第六百七十二話
「うわぁ、大きなお船だね!」
「でも、何だか変な形ね」
夕食を食べ終え、テレビを見ていた舞が驚きの声を上げる。それに対する母さんの感想は辛辣な物だった。
『今回来日した英国定期船団ですが、珍しい艦が御目見えしました』
『強襲揚陸艦のハボクックですね。今回の船団には交代する大使が同乗しているとの情報がありますが、それに関係しているのでしょうか』
テレビの画面に大写しになっている艦は、艦橋が小さく作られ艦の右端に据え付けられている。上部は一枚板を乗せたような構造で、軍艦に必須な砲が一門も搭載されていなかった。
「強襲揚陸艦?砲も見当たらないし、あんな平べったい船何に使うんだ?」
父さんも砲を持たない巨艦がどんな使い方をされるのか分からず首を傾げている。この世界の日本人には馴染みのない艦型だから仕方ない。
前世の人間ならば、このシルエットを見れば誰もが空母だと思うだろう。しかし、航空機をほぼ運用していないこの世界には空母が存在しないのだ。
「お兄ちゃんはあの船について何か知ってる?」
「ああ、あれは兵隊や軍用車両を大量に運ぶ為の船だよ。敵地やその近くまで船で運んで素早く展開するんだ」
英国は戦車や装甲車を運用しているようなので、部隊の輸送に強襲揚陸艦を使っているのだろう。日本は戦車も装甲車も使っていないから必要がなく、保有もしていない筈だ。
「しかし、何であの船が来たのかな」
「あれだけの巨艦、動かすだけでも経費が凄い筈だから何かしらの理由が無いと派遣しないと思うけど・・・」
まさか日本に強襲作戦を展開して占領する・・・なんて事は無いよな。それをするには強襲揚陸艦一隻だけでは戦力がまるで足りない。
英国が巨艦を日本に派遣した理由、俺はそれを三日後に知る事となった。関中佐に呼ばれた俺は放課後情報部に出勤した。
「滝本中尉、玉藻様にこちらへお出で頂くよう繋ぎをとって貰いたい」
「玉藻様にここへ御足労願うのですね」
態々玉藻に来て欲しいと言うのは、本営に玉藻が来て中佐と会談したという事実が必要なのだろう。そうでないなら用件を俺に言えば済むのだから。
俺は情報部差し回しの車で迎賓館に戻り、車を降りた振りをして車内に戻り身を伏せて隠れた。こんな手間をかけるのはマスコミ対策だ。
追ってきていたマスコミが離れた事を確認し、近くの地下鉄駅で車を降りる。走り出す車を見送り駅に入ると別の入り口から出て路地に入った。監視カメラが無く人の目も無い事を確認し、玉藻に変わると空歩で市ヶ谷に向かって駆けた。
本営の正門前に着地すると、詰めていたマスコミも門衛も驚きのあまり硬直した。
「関中佐に呼ばれて来たのじゃ。通っても構わぬな?」
「えっ、あっ、はい、お通り下さい!」
話しかけた事で再起動した門衛の許可をもらい敷地内に入る。我に返ったマスコミが取材しようとしたがもう遅い。
これで玉藻が関中佐を訪れたアリバイが成立した。中佐は一体何を話すつもりなのやら。




