婚約破棄?護衛として恨みを晴らす!
――婚約破棄? むしろ好都合だ。
剣を握っている方が性に合っているのに、ドレスを着せられて笑顔を作れだなんて。
あの王子と結婚する未来より、よほどマシだ。
(今日こそ、あの二人に一泡吹かせてやる)
ティニーは、そう決めて舞踏会に立っていた。
「ティニー!お前とは婚約破棄だ!」
突然、ベルガ王国第1王子のヘンリーニは舞踏会場で叫んだ。天井が高いのでやたらと声が響く。
「よくも大切なナリオーネをいじめてくれたな!この性悪な田舎女が!」
ツバを飛ばしながら言う彼の腕には、震えながら涙を流すナリオーネ公爵令嬢がへばりついていた。
(いやいや……立場的には私の方がいじめられる側だっていうの)
ヘンリーニに寄り添っているのは公爵令嬢だ。対してティニーは辺境伯の娘である。普通に考えたらいじめられるのは、爵位が低い自分だと思う。
「なんとか言ったらどうだ!私の可愛いナリオーネがとても傷ついている。どう責任をとるつもりなんだ!」
(キャンキャンうるさいな。こんな婚約なんてこちらからもゴメンだっていうの)
ティニーは反骨心旺盛な女性だった。
「ナリオーネ様をいじめた覚えはありませんが、婚約破棄は承知いたしました!」
彼女は大声で言うと、彼らを鋭く見た。
ヘンリーニがたじろぐ。
「ただ、私は責任を問われる行いは一切しておりません。でも、殿下のおっしゃるとおりには致しましょう。辺境伯の娘として、責任の取り方を提案いたします!」
「は?辺境伯の娘として?言ってみろ」
ヘンリーニはナリオーネの肩に回した手に力を入れる。ナリオーネは顔を伏せたまま、目元をさりげなく指で拭っていた。だが、涙など流れておらず、勝ち誇った笑みを浮かべている。
(ムカつく女だな)
ティニーはムッとした気持ちを抑えて、息を吸うと会場に響き渡る声で言った。
「私は騎士として、全身全霊でお二人をお守りいたします!」
ざわめく会場の中で、ヘンリーニの後ろに控える一人の騎士がピクリとして、ほんの一瞬だけ視線を上げた。
目の前の二人というと……ポカンとした顔をしていた。
「は?私の聞き間違いか?お前が私たちの護衛をすると聞こえたようだが」
「間違っておりません!元来、私は殿下の妃になるよりも剣と槍を持ち、守る方が向いているのです。だからこそ、提案させて頂きました!」
会場にいた貴族たちがどよめいていた。
(まあ、驚くのは予想済みだ。……面倒だが、理解できないようだから説明してやるか)
「そもそも私は知っていたのですよ。お二人が親密な関係であることを……。だからこそ、大切なナリオーネ様を守ろうと婚約破棄されたのですよね?」
「う……。お前は面白く思っていなかったのは間違いあるまい!ガサツで失礼な態度が目に余った!」
自分の正当性を主張するヘンリーニが顔を歪ませる。ブサイクに見えた。
「落ち着いてください。私は責めようとは思っておりません。ただ、お二人の“純愛”を私が邪魔しているならば喜んで立ち去りましょう、というお話です。ですが!ただ、このまま不名誉な形で去るわけにはいきません。よって、お二人を守ることで私なりの責任を全うしようではないかということです!」
ティニーは持論を展開したが、誰も理解できないらしく依然として周囲はザワついている。
(頭の固いやつらだな)
周りの反応にティニーはイライラしたが、膝を床につき頭を垂れて、従順な様子を見せる。
「お前は、やたらと腕が立つとは聞いてはいるが、このまま護衛につかせるなど危険だろう!私たちに危害を加えようとしているのではないか?」
「滅相もございません。先ほども申したではないですか。私の本来の役目はお守りすることだと」
(ここは復讐のために、ゴリ押しさせてもらうぞ!)
心の中で黒い笑みを浮かべる。この言動にはある魂胆があった。
「ヘンリーニ様、彼女の言うとおり使ってやりましょう。必死過ぎておもしろ……いいえ哀れですし」
ナリオーネがニヤリとする口元を隠しながら言う。嫌がらせをする気満々に違いない。
「ナリオーネは優しいな。怖くないのか?」
「私は広い心の持ち主ですの。ティニー、お前は心して私に仕えるように」
「はい、もちろんです!」
さらに深く頭を下げるとその場はなんとか収まったのだった。
――元来、ティニーは、辺境で馬に乗りながら剣を振り回すタイプだ。実家が辺境を守る役目を仰せつかっている。
だが、急にヘンリーニの婚約者に指名された。そして、無理やり窮屈なドレスを着せられるし礼儀だ、笑顔だと……どれだけ自分を押し殺したかわからない。
だから、自分の努力をアッサリと無にしたヘンリーニを恨んでいる。
(婚約破棄――?畜生と結婚しなくて済むのは嬉しいが、簡単に喜べないぞ)
まず、大事な自分の時間を搾取しておいて、最後はこちらに非があるように仕向けた魂胆が気に入らない。
(私の名誉は回復させてもらうぞ)
これが今回の言動の動機の一つだ。
そして、ヘンリーニから“ゴツイ”だの、“ガサツ”だの、ほぼ毎日言われてきた。
こん畜生、と恨んでいたある日、ヘンリーニの幼馴染である公爵令嬢ナリオーネが『ティニーにいじめられた』と、言い出した。
その後は、婚約破棄騒動はトントン拍子に進み、現在に至っている。
よって、ティニーの中ではある計画が渦巻いていた。
ティニーは、ナリオーネを見て密かに舌なめずりする。
――それは、復讐の始まりだった。
読んでくださりありがとうございます。
久しぶりの連載になります。
今回のお話は、王子に婚約破棄された令嬢ティニーが、
女騎士として新しい道を歩む物語です。
恋あり、ちょっとした復讐あり、時々ドタバタ。
楽しんでいただけたら嬉しいです!
大井町 鶴




