第八百十八話
「師団長、ここでは奴らの動きが見えぬ。見通せる場所に移動するが良かろう」
「し、しかし、見通せるという事は射線が通るという事にもなります!」
師団長さんの懸念は正しい。こちらから奴らの艦を見る事が出来るという事は、奴らの砲撃がこちらに届くという事にもなる。
「あの者共は皇帝陛下と皇女殿下を要求しておる。ならば二人の身に危害が及ぶような真似はせぬじゃろう」
「それに、玉藻お姉様と舞ちゃんが守ってくれます。二人が居る限り、私達は安全だと確信しています」
「・・・承知致しました。」
厳島神社は入り江のような場所に建っている為、港の様子を見る事が出来ない。なので豊国神社を回り港を望める場所に移動した。
「玉藻お姉ちゃん、スキルで何とかならないかな?」
「難しいのぅ。恐らく舞のスキルでは民間船を守りきれぬ」
見た所、駆逐艦は全長が二百メートル程。前後に連装砲を一基づつ配備し、甲板上には防盾付きの機銃座が点在している。
「ここから民間船と駆逐艦の間にスキルを発動できるかえ?もし出来たとしても二百メートルの長さをカバー出来ぬであろう」
これまで舞は自分を中心にスキルを展開してきたので、離れた対象にスキルを使えるかは分からない。ぶっつけ本番でやるにはリスクが高すぎる。
それに、今の舞の能力では前部主砲から後部主砲まで全ての主砲と機銃座を阻める大きさで展開した事も無い筈だ。
前部主砲か後部主砲を迷い家の入り口で蓋をしても、一つでも機銃座を防げなければ民間船に甚大な被害が出てしまう。
「カバーしきれなくても、幾つかの機銃を無効化出来れば・・・」
「ならぬ。手出しされていると知ったら、奴らが何をするか分からぬでな。ヤケを起こして民間船を攻撃するやもしれぬ」
舞が焦る気持ちはわかるが、下手に行動すれば民間船に乗船している人達の命が危ないのだ。臆病と思われようと慎重に動くべきだろう。
「玉藻ちゃん、神炎で船に穴をあけたら沈まないかしら」
「小さい穴を開けたとて、軍艦は簡単には沈まぬのじゃ。浸水しても水密区画で区切られておる故、喫水が下がる程度じゃな」
対象を焼滅させる神炎さんも、燃えにくい物質を焼滅させるのは時間がかかる。かつてアイアンゴーレムを焼滅させるのに時間がかかったように、鋼鉄を焼滅させるにはそれなりの時間が必要なのだ。
そして、こちらがスキルで攻撃したと悟られたら奴らは黙っていないだろう。もし攻撃するのなら何もさせずに轟沈させるしかない。
「神使様、奴ら民間船との間に板を渡して移乗しています!」
「マズイのぅ、これで増々手を出しにくくなってしもうた」
俺の能力が戦闘用ではなく支援用なのが悔やまれる。駆逐艦を一撃で撃沈させられるような強い攻撃スキルがあれば海の藻屑にしてやったのに。
「くっ・・・奴ら、駆逐艦に人質を連れ込むつもりみたいだ」
テレビをチェックしていた師団長さんが呻く。民間船に乗り込んだ奴らを乗っていたテレビ局のクルーが撮影しているようだ。
「幼子を人質にするとは、武人の風上にも置けぬ・・・むっ、これは!」
自称世界平和維持艦隊の兵が幼子を人質にしようとしたが、何者かがそれを阻んだようだ。勇気ある行動だが、無事に済むだろうか。




