01 2つの呪い
…今夜は満月かぁ。
私は部屋から、高く昇る綺麗なお月さまをみていた。
あまりに綺麗で、外が明るくみえるのでワクワクした。
「…えへへ。ちょっとだけ~」
そういうとするりと窓から飛び降りた。
自慢のしっぽがふりふり揺れた。
「成功!!」
無事に地面に着くと、風をなびかせ走る。
ぴかぴかの銀色の毛並みもふわふわ風にそよいでる。
灰色がかったピンクの瞳とピンっと張ったお髭を気持ちよさそうに揺らす。
そう。私は猫だ。
いや、正確には猫じゃない!
れっきとした侯爵令嬢だ。
でも、深夜から早朝にかけて猫の姿になってしまう。
私は呪われているのだ。
調子にのって、少し遠くまで来てしまったらしい。
猫の姿の時に家の敷地内から出たのは初めてだ。
敷地を抜け少し走ると、林があった。
いっちゃえーと、林をゆっくり進むと、開けた小さな草原があらわれた。
大きなまん丸のお月さまの下、お花達がゆらゆら揺れる様子がとても綺麗で、つい声が漏れる。
「キレイ…」
「キレイだ」
・・・?!
誰もいないはずなのに、同じタイミングで自分以外の声が聞こえたことに驚いて警戒する!
どこから?
ふーっとしっぽと毛を逆立て回りをみていると、
「…驚いたな」
そんな声が足元から聞こえてきた。
足元をゆっくり見ると、
生い茂る草の陰から、小さな緑色の蛙が出てきた。
その蛙が喋っているのだ。
「…かっ!蛙が喋ってるー!!!」
私は驚きのあまり飛び上がった。
「猫が喋っているのも変だろう。お前、バカなのか?」
そんな私の様子に呆れたように蛙がいった。
「しかもこの蛙、むかつくー!」
私はしっぽをバシバシと上下させた。
しかしそんな私の怒りなど無視して、蛙が不思議そうに見上げてきた。
「…お前も人間なのか?」
その言葉に私もびっくりする。
「…あなたも人間なの?」
猫と蛙の視線が交わる。
「まさか、同じような呪いを受けている人間が他にもいるとは思わなかった。」
そう呟く蛙に、私も!と同意する。
人間が動物に変化するなんて世界中探しても私だけだと思ってたわ。
だって、お父様は密かに、それでも必死に原因と解き方を探してくれている。でも原因はさっぱりわからないのだ。
「いつから呪われてるんだ?」
そんな蛙の声に私は不思議そうに答えた。
「私は生まれた時からよ?あなたは違うの?」
その言葉に蛙は、
「…俺は4歳の時に呪われた。でも、解き方は必ずあるはずなんだ。」
その言葉に私はますます驚いた。
「ええー!解けるの?凄い!私のも一緒に解いてよ!」
私は嬉しくてぴょんぴょんする。
猫の姿も嫌いじゃないけど、侯爵家の令嬢としては困ってしまう。そろそろ社交デビューの年なのに、パーティーも時間を気にしないといけないし、このままじゃ結婚も出来ないじゃない。
何より、お母様とお父様がとても心配していることを私は知っている。
「それがわかればとっくに解いてるよ。」
バカにしたような目で蛙が私をみてきた。
…この蛙、本当に偉そうでむかつくー!
「でも、ここでお前と会えたのは何かのきっかけになるかもな。お前、名前は?」
そんな偉そうな蛙に、私は、つんっと首をあげて、
「レディに名前を聞く前に自分が名乗るべきでしょう?」
そういうと、蛙が舌打ちしながらしぶしぶと名乗った。
「アローと呼べ。」
・・・本当に偉そうな蛙だ。
でも、初めて出来た動物仲間?だ!仕方ない。優しくしてやるか!でも、身分や正体がバレるのはまずいわよね。
勿論だが、呪いのことは完全な秘密だ。
「リリィよ!」
仕方ないから愛称を教えてやった。両親と弟にしか呼ばせない特別な名前なんだから、感謝してよね。と心の中で呟く。
そうしてると、月が少し傾きだしたことに気づいた。
「いっけない!帰らないと」
人間に戻ってしまうと大変だ。
慌てて帰ろうとした私に、
「…まっ!待てよ」
アローが声をかけてきた。
「また来るか?…別に会いたいわけじゃないが、いや、会いたくないわけでもなく・・」
なんかぶつぶつ呟いてる声がするがよく聞き取れない。
なぁに?と首をかしげると、
「その。また会って、・・・情報交換しないか?」
そうアローが言ってきた。
その言葉に私も頷く。
「そうだね!またここで会おう!」
嬉しくてしっぽがふりふり揺れる。
そんな私をみて、アローは少し笑った。
「でも、毎日は出られないの。夜寝ないことが続くのも辛いし。」
お肌荒れちゃうわ!と心の中で続けた。
私の言葉に、アローは上を見上げた。
「それじゃあ、これからも、満月の夜、ここで会わないか?」
アローの言葉に考える。
満月は2週間に一度くらいだ。
うん!ちょうどいい!
「うん!そうしよう!じゃあ、次の満月のとき会おうね。アローまたね!」
そういって私は帰ろうとして、ふと思った。
「私は猫だから移動は楽だけど、アローはここに来るの遠くないの?」
心配そうな私に、アローはすこしだけふわりと浮いて見せた。
私はびっくりした。
「アロー!魔法使いだったの?」
この国には確かに、魔法を使える人間がいる。でも、その人数は極々僅かな上、国に保護されているので滅多にお目にかかれない。初めてみた魔法に私は本当に驚いたのだ。
「…風を少し操れる。人間の姿で飛ぶことは出来ないが、この小さな蛙の姿なら少し浮くことはできる。だから移動は問題ない。」
私は初めてみた魔法に興奮し、しっぽをブンブンはち切れそうなくらい振りながら、
「アロー凄いね!」
そう目を輝かせると、蛙がちよっと照れたように、まぁな。といって、胸を張った。
でも、蛙が胸を張っても可笑しいだけで、私がクスクス笑うと、結局アローはムスッと機嫌を損ねてしまった。
その様子がまたおかしくて笑いが止まらない。
…笑ってごめんね。
でもおっかしいんだもん!
そして私達は別れた。
次の満月が楽しみだ!
夜がこんなに楽しみになるのは、初めてのことだった。




