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05 ユーリの不満

僕は、ユリウス・アルフィルム。

侯爵家子息という身分だ。

僕は、最近ある不満がある。


「・・リリィ。また夜出歩いたのか?」

大きな欠伸をしながら食堂に現れた、僕の姉リリィ、正式な名前は、リルアーナ・アルフィルムに不機嫌な声をかけた。


「違うわよ。ちょっと寝れなくて遅くまで本を読んでいただけよ。」

そんな嘘をつく。

最近、満月がくると翌朝寝不足な顔をしながらもニコニコしているのだから、満月の夜、内緒で出掛けていることはバレバレだ。

昨日は実は追いかけようと庭で隠れて待っていたが、猫の姿のリリィに追いつける訳はなく、すぐに見失ってしまった。


そう。

僕の姉は、猫なのだ。


いや、正確には猫じゃない!

れっきとした侯爵令嬢だ。

でも、深夜から早朝にかけて猫の姿になってしまう。


姉は呪われているのだ。


リリィへの違和感にいつ気付いたかはもう覚えていない。

だって、生まれた時から夜一緒に寝ていると猫になっていたんだから、僕達にとって猫のリリィは当たり前のことだった。そのふわふわの毛並みとしっぽが羨ましくて、またリリィと違うことが嫌で、小さい頃は僕も猫になりたいと泣いて両親を困らせたのは恥ずかしい思い出だ。


でも少しずつ大きくなって、リリィも僕も、猫の姿になるのは呪いのせいであり、また、このままでは嫁ぐことも出来ず、人に知られれば呪い持ちと忌避されることを知る。

女性としての幸せを根こそぎ奪われた状況で、絶望してもおかしくないのに、リリィはとにかく前向きだ。


昔聞いたことがある。

「リリィ辛くないの?」

リリィは笑って僕のおでこに自分のおでこをくっつけて笑っていた。

「辛くないわけではないわ。でも、私にはユーリがいるもの。小さな頃から、猫の私も可愛いとずっと言ってくれていたでしょ?こんな近くに頼もしい味方がいて、ずっと私のことを誉めてくれたんですもの。嘆くより、楽しい思い出がいっぱいよ。有難う、ユーリ。」

そう言ってニコニコするリリィはとても可愛いかった。


そして、少しでもリリィの力になれていることが誇らしかった。

僕の大切な半身。

誰よりも大切で、僕がずっと守ると決めていたのに、、


「ふんふん~♪」

ご機嫌でお茶を飲むリリィをため息と共に見つめる。

何でも僕に話していたリリィが、まさか、僕に隠し事をするなんて!!

思ってもみなかった事態に想像以上にショックを受けていた。

「はぁ。」

僕はもう一度深くため息をついた。


そんなモヤモヤした気持ちを隠しながら、僕達の社交デビューの日がきた。

薄いピンクがかったオレンジのドレスのリリィはいつもより大人びていた。僕もリリィに合わせ、白の衣装の中に同じ色の縁取や色味を時々混ぜている。

ワクワクしているリリィに苦言をしたが、軽く流されてしまう。


リリィは、中身はちょっと変であまりレディらしくないけど、見た目はとても可愛いと思う。まぁ、同じような顔だし誉めるのもおかしな気分なんだけど。

この祝賀パーティーで変な奴に目をつけられないように見張っておかないと!

という僕の思いは、あっという間に崩れてしまう。


・・なんなの?令嬢達の群れって!強引で空気の読めなさにいらっとする。

さっと寄ってきたかと思うとさりげなく腕を取られ、気付いたらリリィから引き離されていた。

特にハンガリン公爵令嬢が強引でなかなか僕から離れない。

こういうしつこい女は大嫌いだ!

あまりにムカついたら、少しきつく離れるようにいうと、目を潤ませてどこかへ行ってしまった。

やれやれ。


ようやく解放されて、飲食スペースにいたリリィのそばに戻ろうとしたが、そのスペースにリリィがいないことに気付く。

キョロキョロと見回してもいない。

僕は慌ててリリィを探し始めた。


さっき、飲食スペースにいたリリィを、貴族男子達が狙っていたことを知っている。

話しかけるタイミングをお互い牽制しあい、また、口を開かないリリィは儚げで一見話しずらい雰囲気もあるため、誰も話しかけていないから安心していたのに!

もしかして誰かがリリィを誘ったのか?


ダンスフロアにいない事を確認して、僕は更に慌てた。

まさか庭に連れ出された?

リリィは人を疑うことを滅多にしない。あまりの警戒感のなさに年頃の令嬢としてどうなのかとも思うが、それがリリィのいいところでもあると僕達家族は優しい目でみていた。

まさか一瞬の隙をつかれるなんて!


庭ではよく男女の語らいがされている。

そのまま品のない人なんかは茂みにいたりする。

リリィはそんな事も知らず、呑気についていったのかも知れない!

リリィを誘い出した人がそんな恥知らずな奴じゃないとはいいきれないじゃないか!


焦って庭に駆け出すと、庭の先にリリィが1人でいるのが見えた。

「リリィ!」

僕の声と姿を確認して、リリィはほっと僕に安心した笑顔をみせた。

僕はその笑顔をみて、何もなかったようだと安心する。

でも、庭の事を話して聞かせると、少し顔を青ざめさせたかと思うと顔を赤らめる。

その赤らめた顔が今までみたことのない表情で、僕は、やっぱり面白くなかった。


「リリィ!踊ろう!」

僕が手をとり、ダンスフロアでダンスを始めるとあっという間にいつものリリィだ。

楽しそうに笑いながら僕とダンスを踊るリリィをみて、回りが感嘆の声をあげる。


先程リリィを狙っていた貴族達や、先程の公爵令嬢も此方をチラチラ見てくれ話しかけるタイミングを見計らっているのがわかる。


はぁ。いつまでも、こうやってリリィと手を繋いでいられたらいいのに。

僕はリリィを見ながら思った。

ずっと一緒だった僕達なのに、少しずつ、違う世界が出来つつあることに僕は気付く。


僕もこれから、父について登城したり、仕事の手伝いを始めることになるだろう。

リリィも、僕の知らないうちに、内緒の世界を少しずつ作っていってるようだ。


・・寂しいなぁ。

僕は少し月をみあげた。


でも、そのパーティーの夜、

「…一緒に寝てもいい?」

そう言って、猫のリリィが僕の部屋にやってきた。

「いいよ」

僕が仕方なさそうに返事すると、パタパタと嬉しそうにしっぽを振って、リリィがベッドに潜りこんできた。


「パーティーは色々あって疲れちゃった。ユーリも他の令嬢の相手をしたりしていて、少し大人びて見えて寂しかったわ。」

そう言うリリィの言葉に僕は驚いた。

僕だけじゃなく、リリィも同じ寂しさを感じていたことに、安堵を感じる。


「僕もだよ。でも、僕達はずっと一緒だよ」

そういうと、ふふふと笑って、リリィはしっぽをパタパタ振りながら甘えてきた。

リリィのふわふわの毛並みを撫でていると、いつの間にか眠気を感じる。


もう少し、もう少しだけ、こうして二人の世界でいたいなぁ。


でもきっともうすぐ僕達は別々の道を行くんだろう。


いつまでも子供ではいられないのだから。


僕は寂しさも抱きしめるように、猫のリリィと一緒に布団にくるまった。


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