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ノアル、女神の池に行く

 新たな仲間ソフィを加え、ノアルたちはエンポーロの町へと辿り着いた。


「ここには帝国の支配が及んでいないの。だから、この町で色々と準備をしましょう。まずは宿屋を探すわよ」


 リンディがそう言った。


「ええ~! いきなり宿屋ぁ~? 観光とかしたいですぅ~」


 ノアルが駄々をこねる。

 ちっちゃいオジさんは、泥団子をこねる。


「何を言うの! あれを見なさい!」


 リンディがビシッと指差す。


 その先には、ボロボロになったソフィの姿があった。


 そう!

 ソフィはこの町へ来るまでに何度も転び、何度も怪我をした。そして、その度に回復魔法を使った結果、魔力が枯渇していたのである。


「ソフィはボロボロなの! 休養が最優先よ!」


「うぅ~」


 ノアルは不満そうな顔をしながらも、しぶしぶ従った。


「はぁ……はぁ……」


 ソフィは杖に身体を預けながら、ふらふらと歩く。


 ドタッ!


 また転んだ。


「いたたた……」


 ちっちゃいオジさんが微笑みながら、手を差し伸べる。


オマエ、(大丈夫か?)コロス(無理するなよ)


 ソフィの顔が青ざめる。


「ひ……ひぃっ!」


 ガバッ!


 ソフィは機敏な動きで立ち上がり──


 ダダダダダダッ!!


 全力で走り去っていく。


 ちっちゃいオジさんは、差し伸べた手をそのままに首を傾げる。


「オマエ……コロス?」


 どうやら、ちっちゃいオジさんの優しい微笑みが、不敵な笑みに見えてしまったらしい。


(や、殺られるーーーっ!!)


 ソフィは、本気でそう思っていた。



 宿屋・シルバー


「おや、お嬢さんたち、お客さんかね?」


 キラッキラッ。


 宿屋の女将らしき老婆(シル婆)が話しかけてきた。

 なお、歯は全部銀歯である。


(すごい……ピカピカしてる……)


 リンディがそう思ったのを察したのか、シル婆はニヤリと笑った。


「気になるかい?」


 キラッ。


「この歯はね、10年前に突然、全部銀歯になったんだよ」


「突然!?」


「ああ……私は神様からの贈り物だと思ってる」


「神様の……?」


 リンディが首を傾げる。


「私は昔、貧しくてね。住む家もなかった。でも、花を売りながら必死に生きてきたんだ……」


 ノアルとソフィはネコをなでなでしていた。


「私は、宿のない辛さも腹を空かせる苦しさも知ってる。だからこそ、この宿を開いたのさ」


 シル婆は静かに微笑む。


「困っている人に、安心して眠れる場所を。お腹いっぱい食べられる幸せを。それが私の願いなんだよ」


「素敵ですね……。そのご褒美として、歯が全部銀歯になったと……」


「ああ、そうさ」


 キラッキラッ。


「でもねぇ……歯が銀歯になってから、困ったことも起きちまってねぇ……」


「困ったこと……?」


「それは──」


 ガチャッ!


 宿の扉が勢いよく開き、1人の老人が泣きながら飛び込んできた。


「うぇぇぇ~ん!! 婆さん! 今日も駄目だったよぉ~!!」


「やれやれ……」


 シル婆は深い溜め息を吐いた。



 箇条書きで説明しよう!!


 ・この老人の名前はゴル爺。シル婆の銀歯に強い憧れを抱いている。

 ・ある日、ゴル爺が池のほとりで縄跳びをしていると、入れ歯が外れて池に落ちる。

 ・すると池から女神が現れ、「あなたが落としたのは、金の入れ歯ですか? それとも銀の入れ歯ですか?」と尋ねる。

 ・ゴル爺は悩んだ末に「銀の入れ歯」と答えるが、女神は無言で消える。

 ・以来、ゴル爺は新しい入れ歯を買うたびに池へ投げ込んでいる。現在の投入数は242個(多っ!!)

 ・しかし未だに銀の入れ歯を手に入れることはできていない。



(『金の斧と銀の斧』の話みたい……)


 話を聞いていたノアルは、そう思った。

 そして、気付く。


(正直に答えればいいんじゃない!?)


「お爺さん、私に任せて!」


 ノアルはビシッと指を突きつける。


「私が銀の入れ歯を手に入れてみせる!!」



 女神の池。


「ここじゃ。ここが、その池じゃ」


 ゴル爺に案内され、ノアルたちは池へとやって来た。


「あ、あの……」


 ソフィがおそるおそる口を開く。


「なんだか、雰囲気が重苦しくありませんか……?」


「う、うん……」


 リンディも頷く。


「邪悪なオーラに包まれている気がするわ……」


 2人が警戒する中、ノアルとゴル爺は池に近づく。


「さあ、お爺さん! 入れ歯を投げ入れるのよ!!」


「ほい、きた! ワシの魔球を受けてみよ!! 池に、いけぇぇぇー!!」


 ゴル爺は全力で入れ歯を投げた。


 ポチャン。


 ちっちゃいオジさんはワクワク。


 しばらくすると、池の水面が泡立ち始める。


 ブク……

 ブクブク……

 ブクブクブク……


 ドバーーーン!!


 池から女神が現れる。


 しかし──


 その女神は、ドス黒いオーラをまとい、般若のような顔をしていた。


「てめぇ、ジジイ!! 入れ歯を投げ込むなって、何度言わせりゃ分かるんだよ!!」


 キレていた……。

 女神は、ものすごくキレていた。


(そりゃそうよね……)


 リンディは納得する。


(入れ歯242個……いや、今ので243個か。そんなに投げ込まれたら怒るわよ……)


「いや、だって……ワシ……銀の……」


 ゴル爺がしどろもどろになる。


「だってもクソもねぇんだよ!」


 女神は池を指差した。


「池の底、見てみろ!! 入れ歯で埋まってんだよ!!」


(あれ……?)


 ソフィは気付く。


(それだけ入れ歯があるなら……)


「あ、あの……女神様」


「あぁん?」


「ひっ!」


 睨まれたソフィは半泣きになる。


「わ、私たちで……その……入れ歯を拾います……」


 一瞬の沈黙。


 そして──


「えっ、ほんと!?」


 女神の顔がパァッと明るくなった。


「ごめんなさいねぇ~。ついイライラしちゃって~」


 さっきまでの般若はどこへ行った。


「えぇ~!? ワシも拾うのぉ~!?」


 ゴル爺が不満そうに叫ぶ。


「「「「当たり前だ!!!!」」」」


 4人の声が見事に重なった。


「オマエ……コロス!!」


 ちっちゃいオジさんもプンスカしていた。



 数時間後、ノアルたちは池の底から、243個の入れ歯を回収した。


 女神は涙を流して喜ぶ。


 そして、一行は道具屋へ向かい大量の入れ歯を売り払う。その結果、ゴル爺は念願の銀の入れ歯どころか、金の入れ歯を買えるだけの大金を手に入れた。


「最初から買えば良かったんじゃ……?」


 ノアルが呟く。

 みんな苦笑い。


 めでたし、めでたし。

その後、ゴル爺が売った入れ歯は町の特産品となり、エンポーロは入れ歯生産量世界一になるのだった。


入れ歯の町エンポーロ。

その近くにある池には、今日も誰かが入れ歯を投げ入れる。


「てめぇ!! 『入れ歯を投げ入れるな』って看板に書いてあんだろ!!」


今日も女神はキレていた。



最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
ちっちゃいおじさんはその六文字で違う意味を持たせられるのですね!(ㆁωㆁ)(笑)伝わる日が来るといいですね。 あはは、入れ歯の使い方、上手いです(笑) イタリアのトレヴィの泉では、年に一度、泉の水を抜…
今回もとても面白かったです。小さいおじさんは……残念でしたね。ソフィといつかコミュニケーションが取れる日が来るのでしょうか?
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