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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第十二章

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第七十八話 悪ふざけ山ごもり

「にょっひー。二人共数時間ぶりー」


 透人と笑亜は、色々な後始末があるという大人達を残し転移魔法で移動したところ、にやにや顔で待ち受けていた市乃の適当な挨拶に迎えられた。


 透人はその不自然な状況に対して疑問の声をを発する。


「何で白葉がここにいるの?」

「えー? 何でも何も、友達の家に遊びに来ただけだよー?」


 市乃は顎に指を当てて首を傾けながら甘い声で答えた。なんだか白々しさを感じる仕草だった。


 現在地は大きな魔法陣が石造りの床に描かれた部屋。市乃の言葉の通り、笑亜の家でもある組織のアジトの一室だ。

 転移魔法で移動はしたものの、学校に戻ってきたのではなかった。


 行き先は転移する前に笑亜に聞かされたが、その理由は教えてくれなかった。

 わざわざ市乃をアジトに呼んでいるのは、その理由に関わる事なのだろう。


 そうして透人が考え込んでいる間に、笑亜は推測を裏付ける行動をとった。

 風格の漂う、人の上に立つ事に慣れているような雰囲気で市乃に声をかける。


「それじゃあ市乃、あとは頼むわね」

「イエス、任されたっ!」


 笑亜に何かを頼まれた市乃はビシッと格好を決めて敬礼した。

 そして扉を開け、先頭きってずんずんと歩き出す。


「さぁ、明海君。れっつごぉ~」

「え? 何? 何処に行くの?」

「山」


 説明もなく戸惑う透人に返されたのはたった一言。簡潔過ぎて圧倒的に情報が足りない。

 だが後ろを振り返っても、笑亜は小さく手を振っているだけなので何も期待出来ない。


 そこで透人はどのみち拒否権はないだろうと開き直り、応援されているのだと思う事にして歩を進め出した。


 洋風の屋敷から一歩外に出れば、そこは鬱蒼とした森。

 既に深い山中であり、涼しく澄んだ空気が満ちている。しかし同時に、高い樹木により日が遮られ、暗く不気味な印象を受ける。

 そのせいか、出てきたばかりの建物は立派なお化け屋敷にも見えた。以前来た際は外に出なかったので解らなかったが、相当の雰囲気がある。


「うらー。ぼさっとせんで早く来んかーい」


 人の手が入った細い山道の入り口で、目をつり上げた市乃は両手を上げて待っていた。透人が小走りし始めると追いつく前に進んでいく。


 市乃は足場が悪い急な山道を平坦な道のように軽々と登っていった。透人は何とかついていくので精一杯のペースだ。

 市乃が忍者として鍛えているというのは本当の事らしい。


 ある程度登り、ぽっかりと空いた広い空間まで着いたところで彼女は立ち止まる。


「……ねえ、明海君。……ここなら、誰も見てないよ。笑亜もいない」

「ん?」


 その途端市乃の調子が一変した。

 背中を向けたまま、静かに囁くような、それでいてしっかり耳に届く、神秘的な声を響かせる。

 振り返った彼女は今まで見たこともない表情をしていた。


「私が知ってる事、手取り足取り教えてあげるから……二人でいいことしよっか?」


 頬を赤らめ、妙に色っぽいポーズをとってそう言った。

 普段のふざけた態度はそこにはなく、大人っぽい艶やかな雰囲気を纏っている。


 それを見た透人は相変わらずの無表情のまま。


「あー、成程。要するに山の中で忍者の修行って事?」


 納得したような声音で確認をとろうとした。


 すると市乃は石のようにピシリと固まった。

 場にはしばらく、硬直した重い空気が流れる。

 それから市乃は姿勢を直すと、やれやれといった風に肩をすくめてため息を吐く。

 そしてオーバーなアクションをつけながら吠えた。


「いきなり正解言っちゃ駄目でしょうがっ! そりゃこっちも本気にされるとは思ってなかったけど! 『俺には神無月がいるから』って断るのが理想だったけどそれはないにしても! ちょっとくらい付き合ってくれてもいいじゃないですかっ! せめて、せめてノリツッコミぐらいはしてくれたっていいじゃないですかぁっ!」

「いや、やらないけど」


 市乃が長々と叫んだ勝手な理論を透人は冷めた声で一蹴。

 すると彼女は唇を尖らせ、しょうもない文句を言ってくる。


「ぶーぶー。薄情者ー。冷酷人間ー」

「いや、ここに来たのはその為じゃないでしょ? さっさとやろうよ」

「ハニートラップもくのいちの売りなんだけどなー……はいはい分かりましたよ、もう……じぁーあ、さっきの話は置いといて……」


 渋々といった調子の市乃が両手でものを動かすジェスチャーをした刹那、彼女のふざけた態度が消える。


 そして頬を赤らめ、妙に色っぽいポーズをとってこう言った。


「私が知ってる事、手取り足取り教えてあげるから……二人でいいことしよっか?」

「なにこれ無限ループ?」


 透人は無表情の顔を冷たくさせ、不満そうに呟いた。


 この様子では自分が何か言わないと終わらない気がする。

 しかし真面目に付き合うのは面倒だ。

 恥ずかしい台詞も言いたくない。


 なので。


 透人は黙ったまま市乃に背中を向けると、足早に山道を下り始めた。


「ちょっとぉぉぉぉ!! 分かった、分かったから! 真面目にやるから帰らないでぇぇ!」


 直ぐ様飛んできたのは、市乃の感情がこもった必死な絶叫。

 思わず素が出たのかもしれないが、本気かどうかは非常に疑わしい。

 怪訝な目付きをして訊ねる。


「またフェイントかけて天丼やったりしない?」

「やらないから! 我慢するから!」


 市乃はなりふり構わず、懇願するように引き止めてきた。

 彼女のイメージからすると違和感のある、その必死な様子を透人は一応信用する事にした。


「だったら早く始めて」

「イエス、分かりましたっ! ……うぅ~、まだまだ用意してたネタあったのに……」


 その後の市乃は多少冗談めいた発言を挟んではいたものの、本当に真面目にやっていた。


 足腰を鍛える為とひたすら山道を歩かされ、途中の休憩時には身の隠し方や忍び足、縄抜け、ピッキング等の様々な技術を教わる。どうやら筋がいいらしく、初歩的なものはすぐに覚えられた。

 幾つか忍術かどうか怪しいものが混ざってはいたが、技能としては一流だったので細かい事は気にしない方向にしていた。


「はーい。終着てーん」


 市乃が軽い口調でそう告げてきたのは、太陽が傾き木々の向こうに隠れてしまった頃。透人の疲労がはっきり表出してきた頃だ。


 その場所は木製の丸い的がバラバラに設置された広場。

 忍者と的。

 何をする為の空間かは大体分かる。


「最後はこれだぁっ!」


 威勢のいい市乃がどこからともなく取り出したのは透人の想像とは少し違うものだった。

 それは金属製の細長い物体。長さ十五センチ程で先端は鋭く尖っている。

 忍者の武器として有名な手裏剣、中でも棒手裏剣と呼ばれるものだ。


「おぉ、本物だ」

「んっふっふっふ。いいでしょ~? 男のロマンがつまってるでしょ~?」


 心をくすぐられた透人が僅かに弾んだ声を出すと、市乃は自慢げに見せびらかしながら広場の中心へと移動する。

 それから彼女は手裏剣を構え、一見無造作な動作で投げた。

 瞬間、二本目が手中に現れ、再び放った。

 そこから流れるように三本目を放る。

 そして四本、五本と続いた。


 少しの間を置いた直後。

 ココココン、と小気味いい乾いた音が鳴ると同時に、全ての棒手裏剣がそれぞれ異なる的の中心に突き刺さった。


 見事なパフォーマンスを見せられた透人は素直に拍手と称賛を送る。


「おぉー。凄いね」

「はっはっはー。そりゃ費やした時間は一番長いからねー。忍者ショーの出演者にも負けない自信はあるよー」


 称賛を受けた当人は胸を張って高笑いし、本気ともつかない発言の中に確かな自信を覗かせた。

 それから全ての棒手裏剣を回収した後、その内の一本を透人に差し出す。


「じゃあ、明海君もやってみて。でも投げるよりサイコキネシスの方がいいよね? その重さでもいける?」

「……うん、これ位なら大丈夫」


 受け取った棒手裏剣を少し浮かせて確認した透人は市乃へ頷きを返した。


 市乃と入れ替わって的の正面に立ち、集中して狙いを定める。

 親指と人差し指の二本で持ち、投げたりせずにサイコキネシスの力だけで飛ばした。

 棒手裏剣は風を切りながらまっすぐ的に向かっていき、そして中心からややずれたところに命中する。

 現実的には問題ない程度だろうが、外れは外れ。悔しさの残る結果である。

 だがそれはまだまだ成長する余地があるという事だ。こっそり練習する時間を増やそうと決意する。


 しかし市乃は満足げに頷き、更には透人の実力を認める。


「うん。これなら私に教えられる事はないね。という訳で明海君は免許皆伝。おめでとう! でも慢心しちゃ駄目だよ! 今日教えた事の反復練習は怠らないように! ……で、これは餞別ね」

「いや、免許皆伝て早くない? ……まあいいか。うん。ありがとう」


 長い台詞を一息に言い終えた市之は先程投げた棒手裏剣を手渡してきた。

 一度は冷静におかしな点を指摘した透人だが、市乃の発言を本気にしなくてもいいかと思い直すと、餞別を受け取って礼を言う。


 本物の棒手裏剣。貴重な品物に心が動いていた。

 何かあった時は使える武器になるかもしれないが、常に持ち歩くには難しい代物だ。使い道は考えなければならない。


 ただし、それはひとまず後回し。思考の脇に追いやり、ずっと怪しんでいた疑惑を口にする。


「というかさ、山道で足腰鍛えるのはともかく、他にやった色んなやつって需要ある? 白葉は役立ててるの?」

極稀(ごくまれ)に!」

「……だったらさ、俺にはもっと使う機会ないよね?」

「そうだねっ!」


 市乃は腕を組んで胸を張り堂々と言い放った。

 そこまであからさまに開き直られてしまうと、透人としては沈黙するしかない。


 わざわざこんなところまで来たのに意味はなかったのか。

 普通に考えてそうとは思えないが、市乃が絡んでいると絶対に違うとも言い切れないと思えてしまう。


 いくら考えたところで結論は出ない。

 まだまだ透人には市乃及び笑亜の真意は読み取れないようだった。

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