第六百六十六話
「水が限られてるのに塩っぱい干し肉とか乾パンとか水が欲しくなる食べ物だけって酷くないですか?」
「保存がきいて重量が軽い物となるとこうなるのは仕方ない。レーションもあるが容器の分だけ嵩張るし重いぞ?」
昼休憩で干し肉や乾パンを食べた生徒が不満の声をあげる。水分を含んだ食料は重さが増すのだから、荷重を軽くしようとすれば選択肢は限られてしまう。
「中尉殿の仰る通りだ。お前達が将来補給物資を差配するようになった時、適切な手配が出来なければ我々現場が地獄を見ると覚えておけ」
潜る階層が浅かったり特別攻略部隊のようにしっかりとした補給体制が整えられていれば話は変わる。レーションも持ち込まれるので少しまともな食事をとれるのだ。
しかし、それをこの場で言う必要はないし言うつもりはない。例外となる事例があろうとも、それを懇切丁寧に説明するかどうかを決めるのは毎年これをやっている練馬の部隊なのだから。
体力の無い生徒が遅れたり、迎撃で進路をずらされた黒鉄虫が生徒の顔をかするという軽いトラブルもあったものの、何とか野営を行う四階層に到着した。
「なあ、四階層で野営って早すぎないか?」
「だよな、もう少し潜るかと思ってた」
ダンジョン攻略の多少の知識がある生徒から疑問の声が上がった。実際、野営をするには浅い階層なので疑問に思うのは当然だと思う。しかし、この階層なのには当然ながら理由がある。
「持ってきた水の残量は確認したか?もう半分を切っている者が多いだろう。先まで進めば帰りは水無しで行軍する事になるぞ」
水を温存してきた者も僅かに居たが、殆どの生徒は水の残量が少なかった。温存出来た生徒はダンジョンに潜った経験があるのだろうな。
「テントの搬送も設置もやってもらっているが、本来なら自分達でやらねばならない。更にモンスターに対する見張りも必要だからな」
「・・・ダンジョン攻略って、過酷過ぎませんか?」
「だから長い間到達階層が更新されなかったんだ」
バテて座り込む生徒が散見される中、さらなる現実を突きつける。普通の攻略部隊や探索者パーティーはよくこんな条件で攻略できる物だと感心させられる。
護衛が居るとはいえモンスターが襲い来るダンジョンだ。ただ歩くよりは精神を削られるので疲労の度合いは深くなる。疲れ切った生徒達は割り当てられたテントで熟睡してしまった。
そんな中俺は四階層降りた程度ではそんなに疲れる事もなく、眠るでもなく寝転んでいた。すると見張り番らしき兵の話し声が聞こえてきた。
「なあ、今回は誰だと思う?」
「そりゃ中尉殿で決まりだろう。あの可愛さはダントツだ」
話の流れからして、女生徒達で一番可愛いのは誰かと論じているのだろう。だが、何故俺になるのだ?
「でも、男の娘なんだよなぁ」
「いや、あの可愛さの前では性別なんて関係ない!」
中佐への報告には、練馬の部隊内に特殊な性癖の者が居るようなので調査が必要だと書くのを忘れないようにしないとな。




