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私は部屋に呼び出した新兵を送り返すと、机の中から彼の成績書を取り出し、再度内容を確認する。軍の決まりで成績上位者を希望の部署に配属されることになっているのだが、まさか私の部署に希望を出す奴がいるとは思わなかった。アレン・アンダーソン少尉。なんとも不思議な奴であった。
最初は転属させるつもりだった。いくら成績上位者とはいえ、ここでは新兵にやらせることがない。うちに必要なのは、経験豊富なテストパイロットか技術者のみである。ウォーカーの操縦には特筆すべき点があるようであるが、ここにくるのは他所で経験を積んでからが望ましいと、私は判断していた。むしろ、国防隊に入りその腕を前線で生かしてもらった方が国にとっても有益であろう。
結論から言うと、私はその判断を一時保留とすることにした。悪い知らせは早い方が良いと思い、配属初日も今日に彼を呼び出し、話をしてみたのだが……。第一印象はどこにでもいる若者といった感じであった。緊張していることがありありとわかる応対は、新兵の配属が今までなかった部門を預かる身としては新鮮に映った。
なぜ、うちを志望したのか問いかけると、私のファンだと答えた際には苦笑しそうになったが、その後に彼が語った各国のウォーカーの論評については目を見張るものがあった。各国の機体の寸評は的確であり、彼が「想定」する各機体の数値は、コチラで予想している性能値とほぼ一致していたのである。
現在開発中の機体を彼に見せたのならば、どうコメントするであろうか。自分の息子同然である、ガーフィールドを褒められたうれしさもあり、思い付きで現在開発中の改良型のガーフィールドの機体を見せてみると、意外な指摘を受けた。
まだ設計初期段階であり、改良の余地は多々あるのは承知していたが、バーニアの位置と装甲について改良の余地ありとの事だ。彼の指摘は技術的な裏付けは皆無だった。その位置が自然だとか、なんとなくいい気がするとかそのレベルである。だがしかし、頭ごなしに否定するにはどうにも惜しいアイデアであった。
さらには頭部バルカンのアイデア。多少のコストアップにはなるが、まるで使用したことがあるような実感のこもった意見にはかなり説得力があった。テストパイロットにも意見を聞き、有用そうであれば採用を決定してもいいだろう。
彼が技術者であれば、これだけの意見を出せる者を私は放っておかない。惜しむらくは技術的な知識が欠落していることか。いや、逆に考えると技術的な裏付けもなく、あれだけのアイデアを出せる彼のセンスを評価すべきなのか。どちらにせよ、彼の転属を保留するには十分な理由であると、私は判断した。