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Dear My Future  作者: 湯たぽん
第一章 現出
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その1


その日、シュロは何年かぶりに神に祈っていた。




「 くっ・・・いい加減どうにかしてくれよ神サマ!」


迂闊だった。何もかもが迂闊だった。

正拳に突いてくる敵の拳を受け流しながら敵の足を払い、水月を突き上げる。

そんないつもの連結技でさえも焦りと疲労で妙に遅く感じる。

倒れた相手の顎を踏み抜く。かかとに嫌な感触を覚え・・・そして消えていく。・・・敵の姿も薄らいでいく。


だがその直後、気配を感じて振り向くとさっき倒したのと似たような人影が虚空からうっすらと、だんだんはっきりと現れる。


ゴーストだ。


振り向いた勢いそのままに体ごと旋回させて後ろ回し蹴り、そのまま反動で正面のゴーストにも裏拳を見舞う。

愚痴をこぼしながらも手足は動かし、周りのゴーストを蹴散らしている。


対ゴースト用の武器がないと実体のないゴーストは倒せないため、シュロは拳に精神力増強武器:ブレイブ・ナックルを装備している。

赤い髪を逆立て、精神力増幅ブースターとなっているペンダントを首から下げている。

やや背が低いががっしりとした体格をもつ、シュロはそんな男だった。


「 ったく・・・これだけ大量のゴースト現象が起きるってのによりによってこんな時に予報を外してくれるとはね!!」


となりで同じようにしてゴーストと戦いながらモクレンがぼやく。

彼は日本人だった。もっとも世界が統一された今となってはそんな区別すら意味を持たないが。

黒髪を短く切り、こちらは精神力増幅を額にまいたバンダナで行っている。

軍から移籍してきたモクレンはマーシャル・アーツの使い手であり、彼もブレイブ・ナックルを使っている。


「 何ぶつくさ言ってるんだ!そっちでまた沸いてるぞ!!」


銃を持ったイスカが怒鳴る。金髪で眼鏡をかけている、知的さを漂わせた長身の男。

集中力をかわれてこの”ツヴァイ”にスカウトされた彼は珍しく、特に扱いの難しい精神力を射出する銃:サイ・バスターの使い手だった。

しかし援護射撃の立場でありながら彼までもが接近戦をしいられている。全くもって迂闊であった。


戦闘開始からもう3時間が経過している。ゴーストの沸きには時間差があるものの、それだけに休めない。

上の指示で張っていたゴースト現象地点が間違いだと気付いたはいいが、そのまま装備も整えずにこの大量のゴースト現象に突っ込んでしまった。

しかも今回のゴースト現象はやけに手ごわい。

普段ならば見た事もない獣のようなゴーストや意味もなく殴りかかってくる、原始人と猿のあいのこのようなのがせいぜいであった。


今は違う。黒装束の上に武装し、明らかに訓練された感のあるゴーストだ。

武器も体力も格段に自分達が上だが、沸きが異常だった。

大軍と戦うことに慣れていないシュロ達は消耗も早い。


状況を分析してシュロは目眩を覚えた。あまりに悪すぎる。

ブーツにも仕込んである精神波武器で正面の敵にかかと落としを決めると、後ろから声が聞こえた。


「 シュロ!こっち片付いたぞ!」


振り返ると、接近してきていたゴーストを全て消し、イスカがサイ・バスターを構えていた。

小型のバズーカほどもある漆黒の銃:サイ・バスターは扱いこそ難しいが、使いこなすことができれば戦闘において非常に役に立った。

銃の調節ボタンをまるでサックスでも演奏するように操作し、イスカがあらためてサイ・バスターを構えた。

彼が首をクイッとひねり、合図をするとシュロは急いで相棒に向かって叫んだ。


「 モクレン!」


正面と左右、3体のゴーストを同時に回転蹴りで仕留めたモクレンが、後ろを確認するまでもなく蹴り足の方向へ側方宙返りで体ごと飛び出した。

シュロもそれに倣い、反対方向へ体を転がした。


「 いくぞっ!!!」


イスカの気合の一言とともに、サイ・バスターから射出された彼の命の光が戦場を激しく照らした。




目がくらんでいたのはほんの2、3秒だったろうか。


シュロが体を起こして見回すと、山の中にあるその街は何も変わることなくそこにあった。

21世紀初頭から続いた大災害は、交通網整備の急速な発展という皮肉な恩恵を人類にもたらしていたため

山奥のこの村にもしっかりとした建物、整備された道があった。

任務でなくここに来たならば、その白い建物が続く町並みを、美しいと思ったことだろう。


サイ・バスターの巨大な光柱が通り過ぎた後も、それらは変わる事なくそこにあった。

イスカの精神波を射出するこの銃は、対象の精神波を打ち消すための武器であるため、生体以外には全く影響を及ぼさないという便利な面があった。

もちろんシュロ達はこれに撃たれれば精神波を打ち消されダメージを受ける。そのために呼吸をあわせて退避、射出したのだった。


「 う・・・くそ。頭がズキズキする。

 全部消し飛んだろうか」


イスカがその場に座り込み、まさに命の力燃え尽きた様子でつぶやいた。

最大出力でサイ・バスターを放ったためしばらく戦闘は無理だろう。


「 ・・・いや。本当に今回は特別のようだぜ」


道の向こう側でモクレンが体を起こすのが見える。

予感していた事だが、シュロも頭をめぐらしてその光景を目に入れた。


「 まだ来るぞ!」


イスカの銃で全て消し飛びはしたものの、ゴーストが沸き続ける現象は止まらなかった。


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