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クリエイト!(その3)  作者: 大塚
夏が始まる
19/118

愛についてカフェで

 映画館が明るくなった。巧は、体がまだ現実の世界に戻ってきていないと感じる。隣にいる猫実さんが軽く伸びをする。彼女と目があって少し恥ずかしい気分になる。嬉しいはずなのに、どこか眩しい。

 カフェでは、夜桜先輩と向き合って、猫実さんの隣に巧は座った。なんとなく、飲み物を選べなくて巧はブラックのままのホットコーヒーを注文した。猫実さんは、ホワイトモカ、先輩はロイヤルミルクティーだった。猫実さんは、カップの上を渦巻いているクリームを飲むときに鼻につけてしまった。定石どうりというか、ベタというか、それが楽しくて巧は声に出さずに笑った。

 「この映画なんですけど、何回見てもわからないです。」

 巧は、言葉を探したがでできた言葉は、思ったより率直だった。

 「む、いい映画なんですけどつかみどころがないというか。」

 猫実さんも、同感のようだった。夜桜先輩もうなづく。それが巧には意外だった。先輩には自分に見えないものが見えているかと思ったのだが。

 「まず、最後の終わり方はどう思うかな。」

 先輩は、出てきた飲み物をまったく飲まずに、スプーンてかき混ぜている。先輩が言っている映画のラストとは、永遠の命の源である生命維持装置を外して、主人公が生きる決断をした主人公が、一人愛する人を思いながら死んでゆくシーンのことだ。

 「『フォーエパー』って永遠の命ではなくて、永遠の愛だったんですね」

 猫実さんが、なぜか意気込んでいる。巧は、逆に「愛」という言葉が胸に刺さって痛い。

 「まあ、そういうことだ。」

 「その選択は、いいと思うんですけど。もし自分が、となると命を呈してまで愛することを選べるかわかりません。」

 巧は、言った後もっと頼りなくなって、ずっと生きてる方がいいと思えてきた。

 「いや、生きていながら愛する道があると思うんですよね。主人公は、永遠の命に退屈していたんだろうけど。」

 なんだか、持論を述べるのが恥ずかしくて、声がどんどん上手く出なくなってくる。愛する道って何か逆に先輩に聞きたいぐらいだ。

「というか、先輩。愛ってなんですかね」

 「なかなか、いい質問だな。」

 「んん、ええ〜。わかりませんよう。」

 夜桜先輩は喜んだが、猫実さんは机に突っ伏して悶えた。

 「優しい気持ち?」

 ひょこりと、起き上がった猫実さんはそう呟いた。なんとシンプルな答えだ。

 「愛すると人は、弱くなる。」

 夜桜先輩はそう言って、やっと紅茶に口をつけた。巧は、思い当たることがあるような気がしてハッとした。

 「その心は?!」

 「ん、心? 言ってみただけだよ。」

 巧は言ってみただけで、人をドキドキさせるのは罪だと思った。

 そんな風に、愛についての話が映画の話よりも盛り上がって止むことがなかった。巧は、改めて特に自分の意見を言うことができなくて、ずっと二人の話を聞いていた。それだけでも楽しかった。女性が愛について真剣に語り合っていると言うのは、何かしら無視できない色気のようなものが漂っていた。


 その夜、結局巧もわからないまま、布団の中で考え込んでしまった。もう一回、映画を観に行こうとふと思った。今度は一人で。愛について考えるために。

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