ノアル、女神の池に行く
新たな仲間ソフィを加え、ノアルたちはエンポーロの町へと辿り着いた。
「ここには帝国の支配が及んでいないの。だから、この町で色々と準備をしましょう。まずは宿屋を探すわよ」
リンディがそう言った。
「ええ~! いきなり宿屋ぁ~? 観光とかしたいですぅ~」
ノアルが駄々をこねる。
ちっちゃいオジさんは、泥団子をこねる。
「何を言うの! あれを見なさい!」
リンディがビシッと指差す。
その先には、ボロボロになったソフィの姿があった。
そう!
ソフィはこの町へ来るまでに何度も転び、何度も怪我をした。そして、その度に回復魔法を使った結果、魔力が枯渇していたのである。
「ソフィはボロボロなの! 休養が最優先よ!」
「うぅ~」
ノアルは不満そうな顔をしながらも、しぶしぶ従った。
「はぁ……はぁ……」
ソフィは杖に身体を預けながら、ふらふらと歩く。
ドタッ!
また転んだ。
「いたたた……」
ちっちゃいオジさんが微笑みながら、手を差し伸べる。
「オマエ、コロス」
ソフィの顔が青ざめる。
「ひ……ひぃっ!」
ガバッ!
ソフィは機敏な動きで立ち上がり──
ダダダダダダッ!!
全力で走り去っていく。
ちっちゃいオジさんは、差し伸べた手をそのままに首を傾げる。
「オマエ……コロス?」
どうやら、ちっちゃいオジさんの優しい微笑みが、不敵な笑みに見えてしまったらしい。
(や、殺られるーーーっ!!)
ソフィは、本気でそう思っていた。
◇
宿屋・シルバー
「おや、お嬢さんたち、お客さんかね?」
キラッキラッ。
宿屋の女将らしき老婆(シル婆)が話しかけてきた。
なお、歯は全部銀歯である。
(すごい……ピカピカしてる……)
リンディがそう思ったのを察したのか、シル婆はニヤリと笑った。
「気になるかい?」
キラッ。
「この歯はね、10年前に突然、全部銀歯になったんだよ」
「突然!?」
「ああ……私は神様からの贈り物だと思ってる」
「神様の……?」
リンディが首を傾げる。
「私は昔、貧しくてね。住む家もなかった。でも、花を売りながら必死に生きてきたんだ……」
ノアルとソフィはネコをなでなでしていた。
「私は、宿のない辛さも腹を空かせる苦しさも知ってる。だからこそ、この宿を開いたのさ」
シル婆は静かに微笑む。
「困っている人に、安心して眠れる場所を。お腹いっぱい食べられる幸せを。それが私の願いなんだよ」
「素敵ですね……。そのご褒美として、歯が全部銀歯になったと……」
「ああ、そうさ」
キラッキラッ。
「でもねぇ……歯が銀歯になってから、困ったことも起きちまってねぇ……」
「困ったこと……?」
「それは──」
ガチャッ!
宿の扉が勢いよく開き、1人の老人が泣きながら飛び込んできた。
「うぇぇぇ~ん!! 婆さん! 今日も駄目だったよぉ~!!」
「やれやれ……」
シル婆は深い溜め息を吐いた。
箇条書きで説明しよう!!
・この老人の名前はゴル爺。シル婆の銀歯に強い憧れを抱いている。
・ある日、ゴル爺が池のほとりで縄跳びをしていると、入れ歯が外れて池に落ちる。
・すると池から女神が現れ、「あなたが落としたのは、金の入れ歯ですか? それとも銀の入れ歯ですか?」と尋ねる。
・ゴル爺は悩んだ末に「銀の入れ歯」と答えるが、女神は無言で消える。
・以来、ゴル爺は新しい入れ歯を買うたびに池へ投げ込んでいる。現在の投入数は242個(多っ!!)
・しかし未だに銀の入れ歯を手に入れることはできていない。
(『金の斧と銀の斧』の話みたい……)
話を聞いていたノアルは、そう思った。
そして、気付く。
(正直に答えればいいんじゃない!?)
「お爺さん、私に任せて!」
ノアルはビシッと指を突きつける。
「私が銀の入れ歯を手に入れてみせる!!」
◇
女神の池。
「ここじゃ。ここが、その池じゃ」
ゴル爺に案内され、ノアルたちは池へとやって来た。
「あ、あの……」
ソフィがおそるおそる口を開く。
「なんだか、雰囲気が重苦しくありませんか……?」
「う、うん……」
リンディも頷く。
「邪悪なオーラに包まれている気がするわ……」
2人が警戒する中、ノアルとゴル爺は池に近づく。
「さあ、お爺さん! 入れ歯を投げ入れるのよ!!」
「ほい、きた! ワシの魔球を受けてみよ!! 池に、いけぇぇぇー!!」
ゴル爺は全力で入れ歯を投げた。
ポチャン。
ちっちゃいオジさんはワクワク。
しばらくすると、池の水面が泡立ち始める。
ブク……
ブクブク……
ブクブクブク……
ドバーーーン!!
池から女神が現れる。
しかし──
その女神は、ドス黒いオーラをまとい、般若のような顔をしていた。
「てめぇ、ジジイ!! 入れ歯を投げ込むなって、何度言わせりゃ分かるんだよ!!」
キレていた……。
女神は、ものすごくキレていた。
(そりゃそうよね……)
リンディは納得する。
(入れ歯242個……いや、今ので243個か。そんなに投げ込まれたら怒るわよ……)
「いや、だって……ワシ……銀の……」
ゴル爺がしどろもどろになる。
「だってもクソもねぇんだよ!」
女神は池を指差した。
「池の底、見てみろ!! 入れ歯で埋まってんだよ!!」
(あれ……?)
ソフィは気付く。
(それだけ入れ歯があるなら……)
「あ、あの……女神様」
「あぁん?」
「ひっ!」
睨まれたソフィは半泣きになる。
「わ、私たちで……その……入れ歯を拾います……」
一瞬の沈黙。
そして──
「えっ、ほんと!?」
女神の顔がパァッと明るくなった。
「ごめんなさいねぇ~。ついイライラしちゃって~」
さっきまでの般若はどこへ行った。
「えぇ~!? ワシも拾うのぉ~!?」
ゴル爺が不満そうに叫ぶ。
「「「「当たり前だ!!!!」」」」
4人の声が見事に重なった。
「オマエ……コロス!!」
ちっちゃいオジさんもプンスカしていた。
数時間後、ノアルたちは池の底から、243個の入れ歯を回収した。
女神は涙を流して喜ぶ。
そして、一行は道具屋へ向かい大量の入れ歯を売り払う。その結果、ゴル爺は念願の銀の入れ歯どころか、金の入れ歯を買えるだけの大金を手に入れた。
「最初から買えば良かったんじゃ……?」
ノアルが呟く。
みんな苦笑い。
めでたし、めでたし。
その後、ゴル爺が売った入れ歯は町の特産品となり、エンポーロは入れ歯生産量世界一になるのだった。
入れ歯の町エンポーロ。
その近くにある池には、今日も誰かが入れ歯を投げ入れる。
「てめぇ!! 『入れ歯を投げ入れるな』って看板に書いてあんだろ!!」
今日も女神はキレていた。
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