がモノを言うというのをほんとに実感した。
また、アメリカ人は日本人と比べるとほんとに、アグレッシブでフレンドリーな人が多い。初対面なのに何年も付き合いのある感覚で接してくるのはアメリカならではだろう。
日本ではまず経験できないことも、この一年で、このアメリカ・ニューヨークでたくさん経験できた。これも消極的な私を一番に支えてくれたエリカの存在だと思う。
そんな(恋人同然?)のエリカとも別れるときが来た。
ルミエラ大学には、秋田国際大学の留学担当の職員と現地職員の方が最終調整の打ち合わせに来校した。
(月岡さん、しばらく。元気してる? 笑。 一年なんてほんとに早わよね。 セギョンもティファニーも来週には帰国して秋田には戻るから。 月岡さんも今月の終わりには日本に戻るからね。)
(はい・・分かりました。 でも日本に帰れると安心できるんですけどなんか心残りがあって・・・)
(それは本当によく分かる。一年、一緒に過ごしたルームメイトとの別れもあるし、それに住み慣れたと思ったら帰国でしょ? 留学経験者はみんなそうよ。)
(みんな、そうなんだ・・・)
(元気だしなさい。ほら、秋田新幹線の片瀬さん? 月岡さんの帰りを楽しみして待ってるわよ。先日、大学に連絡があったの。)
(へぇ?? 片瀬さんから?)
(帰国したら、ティファニーとセギョンとみんなで祝おうなんて言ってたから。笑)
片瀬さんから大学に連絡があったなんて・・・
私も、帰国へと気持ちを切り替えなければならない。
私の、日本への帰国の日は5月末と最終調整となった。
(授業、終わったら、ブラットの空手道場、見に行ってみない?)
大学の講義も午後3時に終わり、夜までまだ時間が空くのでエリカと見学しに行くことにした。 エリカはジェシカに連絡をとり私たち2人は、ブラットが教えてる【極真空手】の道場に向かった。
道場はマンハッタン、ウェスト23ストリートというところにあり、ルミエラ大学からも近いところにある。ブラットの道場が入ってるビルは外見は古いけど、どこかモダンで昔の時代にタイムスリップした感じがする。アメリカはこういう建物がほんとに多い。
(いらっしゃい。よく来たわ。さ、入って。)
ちょうど、ジェシカのクラスが終わる頃で、子供たちが稽古していた。子供たちの道着姿をみるとなんだかお人形さんのようで可愛い。 でもジェシカは、インストラクターという感じで女性なのに貫禄がある。空手着を着てるせいかもしれないが。
(私のクラスは少年部なの。この次が、ブラットのクラスよ。今日は障がい者クラスだから。見ていくといいわ。)
(障がい者? どんな・・・?)
(車いすの生徒もいれば目が見えない生徒もいるし・・いろいろよ。でも普通に稽古してるから。笑 健常者と何も変わらないわ。笑 )
どんな生徒さんたちが来るのだろう・・・
(お? エリカ、愛、待ってたぞ。 これから生徒たちが来るからな。稽古が始まるまで道場の中、見てもいいぞ。子供たちも稽古が終わると、はしゃいで、このざまだ。笑。)
ブラットのいうとおり、道場の床をぞうきんで拭いてるのだろうが、キャッキャしながらとてもうるさい。笑
建物の外見はとても古かったが、中はきれいになっておりそんなに年月が経ってないようにもみえる。
(ビルの各部屋はリノベーション(改修工事)しており、とてもしっかりとしているんだ。耐震補強工事も進んでてこんなに激しくしてもビクともしないよ。じゃ、着替えてくるからな。)
道場の中には、筋肉を鍛える重量物や、天井から吊るされてる長いものがある。ジェシカに聞くと・・
(これは、ダンベルとバーベルといってウェイトトレーニングに使用するものよ。これで体を鍛えれば私みたいなお腹になれるわよ。笑。 この天井から吊るされてるのはサンドバッグといって人間の体に近い弾力があるの。だからこれをこうしてさ・・・)
バン!!ドスン!!バン!!バン!!
ジェシカがそのサンドバッグやらを蹴って叩いて・・・
(こんなふうにね。フフフ)
( ゜д゜)ポカーン
更衣室も男女別になっており、シャワールームまである。 さきほどの少年部の生徒たちも道着を脱ぎっぱなしにし、シャワールームに所狭しと入り込んではしゃいでいる。 保護者なのかお母さんらしき人たちも道場に訪れ、着替えたあと子供たちと帰るようだ。
お母さんたちも子供と道場を一人、二人と出ていく中、障がい者クラスの生徒も一人、二人と入ってきた。
まず、私が驚いたのは、下半身がない男性だ。 上半身だけで足の部分が無いのだ。このような人は普通、車イスを使うはずだが・・・
(彼は、イラク戦争で下半身を失ったの。でもそんなことに怯まないで空手の稽古に励んでるわ。ウェイトトレーニングもするし、マラソン大会にも出場するんだから。健常者と全く同じよ。ちなみに彼は3段の黒帯。すごいでしょ?)
この女性は・・・・???
エリカとも唖然としたが、両腕がない。右腕も左腕も。
(エリカ、愛、障がい者とはいえ、日常生活は普通の人と全く、変わらない。朝起きて、食事をとり、掃除をして洗濯をして、仕事をして・・・みんなと同じなんだ。 空手の稽古も一般部と全く同じだ。)
空手着になったブラットが彼女を迎えた。
(少し、着替えるのに時間がかかるがそれでも彼女は一人で着替える。誰の力も借りずにな。)
(日本から来たの? 私、エミリー。よろしくね。)
ニコニコとした笑顔で私とエリカに体を寄せてきた。
(はい、よろしくです・・)
私もエリカもエミリーを抱きしめてた。
更に驚いたのは、先ほどの少年部も30人ほど生徒がいたが、この障がい者クラスは続々と道場に生徒たちが入ってきて、その数にびっくりした。
最終的にエミリーが最後に着替えて出てきたが、この障がい者クラスには熟年層の高齢者も参加できるようになっており、この時点で生徒の参加数は50名を超えていた。
(じゃ、始めるぞ。 みんな、整列してくれ!)
ブラットの掛け声で、生徒たちが一斉に並ぶ。年齢も性別もバラバラだが、黒の帯に金色の線が多く入っている生徒から右から左へと正座し始めた。少年部を終えたジェシカもこのクラスに参加してもう一稽古するようだ。
( Mokutō! 黙祷!)
道場が、一気に静まり返る。




