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クリエイト!(その3)  作者: 大塚
夏が始まる
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猫実さん

「どうでしたか」

 いつも通り、お助け部の部室に着くといつも通りポニーテールの小柄な少女が声をかけてくる。

 猫実ねこざねさんー猫実ねこざね 未来みくは、お助け部の部長だ。部員は彼女と巧しかいない。

 巧は二つ並んだ机、猫実さんの隣の席に着く。

「成長はしてるって言ってた」

「へえ、よかったじゃないですか」

 猫実さんが、丸い目をキラキラと輝かせながら喜ぶ。

「ただ、まだまだですね」

 巧は手に持ったままの原稿用紙を見つめる。そうしているうちになんだか、自分の文字が情けないような憎いような気がしてきた。

「まだまだ」その言葉が胸の中で黒く、そしていびつにくすぶり続ける。

「こら、まだ読んでないのにまだまだなんて、いわないでくださいよ」

 猫実さんが怒ってますよーといった感じで頰を膨らませる。

 しかし、巧は少し意外に思った。

「それより、テスト勉強大丈夫ですか?もう、一週間前ですけど、、」

「あっそうか」

 猫実さんが、腕を組んで考え込む。しかし、何かが彼女を引きつけるかのように巧の原稿用紙を見つめている。

「じゃあ、ちょっとずつ読みます」

「ええっ」

「いやだって、勉強の息抜きになりそうですし、それに今、読まないと夏休みになっちゃうじゃないですか!」

「た、確かに」

 猫実さんが、がっつくにつれ巧の方は恥ずかしさがこみ上げてくる。なんなんだこの気持ちは、、、。

「ん」

 猫実さんが手のひらを突き出してくる。仕方なく巧は明け渡して、ため息をつく。読んでもらうことが目的なのに、かかる精神的ダメージが大きすぎて、参ってしまいそうだ。というか、テスト期間中ずっと自分の小説が読まれるのか?

巧は二重に暗澹たる気持ちになってしまった。

「ふむ、なになに、『僕は、、』」

「ちょっと猫実さん?!」

「はっ!」

「いや、『はっ!』じゃなくて、音読しないで!恥ずかしいから!」

 ついに、恥ずかしいと言ってしまった。

「ごめんなさい、つい、、」

「まあいいけど、」

 なんだか上手く踏み込めない。こういう時、上手に和ませたり笑いにかえたりできたらいいのに。巧は自分の不器用さを嫌になる。


 お助け部で過ごす時間の大半は依頼人を待つ時間だ。テスト近くということもあって、猫実さんも巧も勉強をしながら待機する。

 会話はないが、巧にとってはどちらかというと心地よい沈黙だった。

 猫実さんもきっと悪くは思ってないだろうとふと顔をみても、問題を解く真剣な表情には変わりがなかった。


「そろそろ休憩しませんか?」

 猫実さんが提案して、巧もそれに従うことにした。


 真っ白いキャンパスにぶつけた絵の具のように、ガタンという音が、静かな休憩スペースに響く。猫実さんはしゃがんでペットボトルを自動販売機がら取り出す。ふわりと揺れるポニーテール。

 巧はブラックのコーヒーを少し口に入れる。

「巧さんブラックなの?」

「いや、眠気覚ましになるかなとおもって、、、。」

 窓から差し込む、梅雨の晴れ間の陽気に気持ちよさそうに猫実さんが目を細める。

 テスト前のピリついた空気とは、正反対の雰囲気が流れている。

 猫実さんの金色に輝くアップルティーと、空を眺める横顔を見ていた。

 こんなにのんびりしてもいいものか、と巧は質問してみた。

 いいんです、ずっと集中するのは疲れますから。

 驚くほど爽やかな笑顔で、猫実さんはそう答えた。

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