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珈琲を焙煎してたら恋琲になっていました  作者: エンザワ ナオキ
住み込みバイト編

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第98話:番外編② 桃果の憂鬱

 これもまた、俺が熱海に行く前日の出来事である。


 蜜柑みかんがカウンターにコーヒーを淹れにいった直後……。


「つばささん、失礼します」


「はーい、どうした?」


 割烹着かっぽうぎ姿の桃果とうかちゃんが、蜜柑と入れ替わるようにして部屋に入ってきた。

 自分の荷造りもしつつ、部屋の掃除も進めていたようだ。


「あ、熱海には……何泊する予定なんでしょうか」


「な、何泊か……。一応、1泊の予定ではあるよ!」


 桃果ちゃんの顔色も、蜜柑と同様に曇りがかっており、珍しく腕まで組んでいる。

 俺は、「次の日には帰ってくる」と伝えるが、何かを訴えたいのか、「うっ……」と唸り声をあげている。


「雫ちゃんのことを好きだったのは、映画館のときに会った、つばささんのお友達に聞いています」


「えぇ?」


 俺は、蜜柑のときと同様、再度手が止まった。

 

 —―あいつら……また、余計なことを言いやがって。


 あの時は、桃果ちゃんに()()()()()()()とか、言っていたのに……。

 だけど、雫ちゃんが俺のことをどう思っているかはわからないし、彼氏持ちである。


「それは、過去の話だからね……。それに、雫ちゃんが俺のことを好きだと思う?」


 俺は、荷造りの手を止めない。

 そのことを不満に思ったのか、桃果ちゃんの唸り声の音量が上がっていく。


「そ、そうですね……。い、いや! 何にも思っていない人を熱海まで呼び出しますかね?」


 確かに、客観的にはそう思うだろう。

 

 —―俺も最初は不思議に思った……いや、今も思っている。


「でも雫ちゃんは、こんな根回しはしないと思うよ?」


「た、確かにそうですね……」


 桃果ちゃんは、腕組みをやめ、唸りを上げるのをやめた。

 すると、桃果ちゃんは、「ハッ!」と声を上げた。


 今日の桃果ちゃんはまるで喋るぬいぐるみのように、リアクションがいちいち大きい。


「そういえば、雫さんが『おばあちゃん家行く』って言っていたのが、熱海だった気がします」


「……」


 —―え、そうなのか……全く知らなかった。


 つまり、おばあちゃんに出会う可能性もあるのか……。

 雫ちゃんが路頭に迷いそうになった時、拾ってくれたのがおばあちゃん。

 そのおばあちゃんに会うのが、ちょっと楽しみになった。


「と、とにかく……私の思いは伝えてあるので、ちゃんと誠実に雫さんと向き合ってくださいね!」


「は、はい……肝に銘じておきます」


 そう言うと、桃果ちゃんは満足したのか、昼ご飯を作りに行った。

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