招待状
テストと、テストの間を生きている。
電気スタンドに照らされた机に向かいながら、そう考えた。巧は、夏休みに入る前の最後の試練を前に精神をすり減らしていた。
五日間に渡る期末テストは、前日の一週間を含めるとおよそ二週間ほどになる。数字で言えば、たった二週間だが、その間ずっと机に張り付いていないといけないことを考えると生半可な気持ちでは乗り切れない。
勉強とは孤独な闘いである。いくら、本を読んで奮い立たせようが、友達と話して気を紛らわせようが、結局自分が手を動かさなければ、何も始まらない。
自分の勉強の進み具合に、不安を覚えることがある。テストまでの残された時間が少なくなってくると尻に火がつくどころか、焦って何事にも手がつかなくなることもある。
巧は受験を経験しているので、いくらか耐性はついていると思っていたが、それでもこの寿命が削られるようなプレッシャーからは、逃れられない。
結局、亡霊のようになりながら、午前二時、巧はベッドになだれ込んだ。
次の日、重いまぶたを擦りながら、下駄箱を開けると、上履きの上に一枚の紙が乗っていた。
こんなことをしてくる人は、巧の知る限り、一人しかいない。今日は何の用事だろうか。いや、この間見せた小説の件は、結着がついたと思うのだが。
いぶかしがりながらも、突然舞い込んだ非日常を楽しみながら巧は畳まれた紙を開く。
そこには雑だが流麗な文字で、
『放課後、文藝部に来い 夜桜』
とだけ書かれていた。
巧は下駄箱の前に突っ立ったまま、この陳腐な招待状を見つめていた。
そもそも、いつ下駄箱に入れたのだろうか。未だに、自分の下駄箱に原稿用紙を入れ込もうとする夜桜先輩とは鉢合わせしたことがないのでわからない。(巧は鉢合わせしたら相当気まずいと思った。)
昨日の放課後か、今日の早朝かのどちらかである。どちらにせよ、せっせと下駄箱の壁に手をついて原稿用紙メッセージを書いているに違いない。
小説を書く者として、体験は無駄ではないという、巧の論理をうまく利用されている気もしなくはない。