その2
「 イスカを守るんだ!俺が前に出る」
シュロが跳ね起きて前方へ飛び出しながら指示を出した。
しばらくの間、銃を撃てないであろうイスカを守るため、モクレンがシュロとイスカの間で守り、シュロは最前線でゴーストを蹴散らし始めた。
彼の蹴り技には定評があったが、シュロの足はむしろすばやく体を移動させるのに秀でていた。
素早い体さばきでブレイブ・ナックルを振るい、正面のゴーストを次々と殴り倒していく。
「 うは~・・・さすがにすさまじいな」
シュロが全て倒してしまっているためにやる事がなくなってしまったモクレンが感嘆の声をあげた。
「 射撃専門の俺にもわかるよ。さすがにマーシャル・アーツで軍No.1だったお前の師匠をやるだけある。
まるっきり疾風だな」
イスカも座り込んだ姿勢のまま同意する。
確かにシュロの動きは風そのものであった。
踏み込みの勢いそのままに拳を叩き込み、側方へ体当たりするかのようなボディブロー。
かと思えばアクロバットのように体ごと回転させ、裏拳で2体を同時にあの世へ送り戻す。
ゴーストでない人間を相手にしても一撃で殺してしまうのではないだろうかと危惧してしまうほどの鬼神ぶりであった。
しかし、ゴーストは一向に減る気配を見せなかった。
「 どうするシュロ。ゴーストの発生地点もわからないようじゃこの先俺達が不利になり続けるだけだぞ」
イスカの冷静な分析がシュロの頭に痛い。
ゴーストの厄介なところは強くなり続けるところにある。
周りの生物、大地、空気からも存在の力を吸い取り自分のものとし、具現化していくのだ。
シュロ達のような専用の装備がなければすぐに吸い尽くされて死んでしまう。
「 ・・・!ヒソカが増援を要請に行って1時間くらいはたったよな」
「 ・・・あぁ、彼女の足ならもう増援をここまで誘導してるはずだ」
後ろにいるイスカが同意する。ようやく回復したらしく、援護射撃につとめている。
隣のモクレンが口をはさむ。体がうずくのか、イスカの護衛役を早々に放棄し、シュロと一緒に最前線でいつの間にか戦っていた。
「つっても到着するまであと30分くらいはかかるぞ!どうすんだ?」
彼は喋りだすと集中力が低下するという欠点から戦闘中での発言は禁じてあった。
だがこの状況ではそうも言ってられない。モクレンの指摘ももっともだ。
「 しょうがない、一時撤退するぞ!
イスカ、そこの平屋の建物の扉を破壊するんだ。俺が入り口でゴーストを始末するから二人は休め。
10分毎に役を交代する。あの入り口なら1対1で戦えるだろう。だがみんな無茶するなよ」
4人目の隊員、ヒソカを信じて撤退命令を出す。
また銃の設定を変え、イスカが今度は扉に向けてグレネード弾を発射した。こういう時のため、サイ・バスターには工作用の実弾も装填してある。
今度は土煙も混じった白くない閃光を伴った爆発が起こる。
イスカが破壊した扉から、さして大きくない平屋に飛び込んだ。
飛び込んでみると、室内にはほとんど光がなかった。
まともに中を見ることもできない暗さを自覚し、シュロ達は自分達がどれだけ長く闘っていたのかを思い知った。
建物の中は綺麗な外観とは裏腹に、奇妙な臭いにつつまれしけっていた。
「 ?どうしたんだ。ゴーストが追ってこないぜ?」
モクレンが疑問符をあげる。
見やると、確かにさっきシュロ達がいた最前線でゴースト達は膠着している。
突如、シュロは奇妙な既視感に襲われた。
(前にもこんなことがあったような・・・・)
「 シュロ、おい!照明弾を使うぞ!いいか?」
自分を呼ぶ声で我に帰ると、イスカが銃をいじりながらこちらを睨んでいる。
モクレンはもう休む体勢に入っていた。
「 ・・・いや、待て」
シュロは身構えたまま、建物の奥をつぶさに観察した。
どこか汗臭さを感じる板張りの内部。
外は白だったが、中はすすけた色になっている。
住民の死体からは一切武装がなかったため、訓練施設ではなく武術か何かの練習場であろう。
暗い・・・時刻通りの暗さだが、どこか違和感がある。
しかもさっきの既視感・・・焦りながらも全神経を周囲に張り巡らせる。
「 おいどうしたんだよシュロ・・・」
モクレンが立ち上がりシュロに触ろうとするのをイスカがとめる。
「 ・・・!!」
―――突如、奥のほうで何かが揺らめいたのが見えた。
同時にシュロに戦慄が走る。
全て思い出した。あの既視感は・・・!
血液が沸騰したのかと思うほどに熱くなる。
無意識のうちに、シュロは力の限り吼えていた。
あれは・・・!奴は・・・・・・!!
「 おぁぁぁぁああああああああ!!!!」
驚く二人の隊員を残し、奥へと駆け出す。
揺らめきが前へ進み出、正体を現した。
ゴーストだった。しかし他と変わりなく見える。
「 おい、シュロ!焦るな!!ただのゴーストに全力出してどうするんだ」
イスカの静止もシュロには聞こえない。
ゴーストの元へ走りよると、一度右へ体を振り、ゴーストの側面へ踏み込んだ。
左フックで体をこちらに向けると本命のアッパーを叩き込む。
ヒットはしたもののゴーストは手でシュロの拳をさえぎっていた。
カスっただけでダメージを与えることはできず、ゴーストも動き出す。
鋭い蹴りをすんでのところで体さばきでかわし、シュロも足刀を返す。
「 ・・・なんなんだ、あのゴーストは・・・どうやったらあのシュロと互角に闘えるんだ・・・?」
だらりと肩を下げてモクレンがつぶやく。
彼はいつもシュロと訓練している。
研究用機密特殊部隊:"ツヴァイ"、その中でも№1の戦闘力を誇るシュロの強さは身をもって知っていた。
「 12歳のときからこの任務についていたというシュロとあそこまで闘えるとは・・・ただのゴーストじゃないな」
冷静なイスカもこの時ばかりは呆然としている。
ハッとしてモクレンが叫ぶ。
「 シュロ!俺も加勢する!!」
走ろうとするモクレンをシュロが鋭く静止した。
「待て!お前には無理だ!!そこで外のゴーストの動きを見ていろ」
気がそれた瞬間ゴーストの拳がシュロの顔面をかすめる。
舌打ちしてバックステップし、距離を置いて息を整えると
「 こいつは具現化したゴーストだ。
存在の力を自分のものとして今、この世界のモノとして存在しはじめたんだ!
2年前、こいつと同じものと闘ったことがある・・・!」
シュロの声に歯噛みしながらもモクレンが立ち止まる。
「 外のゴーストはどうやらここまで来ないようだ」
イスカの言葉にホッとしながらもシュロは必死で闘った。
実際このゴーストはシュロと全くの互角だった。一瞬も気を抜くことができない。
得意の足さばきで敵の間合いに侵入しても、黒装束をまとったゴーストは引き剥がすような蹴りでシュロを間合いから追い出す。
シュロも素直には下がらず、蹴りを右へ避け、相手の側面に回りこみ大振りのパンチから足払いのコンビネーションを放つ。
ゴーストのほうは素直に後ろに下がり、胴回しの中段蹴りで襲い掛かる。
スピードと見切りではシュロが勝り、技とそのタイミングではゴーストが勝っていた。
( なんでゴーストがこんなに闘い慣れているんだ・・・!)
口に出す余裕もなく毒づくその間にも疲れを知らないゴーストは動き続けた。




