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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第七章

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第四十一話 相対

「お。よかった、これ無事だ」


 未だに全身が痛む上に、疲れも残っている。

 それでも少しは安らいだので透人は闇の中、手探りで鞄からペットボトルを取り出した。笑亜に貰ったお茶だ。

 散々おかしな用途に使ったというのに鞄には傷一つなく、中身にも被害はない。

 これは硬化の魔法の影響だろうが、もしかしたら他の要因があるかもしれない。

 なにせこの通学鞄はあの学校で買ったものなのだ。制服同様防具仕様の可能性がある。

 お茶を飲みながらそんな考え事をしていた透人に声がかかる。


「休憩中のところ悪いけれど、そろそろ奥へ進むわよ」


 暗闇に慣れてきた目にぼんやりと映ったその影は笑亜。

 いつの間にか姿を消していたと思ったらまた突然現れた。


「神無月。今まで何処にいたの?」

「フフフ。貴方の雄姿を見逃す訳ないじゃない。ずっとここにいたわよ。それどころか貴方の休憩中、その辺に転がってる人達を拘束したりしてたのよ?」

「そんな事してた? いくらなんでも気づくと思うんだけど」

「それは貴方の戦闘を邪魔しないようにしていたせいね」

「あー……透明になる魔法とか?」

「さて、ね。今はテレパシーと魔法の応用とだけ言っておきましょうか。ゆっくりしていると学校に遅刻してしまうもの」


 笑亜は透人の質問にはっきりしない答えを返した後、場違いな台詞を口にして歩き出した。しかし、透人はそれに抗議の声を上げる。


「いや、もうちょっと休んでおきたいんだけど。まだ痛いし」

「だったらこの薬でも飲む? よく効くわよ」

「ん。ありが……とう?」


 透人は笑亜が差し出してきた小瓶を受けとった。栄養ドリンクと同じ位の大きさの透明な硝子瓶に、セットに含まれる絵の具を全て混ぜ合わせた様な酷い色をした液体が半分程度入っている。

 思わずお礼が疑問形になる程に嫌な予感しかしなかった。

 それでも痛みが和らぐのなら、と覚悟を決めて一気に飲む。

 最初に感じたのは意外と甘い味がするという事だった。だが、それはすぐにどうでも良くなった。

 飲み干した途端、みるみるうちに痛みが引き、疲れも無くなったのだ。むしろ戦闘前より良くなっている。絶好調のコンディション。


「……うわ、何これ。よく効くってレベルじゃないんだけど」

「それはそうよ。理事長先生が作った薬だもの」

「あー。そう言えばそんな事言ってたっけ。何? 回復魔法みたいな感じ?」

「ええ、そんなところね。……それじゃあ、問題もなくなった事だし行ましょうか」

「あ、うん」


 組織とそこに所属する人間に改めて感心しつつ体の調子を確認していた透人だったが、笑亜が促してきたので歩き出す。


 先導する笑亜は迷いない足取りで一つの扉まで進み、それを開けた。

 その先は通路。当然無事な蛍光灯があり、多少薄暗くはあるが十分に明るい。

 笑亜はその先へと進みながら顔だけ振り返り、妖しい微笑みを見せてきた。


「それはそうと貴方の戦い方も方向性が決まってきたわね。使えるものは何でも使うっていうのは面白くていいじゃない」

「んー、誉めてるのは面白さなの?」

「フフフ。ところであの危険物は常に持ち歩いているの? だとしたら相当危ない人よ」

「うん。それは分かってる。でもあのサイコキネシスだけで戦おうとしたらああなっちゃってさぁ。まあ、魔法とかで何とか隠せないか考えてるんだけど」


 途中の質問を笑っただけでスルーされた事を意にも介さず、透人は自身を危ない人だと認めた。その後に言い訳じみた内容を話していても否定しなかった事実に変わりはない。

 それに笑亜はキョトンとしたものの、その時間は僅か。瞬時に顔を微笑に戻す。そして実に可笑しそうに笑った。


「フフフ。やっぱり貴方は私達の仲間ね」


 それから幾つかの扉を開き、十字路でも足を止めずに通り抜けていった。笑亜は昨日の襲撃の際に施設内の構造を全て記憶したらしい。

 その間二人は場違いなどうでもいい話をしていたのだが、地下への階段へと踏み込んだ時、笑亜は真剣な声音になった。


「さて、いい加減ここのボスの事も話題にしてあげましょうか」

「ん? どんな人か解ってるの?」

「ええ、情報は揃っているわ。読心に長けたテレパシーの使い手らしいわね。ちなみに、心を読む相手の倒し方は解るかしら?」


 笑亜の言葉に透人はしばし顔を上向けて思案し、考えがまとまると一気に捲し立てた。


「んー。まず、偶然。それから分かってても避けられない広範囲攻撃か、速い攻撃。心を読む力に限界があるならそれ以上の人数で攻めたり、それ以上の遠距離から狙撃したりすればいいし。あと考えずに反射神経だけで戦うとか。えー、他には……」

「あ、もう充分よ。それにしても貴方、漫画の読みすぎじゃないかしら」

「さー、どうだろ」


 自分の事を棚にあげた発言にとぼけた反応を返す透人。長台詞の最中は若干生き生きしていたものの、今は真顔でボーッとしている。

 ま、どうでもいいわね。と笑亜は脱線しかかった話を戻した。


「貴方が言ったように読心にも色々対抗策はあるのよ。けれど厄介な力であるのは間違いないわ。貴方にはまだ荷が重い相手ね。私も他の力を使わないといけないし」

「ん? そうなの? 神無月なら最初にやったみたいにテレパシー使えば一瞬で終わるんじゃないの?」

「それは無理ね。向こうもテレパシーの使い手だもの。耐性があるし、見せた手には対策を立てているわよ。それに何より……」

「何より?」


 溜めを作った笑亜を透人が促す。すると彼女は前を見たまま、しかしそれでもニヤニヤと笑っているだろうと分かる楽しそうな声で言った。


「ボスなのに雑魚と同じ倒し方なんてしたら可哀想じゃない」

「……う~ん。まあ、分からなくはない、かな。うん」


 随分と上から目線な笑亜の言。内容と口調からすると勝利は既に決定事項のようだ。

 それに透人は躊躇いつつ頷く。どうやら消極的ではあるものの同意見らしい。


「そういう訳で私がボスを受け持つから、貴方には周りをお願いするわね。もう貴方にも視えるでしょう?」

「……うん。何か、結構いるね」


 階段を下りきった先の通路。その奥にはいくつかの魂があるのが霊視で確認出来た。しかも、その魂の多くは人間の形をしていなかった。


「えーと、これ全部? 多いし強そうなんだけど」

「貴方なら大丈夫よ。私もサポートするから。それに今回は、バレないように、なんて気にしなくていいわよ」

「ん? 何で?」

「ボスの身柄は組織が預かるもの。どっちみち知ることになるのよ」

「……じゃあ、今までのは?」

「サプライズはギリギリまで隠しておくものよ」

「分かった。そういう感じなんだね」


 透人は笑亜のふざけた様な発言をツッコミもせず平然と受け入れる。大分慣れてきたのだろう。

 重要な作戦会議なのか、どうでもいい雑談なのか。それはともかく話は一旦途切れ、透人は前を見据える。

 笑亜が言う通りならそこが目的地。今回の一件の首謀者がいる場所。


 いよいよ大詰め。

 透人は自然と気が引き締まり、緊張感が高まっていくのを感じる。といっても外見に変化はなく、いつもと同じ無表情。

 無言ではあるが見た目には普段通りのまま、通路の終わりに辿りついた。

 最後に遮るのは様々なオプションが備わっているスライド式のドア。

 数字のボタンは暗証番号、細い溝はカードキー。パネルは指紋認証だろう。厳重なセキュリティがここが重要な部屋だと言っている。

 その重要な扉が二人の目の前でひとりでに開いた。


「あれ、開いたけど」

「今更引き込もっても意味が無いって理解しているんでしょう。折角の招待だもの。応じてあげましょうか」


 笑亜は扉の内側へと歩を進める。罠を仕掛けて待ち構えていても関係ないと言わんばかりにその足取りは軽い。

 透人はというとそこまで気楽にはなれず、警戒してついていった。


 そうして目にしたのは様々な設備や巨大なコンピュータがあるいかにも研究室といった雰囲気の広い部屋。ただし、反対側の壁はガラス張りになっており、その奥にも空間があるのが見える。

 部屋を分断している壁にある扉を潜ると、そこはただっ広い空間だった。奥の暗がりに見える檻以外に物はない。ただ、その檻こそこの空間の異常性を物語っている。

 そして、白衣を着て眼鏡をかけた研究者のような女が立っていた。整った顔立ち。しかし、眼鏡の奥の濁った瞳が台無しにしていた。

 更に傍らには一人の屈強な男が控えている。外見とは裏腹にその顔に生気はない。

 雰囲気からして間違いなく女がボスで男は護衛だろう。

 女は目を見開き、口元を酷く歪めた狂気じみた笑みをして手を広げた。


「ようこそ、私の研究室へ。私の名は忌崎夜霧。もっとも、既に調べはつい」

「小物の名前なんてわざわざ覚えている訳ないでしょう」


 笑亜は台詞に割り込んで挑発した。その顔に微笑みはなく、眼差しは冷たい。

 夜霧は気圧されたのか息を詰まらせ、押し黙る。が、落ち着くと瞳にギラリと鈍い光を灯した。


「……私が小物? そうですか。私の研究の価値が理解出来ませんか。これなんて中々の」

「趣味の悪さをアピールしないで頂戴。只でさえ小物なのにこれ以上は目も当てられなくなるわよ」


 再び笑亜の挑発。

 それに夜霧は顔を強ばらせただけで表面上は冷静さを保っていた。


「……ふぅ、残念です。崇高な理想を共有したかったのですが。選ばれし強者は力無き弱者を」

「下らない演説は止めなさい。巨悪でもない小物の演説なんて聞く価値はないわ」


 三度目の挑発でとうとう夜霧は内から湧き出る衝動に身を任せる事にしたようだ。酷く歪んだ怒りの表情を浮かべ、ポケットから取り出したリモコンを操作した。

 すると奥の檻がギギギと音を立てながら開き、そこから多くの獣が這い出してくる。ほとんどは大型犬だが、数体狼や虎といった狂暴な肉食動物が混ざっている。その獣の群れもまた虚ろな目をしていた。

 それらが主人の前で隊列を組む。

 援軍を得た夜霧は先程より少し余裕を取り戻した顔で語り出した。


「どうです、壮観でしょう? 君達には実験体も部下も奪われてしまいましたが、だからこそ評価しています。どうですか? 私の下に」

「最低辺にいる人間の下にどうやってつけばいいのよ。それ以下なんて存在しないじゃない」


 軍勢を前にした数的不利な状況でもやはり挑発をする笑亜。

 その様子に、ずっと沈黙して成り行きを見守っていた透人は違和感を覚えていた。


「神無月、もしかして怒ってる? いや、俺もああいうの好きじゃないけどさぁ」

「怒っているかどうかはともかく気に入らないのは確かね」

「う~ん。気に入らない、かぁ」


 笑亜が冷たい目つきをしている事をのぞけばいつも通りの会話をする二人。

 その前で夜霧は平静を保ってはいた。とは言え、それはそう装っているだけのギリギリ維持しているような顔だった。むしろ度重なる屈辱によく耐えている方だろう。


「そうですか。覚悟はあるのですね。生け捕りにしてあげられる保証はないんですが」


 夜霧は唇をわなわなと引きつかせつつも挑発的な態度をとる。

 その態度に。

 笑亜の視線の温度が更に下がった。

 氷という表現すら生温い、冷たいとすら感じられない、虚無を宿した瞳。

 夜霧の虚勢を崩し、透人さえ震わせる程の圧倒的なプレッシャーを発して笑亜は告げる。


「まだ身の程をわきまえる気がないのね。いいわ。この"悪夢の女帝"が思い知らせてあげましょう」

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