護衛騎士と不器用なバルコニータイム
「で?あなた方は合いそうなの?」
ヘンリーニにレーガを紹介された翌日、さっそくナリオーネに呼び止められていた。
自分のお気に入りのティニーを結婚させると聞いて、彼女は怒ったらしい。
「だって、ティニーは私のことが好きなのよ!」
とヘンリーニに言ったのだとか。
(ナリオーネはもうすっかり私の虜だな……)
女性の心は掴めるのに、なぜ男性の心は掴めないのだ、と呪いたくなった。
「それで、どうなのと聞いているでしょ。さっさと答えなさい!」
ティニーは困りながら口を開いた。
「合わないということはないと思いますが……私にはもったいない方なのではと」
「まあ、あなたって謙虚。それほど乗り気じゃないってことね?」
ナリオーネは安心したように機嫌が良くなった。
「では、私とお茶でもしましょう」
ナリオーネに付き合ってお茶を飲んでいると、ヘンリーニがレーガを連れてやって来た。
「ナリオーネ、私の元にいつ来るのかと待っていたら……どうしてティニーとお茶をしている?」
眉を寄せてヘンリーニが言う。
「あら、だって、そこの護衛騎士が自分に合わないのではないか、とティニーが言うものだから、私が慰めてあげていたのよ」
ナリオーネの言葉にヘンリーニとレーガがティニーを見た。
ティニーは慌てた。
「ナ、ナリオーネ様!私はそこまでは申し上げておりません。ただ、“もったいない”と言っただけです」
「似たようなものでしょう」
ナリオーネは悪びれずに言う。
「お前、レーガが自分にもったいないと思っているのか。意外と常識があって安心した」
ムッとしたが、顔をしかめただけで終わらせた。
「殿下、ティニーは真面目な女性ですからそのような言い方をしたのでしょう。私と彼女は順調です。ご安心下さい」
ガゼボではまったく甘い話なんてしなかったのに、レーガが“順調”などというから驚いた。
「順調なのか。ならば、ナリオーネ。私たちは彼らの邪魔にならないようにあちらに行こうではないか」
ヘンリーニに手を差し出されたナリオーネは、ティニーを名残惜しそうに見ながら、ゆっくりとその場を離れていった。
――2人になったティニーとレーガは、城のバルコニーへとやってきた。
ここは城下の街が一望できる場所で城勤めの者たちの人気スポットでもある。夕暮れに近い時間なら、もっと人がいてもおかしくないのに、レーガの姿を見かけると遠慮して皆が去っていく。
2人だけになったバルコニーは、夕暮れの風が静かに吹いていて、まるで2人の世界のようだった。
「ゆっくり話せそうだ」
「そうですね。……夕日が美しい。昼と夜の境目のこの時間帯はとても好きですね。故郷の丘から見る夕日みたいだ」
夕日を見て思わず故郷を思い出し、つぶやいた。
「ならば、今度、オレにもその夕日を見せてくれないか?」
「え?レーガ様が」
辺境も軍事的に気になる土地ではあると思ったが、夕日が見たいと言われてティニーは少し意外に思った。
「なにを驚いている?」
「私の故郷の夕日が見たいとおっしゃったもので」
「おかしくはないだろう?」
「そうですか?」
妙な沈黙が続いた。レーガは口数が少ないタイプで、ちょっと考えていることがよく分からない。
「……良かったら、今度デートしないか?」
やっとレーガが口を開いたと思ったら、急にデートのお誘いをされた。
「そうですね。いい気分転換になりそうです」
「気分転換か……そうではあるな」
ティニーは、デートなんてちゃんとしたことがあっただろうかと思った。
辺境でも男友達ならいた。街にも一緒に出掛けることもあった。でも、あれがデートなのかと言われれば微妙だ。だから、デートなんてハッキリ言われたら動揺する。
ふと横を見ると、レーガは沈みゆく夕日をじっと見つめていた。
(この人は何を今、考えているのかな)
問いたい気持ちもしたが、またガッカリするような言葉が彼の口から出てきたら、と思うと何も問いかける気になれず、口を閉じたままでいた。
風が吹いた。夕暮れの光が、2人の影をゆっくりと重ねていった。




