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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第十二章

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第七十五話 SF

 大人二人の日常的であるらしいやり取りが終わった後、四人はそれぞれ異なる行動をとっていた。


 先生は渋々といった様子で倒れた兵士を片手で一人ずつ抱え、邪魔にならない場所に移動させた。笑亜は彼等の頭に手を当て、恐らく魔法か何かをかけている。

 そしてヴァレンはというと、場違いな事に屈伸運動等のストレッチを入念に行っていた。

 それを後ろからぼーっと見ていた透人だが、必要な事だろうと納得して次の事を尋ねる。


「それで、これからどうするんですか? やっぱり正面突破するんですよね?」


 決めつけるような、疑問の形をした確認。彼女の性格からしても最初からコッソリ潜入するとは思っていなかったのだ。

 そしてヴァレンの答えは予想通り、否定ではなかった。彼女はじっくりとストレッチを続けながら応える。


「おう、そうだな。こっからどうするかは……まぁ見てろ」


 ただし動いたのはそれから約一分後だった。

 ヴァレンはストレッチを終えてから、門に向かって数歩進む。

 そして立ち止まった時。先程までとは違った、激しい闘争心を纏う顔でハッキリと唱える。


「召喚、メイス」


 すると空中に一メートル程度の長さの武器、柄の先端に重りがついた鈍器が現れた。

 それを空中で掴んだヴァレンは、今度は無造作に素振りを始めてしまう。


 呑気な様子の透人は作業を終えたらしい笑亜に質問する。


「あれって何やったの? 玄堂君達のとは違うよね?」

「あれはただ自然魔法で手元に呼び出しただけよ。武器自体は至って普通……だったけれど、既に色々と魔改造済みなのよね」


 素朴な疑問をぶつけてみるとそんな答えが返ってきた。

 透人にとって非常に興味深い内容だったので重ねて聞き出そうとする。


 が、話をしている余裕は無くなってしまった。


 唐突に場の空気が一変したからだ。ゾクリという悪寒が体を駆け巡り、反射的に息を呑む。


「さぁて、ぶっ壊させてもらおうか」


 原因はヴァレンから放たれる甚大なプレッシャー。

 透人は空気を重く感じ、圧倒されて一歩下がってしまう。

 ただ、笑亜と先生は慣れているように平然としている。先生の顔にはむしろ呆れの色すら見える。


 それぞれの反応をする三人の前でヴァレンはとうとう動いた。

 武器を持つ両手を大きく振りかぶり、足を一歩引く。

 そして次の瞬間。

 全身が霞むようにぶれ、両手とメイスに至ってはかき消えた。


 次いで発生したのは爆音と烈風。

 重厚な音が轟き辺りが揺れる。


 透人が思わず顔の前にあげていた腕を下ろし閉じていた目を開けると、金属壁には大穴が空いており、向こう側が見えるようになっていた。

 メイスによる一撃で、宣言通りにぶっ壊したのだろう。


 目に見えない程の、尋常でない腕の速度。それに金属の壁すら無理矢理壊す力。

 これがヴァレンの実力。


 透人の感想としては、正直に言うと何が何だか分からなくて実感がわかなかった。


「よっしゃ、行くぞー」


 透人の意識が事態に追いつく前にプレッシャーが薄くなる。

 ヴァレンはメイスを肩に置き、敵地とは思えない足取りで乗り込んでいった。

 色々と後回しにした透人もそれに続き、大穴から内部を覗く。するとそこは、建物が奥の方にぽつんとあるだけで、ほとんどは地面が剥き出しのなにもない荒れた平地になっていた。


 アジトに興味を示してじっくり見ている透人に、後ろから笑亜の警告が届く。


「そこは危ないわよ。もうすぐ本物の歓迎が来るみたいだから」

「ん? 危ないって……今日、俺は戦わなくていいの?」

「ええ。今の貴方では無理よ。今日はゆっくり大人達の暴走を見学してきて」

「見学するのは暴走なんだ」


 そう言った透人だが、今までのヴァレンの行動を思い返して納得した。

 それからは笑亜に従い、大人しく穴から身を乗り出さないようにして様子を窺う。


 しばらくすると、大型の火器を持った、明らかに友好的でない集団が整然とした動きで出現した。

 見張りの兵士とは全く異なる、全身を黒い金属装甲に包んだロボットのような存在だ。

 ただ彼等には奇妙な点があった。

 全員が全員全く同じ体格をしている上に、一糸乱れぬ完璧に揃った動作にはギクシャクとした固さが見られる。


 透人はもしやと思い、霊視で確認してみる。

 その結果、魂は見えなかった。

 つまり本当にロボットなのだろう。それも戦闘用の。


 現代の技術はそこまで進んでいただろうか。というより事前情報と違うのではないか。

 透人は後ろを向いて事情を知っている人物に確認をとる。


「あれロボットみたいなんだけど。テロリストって言ってなかったっけ?」

「今更何を言っているのよ。私達がマトモな仕事を相手にする訳ないでしょう?」

「成程。それもそうか」


 呆れ気味な笑亜の言葉で透人はすぐに納得した。

 背後からは「オイ、聞いてねえぞ」という不機嫌を隠そうともしない声が聞こえたが、その辺りの事情に透人は干渉は出来なかった。


 そうこうしている内にロボット達は統率された動きをとり、自身が創った穴の前に立ったままだったヴァレンを扇状に取り囲んだ。

 しかし彼女には危機感も緊張感もない。飄々と、しかし確かな闘志を纏った顔つきで発言した。


「おーおー、聞いてた通りだ。面白そうなのが湧いてきたな。よし、オレもいっちょ少年に面白いもんを見せてやろう」


 怯えはなく、気負いもなく、不敵な笑みを浮かべて進み出る。


「やっぱあれやるならあれに限るよなー……送還。でもって……召喚、日本刀」


 何を指しているのか分からない独り言はともかく。その後の言葉を口にしたと同時に、手にしていたメイスが消える。代わりに緩い反りと煌めく光沢を持つ日本刀が出現した。

 それを右手で掴むと、左手を前に突き出して挑発するようにクイクイと動かす。


「さっさと来いよ。オレはそんな玩具に遅れはとらねぇぜ?」


 強気で自信溢れる台詞を口にすると同時に、再び凄まじいプレッシャーが発せられた。

 更に遠隔操縦している者が挑発に反応でもしたのか、ロボットの集団は攻撃を開始した。


 現実的な武器群から吐き出される銃弾の雨。簡単に命を奪う、近代的な死の脅威。

 それらに晒されているのは一振りの日本刀を持つ一人の女性。

 普通ならなす術もなく撃ち抜かれるだけだろう。


 しかし透人は、そんな結果は訪れる訳がないと確信していた。

 事実、無数に繰り出される銃弾は彼女に一発も当たらない。


「わはははははははははははははは!」


 ヴァレンが響かせるのは悲鳴どころか痛快な笑い声。

 暴威を振るう筈の弾丸を、彼女は高笑いしながら日本刀で弾き返していた。自分に当たるものだけでなく、向かってくる全てを。おかげで流れ弾は一発も来ない。

 反射。技量。速度。どれもが桁外れ。

 当然手の動きは見えない。

 一般的な感覚が麻痺してくる。遠く離れた敵の攻撃よりも、味方のプレッシャーで冷や汗をかく。


 金属音、発砲音、それらに負けない笑い声。

 引き延ばされて永く感じた時間、ひたすら続いたそれが、唐突に止んだ。


「どうした、もう終わりか?」


 ヴァレンは覇気を纏い、堂々と仁王立ち。その姿には一つの傷すら見当たらない。

 背中を見せていても不敵な笑みが容易に想像出来る。

 弾切れか、様子見か、沈黙するロボット部隊を余裕の佇まいで見据えていた。


 そんな静寂を破ったのは静観していた先生。彼は不機嫌顔で行動を促す。


「オイ、もう遊びは充分だろ。さっさと片付けちまえ」

「おう? ……まぁ、そうだな。少年ももういいだろ?」

「ん? あー、はい。そうですね」


 振り返って確認してきたヴァレンに対し、透人は台詞の意図をいまいち理解していなかったがとりあえず肯定しておいた。

 すると彼女は二言唱え、新たな装備を呼び出す。


「召喚、盾」


 現れたのはヴァレンの身長程もある大きな盾。

 そしてその盾を構えると、扇の右端に向かって真っ直ぐ突撃していった。

 遅れて撃ち出された銃弾を弾きながら、自動車のような勢いで体当たり。正面にいた一体を豪快に吹っ飛ばした。

 そして陣形の背後をとったところで跡を残しながら急ブレーキをかけ、直ぐ様方向転換。ロボット二体の間を駆け抜け様、日本刀を用いてその二体を真っ二つに斬り捨てた。

 それからは盾で身を隠しつつ、急ブレーキと方向転換そして斬撃を繰り返していった。

 銃弾は盾で防ぐまでもなかった。高速で駆け回るヴァレンに狙いが定められていなかったからだ。

 彼女は死を全く寄せ付けずにロボットを一刀の下に斬り伏せていく。

 銃火と剣閃が幾度も煌めき、銃声と金属音、それに高笑いが耐え間なく響く。

 ロボットは見る間に数を減らしていくが、ヴァレンにはやはり傷一つつかない。


 現実感の乏しい光景に驚愕しながらも透人は戦慄する。

 盾で銃弾を防げるのなら、わざわざ日本刀で弾く必要はない。

 あの人間離れした神業は先生のいう通り「遊び」で、透人に見せようとした「面白いもん」だったらしい、と。


 そうして数分という僅かな時間で、ヴァレンは扇形に整列していたロボットを全て破壊し尽くてしまった。


 が、遠くから新手のロボットがやってきているのが見えた。荒れ地を覆う黒い集団は前方に固まっているが、少数の部隊が左右からも近づいてきている。


 前方だけでも先程よりも数が多いが歴戦の女戦士なら大丈夫だろう、と透人は信じる。


 だがしかし、彼女は暴れ足りないのか、透人達を守る役目を放棄して単独行動を始めてしまう。


「猛、後ろは任せたぜ。オレは先に奥に行かせもらう! わははははははは!」

「……チッ、あの馬鹿女が……ったく、仕方ねえ」


 高笑いと共に去っていったヴァレンに任された先生は、悪態を吐きつつ渋々と大穴に踏み込み、張りつめた表情で右を向く。


 そちらからは五体の敵がやってきていて、既に先生に銃口を合わせていた。

 先生はそれに臆する事なく、短く息を吐く。そして一度屈むと、異様に前傾した姿勢で走った。

 地面スレスレを肉食獣のように駆け抜けた跡に、遅れて届いた弾丸が痕を残す。無理な体勢にも関わらず圧倒的な速さだ。

 そうして破壊の嵐を潜り抜け、相手に肉薄。かけ声を発し、立ち上がり様に腕を振るった。


「ハァッ!」


 ロボットに鋭い掌打がクリーンヒットし、仰向けに倒れる。だがそれには傷一つついていない。

 にも関わらず、先生は次のロボットに目を向けていた。

 発砲されるより早く距離を詰め、気迫の雄叫びと共に鋭い掌打を放つ。

 ロボットに損傷は見られないが、それきり動く様子はない。

 先生はその事を確認もせず、弧を描いて三体目の敵の側面に回り込んだ。

 次から次へと狙いを合わせられるより早く移動し、素手でロボットを壊していく。絶えず足を止めない動きで銃口自体を避ける事で、自身より速い弾丸をかわしていく。

 そうしてあっという間に五体のロボットを倒してしまった。


 だがまだ左手にロボットが残っている。

 だから先生は次を見据え、その為の行動を起こす。


 ロボットが持っていた大型銃を拾うと、軽く助走をつけて槍のように投げた。

 ただしそれは投げ槍どころか大砲のような勢いで射出された。

 莫大な運動エネルギーを与えられた銃は左から迫っていたロボット群手前の地面に突き刺さり、爆発が起きたたかのように砂埃をもうもうと巻き上げる。

 その視界がゼロになった空間に、先生は姿勢を低くして突撃していった。


 砂埃の中で何が起こっているのかは見えない。

 しかし経過は見えずとも結果は予想がつく。

 案の定砂埃が晴れた時、問題なく活動していたのは先生だけだった。


 停止したロボットに囲まれつつ目を瞑って呼吸を整えている。

 その顔は汗でびっしょりだった。

 彼が行っていたのは死のすぐ隣をすり抜けていくその身一つを使い尽くした戦い。

 見た目ほど余裕は無かったのだろう。


 力量や経験の差か、その辺りはヴァレンとは違う。

 とはいえあんな人間離れした動きをしている時点でどっちもどっちである。


 安全かつ静かになった空間で、透人は半ば呆然としつつ、何処か達観したような面持ちで独り言を呟いた。


「こっち側、凄いファンタジーだったなぁ……」

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