第六百七十三話
「玉藻様、御足労頂きありがとうございます」
「中佐は無駄な事をせぬ。必要な事じゃと思うておる故な」
施錠した情報部部長室にて関中佐と対面する。中佐は忙しい身なのでまどろっこしい事は省いてすぐ本題に入る。
「玉藻様、英国大使が交代したのはご存じかと思われます」
「うむ、信任状奉呈式をマスコミが大々的に報じておったのぅ」
大使が代わった際には、天皇陛下に大使就任の認可を貰う必要がある。その為の儀式が信任状奉呈式で、東京駅から馬車に乗り皇居まで往復するのだ。
式の前に新たな大使には馬車を使うか自動車を使うかの希望を聞き、望まれた手段を使う事になる。殆どの大使は馬車を希望するそうだ。
「その大使が玉藻様との面会を望んでおりまして、英国王室から天皇陛下にその仲介を頼む書状を持参したそうです」
「英国王室に頼まれては、今上陛下は無下には出来ぬのぅ」
日本皇室と英国王室の繫がりはかなり強い。敵となった前世の第二次世界大戦中も皇室と王室は連絡を取り合い、終戦前にはその縁を頼り英国に停戦の仲介を依頼していた。
「それに、我々陸軍としても断り難い状況でして・・・」
「あの強襲揚陸艦じゃな。恐らく英国で使っておる戦車や装甲車を持ち込んで渡したのじゃろう」
「そ、その通りに御座います」
こちらが望むであろう物を先手を打って提供し、恩を売ってから要求を出す。その要求も無理のない範囲なので相手は断り難くなる、か。新たな大使はかなりやり手なようだ。
「新たな大使は食えぬ輩なようじゃな。会談の要請は受けるとしようぞ。妾も一度会っておいた方が良さそうじゃ。かなりのタヌキなようじゃからな」
「ありがとうございます。陸軍も宮内省も面目が立ちます」
「こちらの要望を先読みして手を打ったように見せかけ亜細亜への航行経験も積みおった。油断出来ぬ相手のようじゃな」
強襲揚陸艦と随伴艦を亜細亜に派遣する手筈を整え、日本に渡す車両を選定し搭載するのには時間がかかっただろう。玉藻がダンジョン攻略に関わっているとの情報を得てすぐに動いたのではなかろうか。
「玉藻様、彼らは何度も定期的に船団を往復させています。航海のノウハウは持っているのでは?」
「中佐、民間船と軍艦では同じ航路でも運用に違いがあるのじゃよ」
民間船は燃費も考慮して建造されるが、軍艦は最高速度や加速性能が優先される為民間船に比べて燃費が悪いのだ。
その為、補給のタイミングは民間船と軍艦では違うので途中寄港するべき港も同じでは不都合が生じてしまう。
更に、戦艦や強襲揚陸艦といった大型艦は駆逐艦などの小型艦に比べて燃料の搭載量が多い。なので小型艦の燃料が少なくなると大型艦から補給する事となるのだ。
そのタイミングなども机上の計算と実際に行うのでは差が出るだろう。今回強襲揚陸艦と随伴艦が得た情報は英国海軍にとってかなり貴重なデータとなる筈だ。
「欧州ではこのような遠距離航海をする必要が無いからのぅ。大氾濫前のデータはあるじゃろうが、石炭燃焼艦と魔石機関搭載艦では別物じゃ」
その辺の事情は陸軍に気付けというのは無理な話だろう。海軍はそれに気付いているのかな?




