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テフラdeダンジョン  作者: 唯のかえる
章題『工事中』
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進み続けた男

『休憩階層 王城牢屋』


 テフラとハピネスは牢屋だらけの『休憩階層』で出会った男ハバキウスと牢の中にいた。

 そこでテフラとハピネスは、ハバキウスの事情を少しだけ聞くことができた。

 どうやらハバキウスは『八本脚』を倒してから、ずっとダンジョンを降り続けているというのだ。


 そして、そこで大きくハバキウスの腹がなり──。


 ──今はコトコトとテフラの前で蓋が閉められた鍋が湯気を噴き出し、熱気を放っていた。


 中に入っているのは緑色の葉──ワカメである。

 鍋もテフラが持っていたものではなく、ハバキウスがダンジョンを探索しているうちに手に入れた物。

 蓋を閉めると中のモノを煮込んでくれる不思議なアイテムである。見た目は土鍋。

 ちなみに、中に入れているワカメもハバキウスが持っていた食品である。

 どうもハバキウスが降りていた階層にもワカメ丸が存在するらしく、ほぼ主食と化していたそうだ。

 ハバキウスの遠い目をした生で食うと腹を壊すぞ、という一言でテフラは顔を真っ青にして『休憩階層』に常設されているお手洗いに駆け込んだ。ワカメ丸の呪いだ! と騒いだのは言うまでもない。


 時折、鍋の蓋を開けて中をかき混ぜハバキウスはポツリと語る。


「こうして誰かと飯を食える日が来るとはな……。夢だが」

「夢じゃないって……」

「夢だ」

「……少年、ちょっと」


 どうしても現実と受け入れてくれないハバキウスにテフラはどうしたものかと頭を悩ませる。

 そんな時、ハピネスがこっそりとテフラに声をかける。

 マフラーの中からの小さな耳打ち。

 幸いなことにハバキウスは、鍋を見ることに集中している。

 テフラは首を傾け、ハピネスの声を聞く。


「少年、夢ということのまま進めてた方がいいかもしれない」

「?」


 声を出さずに、テフラはハピネスに何故? と顔を顰める。

 そのテフラに若干ハピネスは言いづらそうに。


「彼の話では二十年、ずっと降り続けていたはずなのだろう? そこに少年がたどり着く」


 現状を示す言葉。


「それは……。彼の時間が無意になっていたということを示してしまうよね」

「っ!」

「……夢というのは自己防衛という面もあると思うんだ」


 テフラが話しかけなければ、無言で鍋を見つめているハバキウスの瞳は黒く澱んでいる。それは疲れからか、彼がすでに狂ってしまっているのか……テフラには想像もつかなかった。


 もしもテフラがハバキウスのようにずっとダンジョンを攻略できると信じて進んでいて。

 二十年ずっと一人で時間制限のあるダンジョンの中を、食べ物が手に入るかどうかもわからないダンジョンの中で。

 そこに『八本脚』を倒してきた、という青年が現れたらどうだろう。

 それもたった一階降りただけの者が。

 自身とは違い、話し相手のいる者が。


「辛いぜ」

「……うむ、夢と思い込みたくなるほど辛いだろう」


 テフラは再度、ハバキウスを見つめた。

 一人、延々とダンジョンに挑み続けた先達の姿を、何も言えずに眺める。

 それに彼がここにいるということは、自身も脱出できずに延々とダンジョンを潜り続けることになる可能性があるのだ。

 ハピネスも気がついているだろうが、口に出すのが恐ろしかったのだろう。何も言わずにマフラーの中で小さく震えたままだ。

 もしかしたら、この階層に来る前にハピネスが震えていたのは、このことを勘で察知していたのだろうか……。


 ただ、一つだけ。

 一つだけテフラは確認したいことがあった。


「なぁハバキウスさん」

「なんだ」


 胡乱に顔を上げるハバキウスに、後ろ髪を掻いて少し躊躇──しかし、テフラは真っ直ぐにハバキウスの目を見た。



「アンタ、まだ諦めてないだろ」

「無論。()()()()()()()()()


 ハバキウスは自身に言い聞かせるように強く()()()()()()

 それをテフラは、心底嬉しそうに笑って受け止めるのだった。



 ◇



 コソコソと会話を続けるテフラとハピネス。


「本当に、本当にやるのかい少年? 奪われたら……」

「しょうがないだろ。俺が考えた中で一番角が立たないんだから……!」

「でも、それって無謀な賭けに……ウゥン! わかったよ頑張るよ、少年には戦闘を頑張ってもらってるし、私が頑張る番だ!」

「ありがとな。それに、この人なら大丈夫だ」


 テフラのマフラーの中で震えていたハピネスにテフラがお願い事をした。

 それは、現状のハバキウスとの関係を悪化させない一つの方法。

 ハバキウスは今回の夢は不思議だなぁと折れた大剣を丁寧に拭いて、そんなテフラとハピネスを眺めている。


 そして、ついに。

 初手肉扱いされてマフラーに隠れていたハピネスが、ピョーン! と高く跳ねてマフラーから射出。その後、うまいことテフラの頭の上で存在をアピールする。


「おっほん!」

「……やっぱり鳥が喋ってるな」


 ハバキウス、心底理解できない表情。

 ハバキウスのテフラ達を現実だと思えない一因がハピネスであった。


 だが現実だと信じてもらうための一手になる。


 青い鳥ことハピネスが、テフラの頭の上で大きく羽を広げた。

 やけくそ気味に、目を瞑ってハピネスは続ける。


「わ、私は尾根の神の使い。ニシキの村の村長の倅ハバキウス、貴方に味方を連れてきたのだ! 彼と一緒にダンジョンの攻略を!!」

「……??? 喋る鳥??」

「普通、鳥は喋らないよ!」 

「そうだった!!?」

「よって私は神の使い。誰がなんと言おうと神の使い……!」


 がちゃん!!! と拭いていた大剣を取りこぼし、口を開いて固まるハバキウス。うまく頭の中を整理できない様子。

 急な展開にオロオロとして、頬を強く捻っている。痛そうだ。

 そんなハバキウスを放置して、ハピネスは畳み掛けるように言葉を続ける。


「この少年はテフラ。君のために送り込んだ使者である。テフラ、彼に……あ、あれを、アレを本当にあげちゃうのかい!?」

「おう、じゃない……ハイッ!」


 やけくそ気味ではあるが、本当に()()こととあるアイテムのことを指摘してしまうハピネス。

 当然だ、と言われたテフラは予定通り動く。

 うやうやしくテフラはハバキウスの前に膝立ちになり、懐から────アイテムを取り出す。

 それは。


「ハバキウスさん、受け取ってくれ。これは『魔法の地図』だ」

「夢、だ。信じられない……」

「へへ、まぁ見てくれよ。すげぇぜ?」


 信じられない、そう呟き灰色の青年の前に立つ髭面の大男は後ずさる。

 テフラは体を震わせながら後ろに下がったハバキウスの手を掴み、ここまで自身を導いてきたアイテム『魔法の地図』を何の躊躇いもなく握らせた。

 震える手で、ハバキウスは握らされた古びた羊皮紙を開き……、中を見て目を見開く。


 不思議なアイテム『魔法の地図』は、この『休憩階層』の全てを暴く。


 その様子を見ながらテフラは力強い笑みで言い放った。


「夢じゃない。俺たちはアンタを助けに来た」


 思い出すのは、生贄ダンジョンに入る直前。

 マクキタラに別れ際に言った言葉。


「なんたって俺は。アンタの弟に」


 尾根の上で神様と暮らしてるかもしれない、と夢物語を語った。

 そして、彼の兄は本当に生きていた。

 決して諦めずに、狂いそうになりながらも前に進み続けていた。


 であれば、テフラがやることはただ一つ。


「アンタの息災を伝えるんだからな!」


 さぁ、一緒に行こう。

 そう強く思って、テフラはまだ呆然としているハバキウスに強く頷きを返すのだった。


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