01 王妃様の決断
夫が殺された。
謁見室の真ん中で。
私と娘を庇って。
嫌だ。置いていかないで欲しい。
やっと、やっと子どもが生まれたばかりだというのに、何故殺されなくてはならないのか。
「王妃様。今日から私が王ですよ」
ニヤニヤと笑いながら、血に濡れた男は私を見た。視線が私の体を這い回る。
「そう、私が今日からあなたの夫になるのです。拒否すれば、わかっていらっしゃいますね?」
私は娘を抱きしめた。娘は静かにしている。泣きわめいてもおかしくないのに、命の危険を感じているからか。
「……従いましょう。ただし、娘の命を助けるのが条件です」
「ふん、まぁいいでしょう。城で幽閉の身になりますけどね」
「私も共に幽閉されるなら構いません」
「……いいでしょう。人質が死んでは後を追いかねない。王女様には生きていてもらいましょう」
あなたは、命乞いをする私を恨みますか?
せめてこの子だけでも生きて……
そして城の一角に生まれたばかりの娘と共に幽閉された。
監視がつき、ほとんど部屋から出られない日が続く。
乳を飲むか寝るかの生活の娘にとって、部屋から出れない生活は窮屈ではなかったようだ。
私も娘の成長に支えられた。娘が笑うだけで、生きていく力になった。
そう、娼婦のように夜伽を命じられようとこの子がいる限り死ぬわけにはいかない。
幽閉の身で何ができようかと、ただ耐え忍ぶ日々が続いた。
娘がつかまり立ちを始めた頃になっても、国は落ち着きをみせなかった。
あの男は苛立ち私にも当たり散らすようになったが、私はこれを好機だと感じていた。
「マリー、東領がまた危ういと聞きましたが」
夜、娘を寝かしつけた後暗闇の中で侍女に話しかける。
マリーは私つきの侍女だ。元々私についていた侍女は皆離されている。最初は自殺や逃亡の監視としてマリーはあてがわれた。いつまで経っても国を落ち着かせられないあの男にマリーはあの男への不信感を募らせ、今では見限ったと話している。
幽閉の身。得られる情報は少ないが、私は時々城の中を移動する際少しだけ遠回りをして盗み聞きを繰り返し、マリーからの情報とあわせてその時を待っていた。
「ええ。討伐隊が王都から出されるようで、あの男も共に行くと」
あの男が王になってから、王城を離れたことはない。
今回はそれほど東領の反乱が激しいということだろうか。
「……罠かしら?」
最近、あの男の考えがわからない。私への執着がおかしな方向に向かっているのではないだろうかと思うこともある。わざと隙を見せ、私が逃げるところを殺しに来るかもしれない。
「わかりません。しかし、手持ちの部下も減っているようです」
マリーは反新王派として仲間を集めてもらっている。あの男は元々南領の領主。南領にばかり手厚い采配をしていて他領からの反発が強い。
実は南領の人間にとっても新王の評判はよくないと聞く。他領との商いがうまくいかないから当然だろう。
あの男が新王にふさわしくないから国が荒れているのだ。
信頼を得ることができない王の手駒が減るのもおかしくない。
手駒がいないから自ら反乱を平定し、実力を見せたい。そんな考えが普通だろう。
……好機には違いないのだ。動かないまま後悔してはいられない。
「マリー。討伐隊が出た後、娘を逃がすわ。信用できるものを集めて」
覚悟を決め、マリーに命じる。
マリーが怪訝そうな顔をした。
「王女様をですか? 王妃様は……」
「私は……行かないわ。私が逃げなければ追っ手の数を減らせるかもしれないもの」
「しかし!」
マリーはもちろん知っている。夜な夜な私があの男に呼ばれていることを。
月のものがくる度に安堵する生活が嬉しいはずがない。しかし、娘の安全を考えるならば一緒に逃げるのはよくないのだ。
それに、私はあの男を許せない。
娘さえ逃げてくれれば、私は……
「幸い、乳離れはすみました。今はまだ静かですが、いつあの男の気にさわり処刑されるかわかりません。好機を逃すわけにはいかないのです」
心中を悟らせないよう、毅然と告げる。
細い月の光が部屋をうっすら照らしていた。
マリーは静かに頭を下げ、了承の意を示してくれる。
「かしこまりました。信頼できるものに頼みましょう」
「マリー、あなたにも苦労をかけます」
「王妃様の悲しみに比べれば私など……失礼します」
マリーが部屋を出ていく。あの娘のことだ、うまくやってくれる。
すやすやと眠る娘の顔を撫でた。もうすぐ一年。一年の間に本当に大きくなった。
水色の髪も、白い肌も私譲りだ。ただ、その緑の瞳は彼に似た。
「生きて。私の可愛いアリノーリア」
初投稿作品になります。
次回はアリノーリア視点です。
む、矛盾がないようにがんばりたいと思います。
誤字脱字、感想お待ちしております。




