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第八百五十五話

 この仏像が偽物である事は俺の中で確定しているが、これを証拠とするには少し弱い。何故なら、偽物と断定出来ないからだ。


 まず、店長が言う「幻の仏師」が俺を指していると断定出来ない。これを手掛けた仏師もそう言われていると主張されれば、それを覆すのに多大な時間と手間をかけさせられる。


 今上陛下も所有しているとの言もあったが、断言ではなく噂もあるという言い方なので逃げる余地は十分にある。


 以上の事から彼が俺達を騙そうとしていると証するには決定力が足りない。ここはもう一つの用意した品とやらに期待させてもらおう。


「これ程の品に出会えるとは思ってもいませんでしたわ。もう一つの品も期待してよろしいのかしら?」


「勿論で御座います。こちらは江戸時代に作製されました由緒ある逸品でして・・・」


 店長は新たな木箱をテーブルに置く。古い木箱の蓋には墨書にて「波天奈」と書いてある。木箱には紫色の高そうな布に包まれた何かが入っていた。


 店長さんが丁重な手付きで布を解くと、中には定食屋で使われていそうな茶飲みが鎮座していた。どう見ても大量生産品の安物な湯飲み茶碗しにか見えない。


「これは江戸時代の目利き、金兵衛氏により見出されし名碗に御座います。天覧の栄誉に浴し、千両もの値がついた逸品中の逸品で御座います」


 堂々と説明する店長さん。俺は笑いや呆れといった複雑な感情にどんな表情をするべきかと困惑してしまった。


「蓋にあるこれが銘なのでしょうか」


「時の帝手ずからお書きになられた銘で『はてな』と読みます」


 これで確定だ。仮にも骨董商を商う者が実物(笑)を出しておいて波天奈の茶碗を知らないとは言わせない。


「手に取ってみてもよろしいかしら?」


「はい。ですが扱いには呉れ呉れもご注意願います」


 店長さんが注意するのもわかる。高価な骨董品であり、失われればお金を積んでも手にはいらない品なのだから。


 と言っても、それが本物ならばの話である。俺は先程多めに淹れられて放置されていたお茶を一つ取ると、それを名碗の中に注ぎ込んだ。


「なっ、何をなさいます!」


「念の為、本物かどうかを確認したくてね。どうやら漏れていないようね」


 茶碗を持ち上げて確認するが、注いだお茶が漏れている様子はない。これで完全に偽物である事が確定した。


「何を当たり前の事を!茶碗から湯が漏れては用を為しませぬ!」


「そうね。お茶を飲む為に用いるのが茶碗なのだから、茶が漏れては意味がないわね」


 それが誰もが認識している常識である。故にそこから外れた品が珍重されるという場合もある。という事になっている。


「清水の音羽の滝の音してや 茶碗もひびに 森の下露」


 俺が俳句を詠むと、店長さんが驚いた表情を見せる。そのこめかみを一筋の冷や汗が伝うが、彼はそれを拭う事も出来ずに硬直している。


「その反応、知っているようね。時の関白、鷹司公がお詠みになった句よ」


 「容疑、確定。突入を許可」


 俺が店長さんに絶望を突きつけると同時に、関中佐が待機していた警察部隊に突入の指示を出した。

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― 新着の感想 ―
こんな杜撰な詐欺師が今まで何度も詐欺を起こして捕まらずにいたのが信じられない 帝国の警察ってそんなに無能なんです? それともここの店長が詐欺師連中のなかで愚者だっただけか?
ギャラリーフェイクでの引用が最初にみたやつ。他にもいろんな作品でやっていたなww 落語は全部聞いてはいないけれど
舞「茶碗の価格を提示される前に突入するのは性急すぎない?偽物だったとしても妥当な価格だったり、『仏像を購入していただけたら、茶碗はプレゼントするつもりだった』とか言い逃れされたら反論できないよ?」 関…
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